小売業の現場ではちょっと売上が低下してくると、どうしても発注量を控えめえにして廃棄コストを抑え、利益確保に走りがちとなるバイアスがかかりやすくなります。この行動は目先のコストを下げてくれるかもしれませんが、品切れを増やし、長期的にお客さんを失い、売り上げ低下にもつながってしまいます。顧客本位で考えれば、小売業にとって売り物を切らさないことはまさに基本中の基本と言えます。
お洒落で美味しそうな惣菜屋が閉店 なぜ?
つい先日、自宅の真向いにあった総菜屋さんが閉店しました。個人でやってる小さなお店でした。2-3年ほど営業してたかと思います。
私もたまにお惣菜を買うことがありますが、もっぱら近所の「オリジン弁当」か「スーパー」を利用しており、そのお店でお惣菜を買ったことは一回もありませんでした。
なぜ利用しなかったかというと、入り口のガラス越しに見える惣菜がせいぜい5-6種類しか並んでいなかったからです。ショーケースはいつもスカスカでした。
なぜそんなに品数が少ないのか。はじめから数種類しか作っていないのか、品切れのためなのかはわかりません。ともあれ、食べたいものが決まっているわけじゃないにしても、ふらっと入って5-6種類の中に欲しいものがなかったらがっかりです。
そのお店は、店名もおしゃれなネーミングでした。食材にもこだわっていることがうかがえました。きっとヘルシーでおいしい惣菜を出していたんだとは思います。数年は営業してましたから固定客もついていたのでしょうが、新規客の獲得が難しくて黒字化がなかなかできず、ついに閉店に追い込まれたことが容易に推測できました。
利益確保に走り発注ケチると顧客は来なくなる
さて、「惣菜」や「弁当」といった賞味期限の短い食品を扱っている惣菜店、スーパー、コンビニエンスストア等では、それらが売れ残ると「廃棄コスト」が発生するため、毎日の発注量には細心の注意を払っています。
発注量が多すぎると売れ残りが発生しやすく、廃棄コストがかさみます。逆に少なすぎると、すぐに品切れとなり売り上げ機会を失います。お客さんとしては「食べたい惣菜(弁当)が売り切れだ、他の店に行こう」となるからですね。
サイクルとしては、売れないお店は品数が少なく、棚がスカスカ、品切れが目立ちます。食べたいものが見つからず、客さんの足が遠のく。ますます売れなくなる。悪循環です。
それに対して、繁盛しているお店はいつ行っても豊富に品物が並んでいます。品切れを極力起こさないようにしているのですね。顧客としては選ぶ楽しさもありますし、食べたいものが見つかるからどんどん売れる。結果的に売れ残りも少なく、廃棄コストが発生しにくい。良循環です。
顧客の立場から考えれば、品数豊富で品切れがないのがうれしく、購買意欲をそそります。ですから、お店側としては日々の来店数を予測した上で、十分な量発注しておくべきところ。
ところが、ちょっと売上が低下してくると多くの店舗では発注量を控えめえにして廃棄コストを抑え、利益確保に走りがちです。そうすると、目先のコストは下がるかもしれませんが品切れが増え、長期的にはお客さんを失い売り上げ低下をもたらします。
事業者本意ではなく顧客本意の品揃えをしよう
売上低下に明らかにつながるコスト削減は「節約」ではなく、単なる「ケチ」です。廃棄コストをできるだけ減らすための努力は当然しなければなりません。しかし、売上機会損失をもたらす「品切れ」を起こさないだけの発注は確実に行う必要があります。
一時期、業績不振に陥った高級スーパー、成城石井の再建に力を振るったコンサルタント・大久保恒夫氏(セブン&アイフードシステムズ代表取締役)は“成城石井でも「小売業の基本」を徹底させた”とおっしゃっています。
大久保氏の言う「小売業の基本」には、
「挨拶をきちんとする」
「店舗のクレンリネス(清潔さ)を保つ」
といったことに加えて
「品切れを起こさない」
というルールが含まれています。
顧客本位で考えれば、小売業にとって売り物を切らさないことはまさに基本中の基本でしょう。なにせ「ものを売ること」が本業なのですから。その期待に応えられないお店は顧客の支持を得ることはできません。
顧事業者本位でコスト削減を目指し、むやみに発注量を絞ることはしないようにしたいものです。