ドラマ「孤独のグルメ・シーズン5」放映開始
時間や社会に囚われず幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが、現代人に平等に与えられた“最高の癒し”と言えるのである。
ウェスタン活劇・チックなさすらい感と哀愁漂うイントロミュージックを聞いて、これがあるドラマのオープニングであることを理解する人がいれば、その人はかなりの強者である。
そう、TV東京系列「孤独のグルメ・Season5」が遂に10月2日(金)から始まったのだ。
孤独のグルメは、「月刊PANJA」誌上で1994年から1996年にかけて連載されていた漫画が原作であり、2012年にTVシリーズが始まったことをきっかけに爆発的なムーブメントを起こしている。
ストーリーは、個人事業主として古物商を営む主人公・井之頭五郎(いのがしらごろう:以下、五郎)が、仕事の出先で必ずお腹を減らしてしまい、結果として行き当たりばったりで見つけた店に入り、一人飯を食べる、ただそれだけだ。
原作で五郎が訪れるのは架空の店(モデルはある)だが、TVドラマでは実在する店が舞台となっているため、ドラマ放映の翌営業日からは「孤独のグルメ」と同じメニューを食べるため大変な行列が舞台となった店にできる。
また放映時間が毎週金曜日の深夜0時12分という時間帯からスタートとなるため、放映終了後に食欲を刺激されて夜食を食べ過ぎる人が続出している。
このような現象ゆえに孤独のグルメは「夜食テロ」ドラマとも評されている。
孤独のグルメごっこを体験すべき3つの理由
なんで「普通のおっさんが飯を食べるだけ」のストーリーに、多くの人が熱狂するのかには諸説あるが、忙しくストレスの溜まる毎日で気兼ねなく食べられる1人飯こそが究極の贅沢、という主張に多くの人が共感していることは確かだ。
更にもう一つ特筆すべき点は、五郎が入る店は全て大衆店であり、着飾った高級店に入ることはまずないことだ。
街の回転寿司屋や居酒屋、食堂なんかで「うおォン」と唸る飯と五郎はばったり出会う。
つまり孤独のグルメのドラマ設定は、多くの人にとって「自分も五郎のようにアタリの店と出会えるかも」と親近感が沸くものなのである。
そんなこともあり最近では一部熱狂的なファンの間で、五郎のように一人でランチやディナーを楽しむ「孤独のグルメごっこ」が流行している。
孤独のグルメごっこは、おおまかに以下のルール設定のもとで行われている。
- ⅰ.食べログやRettyの閲覧は禁止。行き当たりばったりの店へ突入せよ!
- ⅱ.同伴は禁止。あくまで孤独の一人飯に徹せよ!
- ⅲ.アルコールは禁止。白米とおかずを心から楽しめ!
- ⅳ.冷めた気持ちは禁止。食を愛する井之頭五郎に成りきれ!
1人孤独に、行き当たりばったりのお店で、米とおかずを腹いっぱい食べること、これが孤独のグルメごっこのルールである。
恥ずかしながら筆者もここ一年間ルールに則って、孤独のグルメを1人密かに行ってきたクチであるが、これがなかなか良かったので読者の皆様にもぜひ一度はやってみることをおすすめしたい。
以下、孤独のグルメごっこを体験すべき3つの理由を提示する。
1)アルコール抜きだから節約して飯を楽しめる
大抵、居酒屋に行くとご飯が食べたくてもアルコールを1杯は必ず頼まないと、非常に気まずい気持ちになる。しかし、孤独のグルメごっこは下戸の五郎になりきってご飯を食べることに集中するため、お酒は必要でない。
アルコールを1杯頼むと、ついつい2杯〜3杯、ついでに4杯目とすすんでしまうものだが、これではお腹がいっぱいになって「飯を食べる」という行為に集中できない。
「居酒屋なのに酒を頼まないなんて失礼だ。」という意見もあるかもしれないが、そこはアルコールで満たさない分、つまみ(おかず)を普段より1〜2つ多く頼めば良いのだ。粗相がないようにしながら、あくまで米とおかずを楽しむのだ。
アルコール代が要らない分、節約することができる。どうしても呑みたければ、家に帰ってから一杯やるとコストは安く済む。
2)意識的に1人の時間が作れて気分もリセットできる
孤独のグルメは、文字通り「一人飯」を楽しむことである。忙しいビジネスマンにとって、1人で意識をオフにする時間は絶対に必要なものである。
一度頭をリセットしなければ創造性は働かず、余裕がなければ人に優しくすることも難しい。しかも腹が減っては戦ができぬ。
普段とは全く違う誰か(五郎)になりきって飯をかっ食らうことは、まさに脳の奥底に眠ったアドレナリンを発散させるのにうってつけの行為なのである。
焼肉屋で旨かったら「うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ」と言ってみたり、お新香が染みてたら「もぐもぐ…うん、これこれ」と脳内でワザとらしく呟いてみて欲しい。
あまりのアホ臭さに、自然と腹の底からバカ笑いがこみ上げるはずだ。貴方が普段抱える悩みもこの時ばかりは消え失せるかもしれない。
3)不効率かつ非合理的な選択の楽しさが理解できる
当サイト・テーマの1つは「効率的にビジネスを行うこと」である。しかし、人という生き物は、効率性ばかり追い求めては何の面白みもなくなる。
飯を食べることは飽くなき生への執着であり、究極の道楽であるため、効率性や合理性ばかり求めることは飯の楽しみを減らすことにもつながる。
現代人はとかく、「食べログ」や「Retty」によって数値化された他人の評価を元に、自分の飯を決めることが慣習となっている。
数値の高い店舗へは当然期待して美味しければ当たり前、数値の低い店には入らないのが当たり前なのだが、「店を選んだ後、美味しいか美味しくないかドキドキする」という楽しみもたまには合って良いはずだ。
不味ければ五郎のように、心のなかで寡黙に「あちゃぁ、またしくじった」と言って終わればよいのだ。
飯の選択を間違っても、ビジネスの選択を間違える時のように命取りなことは何もないのだから。
唯一の欠点は主人公に感化され食べ過ぎること
孤独のグルメごっこをやる際に、1つだけ気をつけなければならないことがある。
それは調子に乗りTVドラマの真似をして、沢山のメニューを頼みすぎることだ。
俳優・松重豊さん扮する五郎は、鬼のように飯を食べる。
昼間から、「大盛りサラダ・いわしフライ・明太クリームパスタ・かつサンド」などあり得ないコンボで五郎は食い漁る。
一度真似をしようとしたが、明太クリームパスタを半分食べたところで腹がバーストしそうになったため、かつサンドは遠慮した。
高血圧症、糖尿病になっては元も子もない。
最後になるが、孤独のグルメごっこをランチでやらせていただいたお店の絶品グルメ写真を貼り付けて筆を置こう。
筆者はここにソースをかけた後「こういうの好きだな。ソースの味って男のコだよな。」と五郎と同じセリフを心の中で呟いた。浅草橋:丸吉吉平
この味噌汁は旨かった。「うまい!なんだこれは!味噌が違うのかな?」という五郎の言葉がつゆと一緒に喉元を通り過ぎた。人形町:築地のマルショウ
非効率で不合理な選択が時には人を豊かにするのだ。と私は信じている。