大塚家具・親子の主張を一人当たり経常利益から紐解く

企業分析

 業績の低迷する家具・小売り大手の大塚家具がお家騒動で揺れている。創業者であり会長の大塚勝久氏と、現社長であり娘の大塚久美子氏の主張はどちらが正しいのだろうか?二人の主張を個々が判断するにあたり「一人当たり経常利益」という指標を参考に覚えておきたい。決着が着く3月27日の株主総会に向けて大塚商会から目が離せない。

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大塚家具の親子戦争 試合は泥沼の様相へ

 家具・小売り大手の大塚家具がお家騒動で揺れている。

 創業者であり会長の大塚勝久氏と、現社長であり娘の大塚久美子氏が、社長の座を巡り骨肉の争いを繰り広げているからだ。

 同社の業績は2003年の731億円を境に低迷し続け、2013年には562億円まで落ち込んでいる。

 2月25日には、まず勝久氏が役員を後ろに従えて異例の会見を開き、久美子氏の社長解任を株主に提案した理由を説明した。

 翌日にはこれに応戦する形で、久美子氏が会見を開き、中期経営計画の発表と同時に、企業改革の必要性を訴えた。

 大塚家具の19%に及ぶ株式を保有し、大株主でもある勝久会長は、3月27日開催の株主総会で長女の大塚久美子社長の再解任を求める株主提案をしている。

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ホームセンター業界の一人あたり経常利益

 今回の経営陣(親子)による争いは、会社運営に関する方針の食い違いが大きな原因となっている。 

 「高級価格・従業員が密着する会員販売」という従来路線を踏襲しようとする勝久氏と、「カジュアル価格・会員制に頼らない販売チャネルの多様化」による改革を主張する久美子氏の主張は水と油だ。

 しかし、数字は嘘をつかない。同業界内(家具取扱小売)で成績を伸ばしている企業と大塚家具を比較すると、大塚家具の業態が利益を稼ぐには不効率なビジネスモデルとなっているかがわかる。

 有用なのが「一人あたり経常利益」による比較である。

 「一人当たり経常利益」とは、「経常利益÷従業員数」により算出されるものであり、「会社の根幹活動である営業活動・財務活動を経て、社員1人当たりが会社にいくらの利益を残せたか」を表す指標である。

 つまり「正味の利益を社員一人ひとりがどれだけ効率的に稼ぎ出せたか?」を映し出す鏡が「一人当たり経常利益」なのである。

 以下、ホームセンターの業態に属する企業の一人当たり経常利益を提示する。

1)ニトリホールディングス

 2014年売上高:3,876億円 経常利益:634.7億円 社員数:8,373人 一人当たり経常利益:758万円

2)DCMホールディングス

 2014年売上高:4,341億円 経常利益:165.2億円 社員数:4,156人 一人当たり経常利益:397万円

3)大塚家具

 2013年(12月決算のため)売上高:562億円 経常利益:10.04億円 社員数:1,769人 一人当たり経常利益:56.8万円

 上記のように大塚家具は社員一人当たり経常利益が、家具取扱小売の業界内では非常に低い。ちなみにニトリの一人当たり経常利益は上場企業内でも上位10%に入り、DCMホールディングスも上位25%内に入る。

 もちろん各企業によって家具の取扱比率は全く違い、わざと一人当たり経常利益が低い人海戦術を経営戦略として選択する場合もある。業種業態によっても一人当たり経常利益は変わる。

 ただし一人当たり経常利益が低いスキームのビジネスを行う場合、売上高を増やし企業規模を拡大させる必要がある。(例:イオン、7&IHD)

 大塚家具の従来モデルによるビジネス展開は、記事の冒頭でも伝えたとおり「ジリ貧」となっており、売上を拡大するか、売上の拡大よりもまず利益を大きくするかしかない。一人当たり経常利益はこのまま行けば更に減ってしまう。

 会長の大塚勝久氏が経営権を掌握し従来の路線を踏襲する場合は、更なる拡大路線についての具体策提示が要される。当然投資(人件費の増大/路線価の高い場所への新規出店)が必要となるので、配当など株主への還元は当面薄くせざるを得ない。売上の大幅拡大を実現させることが、勝久氏にとって必達事項となるであろう。ただし、売上が拡大しても、一人当たり経常利益はさほど変わらないことが予想される。

 現社長であり娘の大塚久美子氏が提示する「中期経営計画の策定」では、売上高の大幅な規模拡大が現実的に難しいことを認めながらも、1)既存路線による新規出店は控えめ2)既存の人的資源で、顧客層も個人から法人へ裾の尾を広げる、3)個人客も富裕層中心からミドルアッパーまで対象を広げる、という政策により、利益率をあげて配当を増額することを目指す姿勢が明らかだ。計画通りに行かなかった場合は、一株当たり経常利益は低価格化により一層落ちてしまう。

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社会のニーズに合わせ変化する者が生き残る

 本稿では中立性を保つために、勝久氏と久美子氏の主張についてどちらが正しいかを指摘することはしない。

 どちらの意見が株主総会で通るにせよ、大きな変化が望まれているのは誰しもが認める点だ。

 3月27日の株主総会に向けて大塚商会から目が離せない。

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