なぜ緊急事態条項で賛成派・反対派は分かり合えないか

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 ”緊急事態条項”とは、大規模な自然災害や他国から武力攻撃を受けた場合に、政府の権限が強化される規定であり、憲法改憲の目玉だ。この論点については、有識者やメディアを巻き込んだ応報論戦が日々行われているが、賛成派と反対派の双方で論点がずれることで、議論の「目的」が失われ、むしろ議論の手段と化している。冷静に双方の主張を見る必要がある。

憲法改正はバカの壁だらけで相互理解進まず

 2003年のベストセラー『バカの壁』で養老孟司氏が著述したように、「話せば分かる」なんてことは現実にはない。

 ましてや、手段が目的と化せば、問題はますますこじれるばかりか、最後には誰も得をしない。

 会社はもちろん、家庭、町内、学校、さらには、世界中の異なる思想や主義、原理をもつ者どうしがお互いに分かり合うのは、人類のテーマである。

 政府与党が中心になって国会で繰り広げる日本国憲法改正の審議においても、有識者やメディアを巻き込んだ応報とも受け取れなくもない論戦が日々行われている。

憲法改憲の緊急事態条項で噛み合わぬ議論

 このところ「安全保障法制」や「集団的自衛権」などのキーワードは広く耳にするが、今回の改憲草案に織り込まれている「緊急事態条項」をご存じだろうか。

 ”緊急事態条項”とは、大規模な自然災害や他国から武力攻撃を受けた場合などにおいて、政府の権限が強化される規定のことだ。※1

 憲法の改正を巡り第2次安倍内閣が最優先で推める草案に書かれた、緊急事態条項の要点は以下になる。

  • (1) 何らかの”緊急時”には、首相の権限が強化される
  • (2) 首相の権限で「国会議員の任期延長」「衆院の解散権」そして「居住の自由や財産権などの基本的な人権」が制限(国民の集会活動も含めて)できる
  • (3) ”緊急時”は、どんな人であれ国民全員が首相の指示に従わなければならない

 緊急事態条項の賛否が分かれる中、賛成派の言い分は概ね次の通りである。

  • a. いまのアジアやロシアの情勢からみて国防策は必須であり、冷戦終結後のアメリカとの微妙な関係を考えれば「軍事的な問題はぜんぶ他人にお任せします」とは言っていられない
  • b. 武装していることを隣国にはもちろん、同盟国がピンチになったときに示しはするけれども、やすやすと戦争に結びつくことなどないし、結びつかないようにしたい
  • c. 現在の憲法は、想定外の事態が起きたとしても緊急の対応ができない。いちいち国会で審議せずに首相の権限だけですぐに対処できるように備えておかなければならない
  • d. 国防のための軍隊だけど、日本国内に巨大地震などが起きた際も首相に権限があればすぐに発動させられる
  • e. 憲法を根底から変えるのではなく、国防について内容を見直すだけ。だから、日本国憲法の基本的な論理はなにも変わらない

 一方、反対のスタンスをとる側の言い分は以下の通りである。

  • a. 戦後、日本の平和が維持できているのは、武器を持たないでいるから。隣国からの脅威があったとしても軍事的に解決すべきではない
  • b. 憲法を変えてしまうと戦争しない保障がどこにもなくなる。軍隊として武装すれば戦争を余儀なくされることだってあり得るし、同盟国が戦争するときに無関係でいられるはずがない
  • c. 首相の権限だけで国民の人権を制限できるようになれば、「国民を守る」と称すれば何だってできてしまう。ファシズムを原動力にした独裁的な権力を許すことにもなり得る
  • d. 自然災害と国防は別の話であり、並べること自体がナンセンス。被災地の状況がわからない首相に的確な判断ができるはずもない
  • e. 武力を持たないのが日本国憲法の基本的な論理。だから、軍隊を作って首相に権限を集るために憲法を見直すのはおかしな理屈だ

 一見すると議論になっているかのようにも思えるかもしれないが、実のところ、まったく論点が噛み合っていない。

 緊急事態条項に関する本来の議論目的は、世界の距離が縮まり、刻々と情勢が変化するなかで「世界の平和秩序を見据えたこの先のニッポンのあり方とは何か」だったからだ。

 緊急事態条項は元来「先進国が主体となった脅威に対する武力の是非」が議論の目的ではない。

 従って賛成・反対派同士で「話せば分かる」日など決して最後まで訪れるはずもなく、このまま平行線をたどるのは、誰の目から見ても明らかだ。

 当の議論メンバーたちが、始めからお互いの論点がずれていることを理解しており、”議論したカタチ”を取っていると見られても仕方がない。

 与党内でも一旦先送りをしたほうがいいという意見が出ているものの、いずれは衆議院、参議院それぞれで3分の2以上の議員の賛否を取り付けた上で、最終的には”国民投票”という形で私たちに問うことになるだろう。

 誰もが自分にとって都合良く聞こえる話、相性のいいものを基準にして物事を選択してしまう傾向にある。

 私たちが選出した国の代表者たちは、少なくとも学生からお年寄りまでが理解できるように目的を説明し、論点を整理した上で、最終的な問いを投げかける義務があることを忘れていないと願いたい。

内容を理解しないで大衆が動くのが一番怖い

 国民投票が間近になれば、あらゆる手段を駆使して国民投票運動が行われる。※2

 とくにマスメディアを活用して狙うバンドワゴン効果は、賛成派、反対派に関わらず大きな期待をよせることになるだろう。

 ”バンドワゴン効果”とは、大多数の人気や支持を得ている情報を流すことで、さらにそれに魅力を感じて選択する人が増える現象をいう。

 論点を明確にしない状態であれば、最後まで賛成も反対も支持しない国民は増え、その結果、バンドワゴン効果の影響を受けやすくなる。

 私たちはあらゆる出来事を教訓にして学ぶことができる。

 それぞれが正しい主張を一方的に伝えたところで問題は解決するはずもない。

 だが、「話せば分かる」ことなどないからこそ、相反する考えを知り、少数の声に耳を傾けることが、この先すべての第一歩なのではないだろうか。

参照元
※1 自民党 日本国憲法改正草案(全文)
https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf

※2 政府公報オンライン
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/200802/3.html

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