駆け出し経営者が仕事を断るのはかなり難しい
起業や副業の駆け出しの頃はとにかくお金も無ければ仕事もありません。
仕事を頂けるクライアントには足を向けては眠れない、という感覚を覚えますし、どんな内容の仕事でも「もらえないよりマシ」という焦燥感が駆け出しの経営者を襲います。
従って、このフェーズにある経営者の姿勢は、往々にして「やらせてもらえることならなんでもやります!」となるものです。
何を隠そう私も同じ状況でした。
立ち上げたばかりのフルーツギフトショップ・肥後庵の売上を上げるために、とにかく自分の名前を売ることと、肥後庵の名称の露出を増やすため、大手メディアに片っ端から記事を寄稿していました。
それでもOKをくれるのは10社の内、せいぜい1社です。OKをくれた会社から言われることは、なんでもやっていました。
結果的にメディア露出は成功し、売上も順調に上がったのですが、そのプロセスを振り返ると、本音ではお断りしたくても、「次から仕事が来なくなるのでは?」という不安で断れないことが多々ありました。
それだけでなく「せっかくこちらを信用して仕事を振ってくれているのだから」という感覚で、相手に気を使ってお断り出来ない、無理に依頼を引き受ける場面もあったと思います。
「仕事を選ぶ」ことは本当の意味で顧客を考えた行動
しかし、最近では私の考え方もかなり変化しました。
会社と自分をある程度露出することに成功し、利益が出ていることもあるのですが、それ以上に、気が進まずに受けた仕事ほど、お互い良い結果を見ることなく終わることを経験知として覚えたからです。
たとえば、私は自分のショップと自分の名前を売るため、大手メディアで記事を書いてきました。
しかし、「私、黒坂が書く理由・必然性のない記事」を気乗りせずに書いても、あまりアクセスが伸びませんでした。
特に相手の都合に合わせて(頼まれて)、これをやろうとした時ほど、この傾向は顕著なものとなりました。
私が執筆にあたり得意とするトピック領域は、
- ・農業やフルーツビジネス
- ・経済や投資
- ・英語
- ・人生論
といったものですが、それ以外の分野を頼まれて書いても、いまいち文章に迫力が宿りません。
もちろん、手を抜いているつもりはありませんが、頼まれて書いた分野についての深い知識がなかったり、人にはない経験をしていなかったので、読者としてもいまいちぐっと来るものがなかったと推測します。
対して、ライター・ジャーナリストとしても、「これが書きたいんだ!」という熱い想いを持って書いた記事はアクセスの桁が違いますし、何より「面白かった!」「ためになった!」と感想や相談を寄せられるものになります。
この経験から私は、本当に相手のことを考えるなら、自分がやりたいことと、クライアントが求めるものを一致させる必要性を痛感することになりました。
お小遣い稼ぎに、やりたくもない事を作業としてやっても、そこには魂は宿らず、ありきたりで面白くない出来栄えになります。
「仕事を選ぶ、時にはお断りをする」という行為は自分のためになるだけではなく、何より、クライアントやエンドユーザーのためになるのではないでしょうか。
上手に仕事を断る能力を身に着けると成長速度が加速する
今でこそ笑い話ですが、昔は私も本気で、「仕事を断ったら、この会社との関係はここで切れてしまう」と思っていました。
しかし、そんな事は起きませんでした。
実際、私は仕事を断ったクライアントさんとも今でも、別の仕事でお世話になっていたりします。それは仕事を上手に断ったからだと考えています。
「すいません、単価が見合わないので見送ります」
正直、これが本音であってもズバリと伝えてしまうと、もう二度と仕事をすることはなくなってしまいます。
ですので、私は仕事を断る時、以下のように伝えることで、相手との関係を円滑に保ちながら仕事を断っています。
「今回依頼して頂き、本当にありがとうございます。申し訳ありません。この仕事は自分の対応可能な分野ではございませんので、御社のお力になるのは難しいかもしれません。
私は○○という分野でこうした実績を出してきましたので、少々方向性が異なる分野であればきっと貢献できるかと存じます。ぜひご検討のほどよろしくお願いします。」
「No, But話法」と勝手に呼んでいますが、「これは無理だけど、こっちなら出来ます」という逆提案です。それにより、「では、こっちの仕事をお願いします」となったことが何度もありました。
起業家やフリーランスは、成長する過程で、いずれ仕事をお断りするフェーズを迎えます。
その時、上手にお断りする能力を身に着けていると、更に成長速度を加速させることができるのではないでしょうか。