「自ら動かぬ・アゲ足取り」社員の有効活用術

節約

 労働人口が減少したニッポン。従来のように自社の評価基準に合わない社員を淘汰しても、新たに発生する採用コストやかかる労力に見合うだけの人材が確保できる保証もない。会社によくいる「アゲ足取り型社員」や「言われないとやらない型社員」にお手上げとならず、彼らをうまく活用できたとしたら、その会社には更に良い人材が集まるようになるだろう。

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既存人材の活用は企業経営の重要ポイント

 労働人口が減少したニッポン。

 仮に会社が短期的な戦力を確保できればいいと割り切ったとしても、中長期でみれば人材不足による業績への影響は避けて通れない課題だ。

 従来のように自社の評価基準に合わない社員を淘汰しても、新たに発生する採用コストやかかる労力に見合うだけの人材が確保できる保証もない。

 そのような環境下、現在の人的資源を活用できるかか否かは、企業経営の重要なポイントのひとつだ。

 だが、現実問題として「指示待ち」「ハラスメント」「規律違反」など、意欲や態度に問題のある社員も含め、組織全体をまとめるのは容易ではない。

 そこで、本稿では個人の能力を最大に引き出し、組織の統制を図っていくために、彼ら”問題児”の心理を考えてみたい。

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タイプ1 会社に怒るアゲ足取り型社員

 会社の業績から事業計画、制度や理念、果ては上司の成績まで、実態と乖離する部分をひとつひとつ見つけ出しては、重箱の隅をつっつくかのように指摘する「アゲ足取り型」社員はいないだろうか?

 物知りでインテリなタイプが多く、本人なりの分析力を駆使して正論を振りかざす。不満の矛先はいつでも会社に向けられており、あたり構わず周囲の社員へ不満の波紋を広げていくのだ。

 しかし「アゲ足取り型」に対する否定行為は逆効果だ。本人自身が会社のやり方に不満があると思っている以上、排除すればするほど、ますますエスカレートするだけだろう。

 「アゲ足取り型」の場合、まずは自分の価値を認めてもらいたい欲求が人一倍強いと疑ってみよう。対話の時間を多く持てばそのうち、次第に本音が出てくるはずだ。本人の「分析力」の高さを褒め、プライドを満たしてあげることが何よりも先決だ。

 本音を十分引き出せたのなら、次に本人の考える「あるべき理想像」とは一体どのようなものなのかを確認しよう。その上で具体的な意見と提案を求めるのだ。きっとそこには何らかの「理」が隠れ潜んでいる。

 さらに戦力として活用するために、本人が実行できる現実的なレベルまで導き、役割を任せて様子をみる。その際は、ひとつひとつのプロセスを評価し、忘れずに本人へフィードバックする必要がある。

 最初から達成不可能な仕事と知りながら、あえて任せることだけはやめた方がいい。事態をこじれさせた結果、ハラスメントとして訴訟に発展するケースもあるので注意したい。

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タイプ2 言われないとやらない型社員

 言われないと動けない社員は、経営者にとって最もイラツキを覚えるにも関わらず、会社によくいる典型的なタイプだ。

 残念ながら、彼らは社会的に大人になりきれていない、と考えた方が良さそうだ。

 すべてが親の庇護の延長線にあり、甘えや依存心が残っているため、成人した現在も自分が世界の中心にいるのが、彼らが自発的に動けない原因だ。

 会社が寛容になれば、彼らの「動かないで許される範囲」はますます拡大する。厳しく突き放せば、事態は好転しないどころか悪化の一途をたどる。上司のマイナス面は、会社のなかで許されるボーダーラインと理解され、良かれと思って受けさせた社外研修は無駄に終わることが多く、教育費用もバカにならない。

 このタイプには共通点がある。自身の長期的なビジョンが漠然としており、具体的なアクションに結びついてない。その結果、自分が動かなくても物事が回る心地よさが優先されるのだ。

 彼らに言われないと動かない真意を問い正しても、それは無駄な努力に終わる場合が殆どだ。対策はいわゆる”アメとムチ”しかない。だが、与えるべき”アメとムチ”は「我々がこうすべき」と考える”アメとムチ”とは、いささか違う場合が多い。

 彼らのアメは「金銭」かもしれないし「休暇」かもしれない。ひょっとしたら「ゲームの時間」ということだってあり得る。反対にムチは「減給」や「降格」よりも、短期的な快楽、逃避ができなくなることかもしれない。まずは”アメとムチ”が何なのかを知ることから始めなければならないのだ。

 長期間を要するチャレンジは効果が薄いだろう。たとえば、1時間ゲームを我慢したら、1時間の自由時間を与えるぐらいの短期から始めた方がいい。「1時間の我慢」が我慢ではなくなり、仕事での喜びや達成感を得られるように導く必要があるのだ。

 同時に今いる「優秀な人材」からの人事マネジメント方針への理解と、十分なフォローも不可欠となる。

 どうか馬鹿馬鹿しいと思わないでいただきたい。これが現実である。

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問題児たちを育てるために必要な環境つくり

 企業では社員の教育研修、現場によるOJTなど、とかく「育てる」ためのカリキュラムに目を奪われがちだが、同時に問題児と言われる各人の個性を活かし事業の競争力を上げるための「環境」作りはさらに重要だ。

 実際の現場事例を紹介しよう。

1)アゲ足取り型社員の育成に成功した事例

 個人情報を多く扱う情報サービス会社において、ボトムアップの環境を整え、事業の可視化を図ることでスタッフが自発的に育つようになったケースをご紹介しよう。

 「アゲ足取り型」タイプの典型的な行動を取る、ある社員が考えていた「あるべき理想像」とは、少人数でシステムセキュリティを強化し、できるだけコストをかけずに個人情報の漏えいリスクを削減することだった。

 実際、会社のネットワークインフラは老朽化が進行し深刻な状態だった。100台以上のサーバーとネットワーク機器を実質2名で管理していくためにも、管理体制を見直す必要があった。

 「アゲ足取り型」の本人は、次々に新たなサービスが始まる中、現場担当者として古いシステムの入れ替え、管理作業のアウトソースなど、サービスの維持管理にかかる投資予算を確認したかったのだ。つまり、攻めだけではなく守りの予算も確保して欲しい、ということだ。

 しかし、彼の作った調査レポートや提案書は会社のトップには届かず、憤りを感じたために会社の理念、事業計画との乖離部分を周囲に訴えていたのだ。

 この企業の場合、新しいサービスを企画する部署とインフラを構築管理する側との連携、組織の間を取りまとめて、バランスを図る組織の体制に問題があった。”営業サイドと製造部門”など、よくありがちな例であろう。

 上司が「アゲ足型」社員からのメッセージに気付いたことを機に、従来のサービス単位だけではなく、事業全体を統括して客観的かつスピーディに評価、意思決定する体制に変革を遂げ、ネットワークインフラの定期メンテナンスはアウトソースされるようになった。

 そして「アゲ足型」社員は社内の中核メンバーとして成長し、関連部署に対しても積極的に情報を提供するように生まれ変わった。

2)言われないとやらない型社員の育成に成功した事例

 二つ目は、WEBサイト制作会社の「言われないとやらない型」社員の事例だ。

 第二新卒で入社した彼の仕事は、更新するインターネットサイトのコーディングだった。指示がなければ何も動けない状態に業を煮やした先輩社員は、苦慮の末、彼に作業マニュアルを書かせることにした。

 結局、マニュアルは先輩社員の指示によって書きあげられ、あらかじめ決めておいた期日にも間に合わなかたった。

 上司が「動けない」理由を問いただしても無反応、人生論を語っても無関心。そのような状態の中、ある会話から彼は美少女ゲーム好きが高じて、自分で想像するキャラクターを書いていることがわかった。

 ”美少女キャラクター”こそが本人の喜びで、仕事は短期的な喜びを満足させるための手段でしかない。仕事で関わるサイトは、ビジネス向けなのでイラストを書く機会もない。

 「採用選考のミスマッチ」とすれば、そこで終わったただろう。しかしその企業は、社内報、総務系の資料、社内マニュアル向けのイラストを自由に書ける仕事を組み入れた。

 始めこそ受け身であったが、彼はそのうちに能動的に社内文書の作成作業に携わるようになり、これまで指示がないと動けなかったコーディングの仕事もこなせるよう成長した。

 このケースは、本人が自身の仕事を通じて、社会に価値を提供することを実感していなかったのが、動けなかった要因だった。第三者の評価を得ることで自信がつき、彼は自ら仕事に取り組めるようになった。

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人材はどんどん限られる 個々に応じた育成を

 ビジネスの世界においても個人の価値感が重要視される現在、自社で働く社員に限って、自分(自社)の価値観にはめられるとは考えないほうがいい。

 働き手の絶対数が足りない今、はじめから会社のビジョンにマッチし、将来を有望視できる人材が入社することのほうがラッキーなのだ。

 マイナビが発表した「2014年中途採用状況調査」によると、企業における中途採用の目的がこれまでの人材流出による欠員補充から、規模拡大を目指したものへと変化したとしている。

 業種によって差はあるものの、およそ7割の企業が求人広告費の増加を示しており、求人広告にかけた企業の経費は1年間の平均で350万円を超え、人材紹介の経費は年間380万円以上、採用1名にかかる求人広告費の平均額は約40万円だった。

 また、広告宣伝費の他にも、人事担当者、配属部署の人件費など、直接的には見えにくいコストは決して安くはない。

 事業の拡大、組織の活性化、平均年齢の維持による総人件費の抑制など、会社にとって新たな人材の採用は重要な生命線だろう。しかし、同時に「入社している人材をいかに活用するか」が抜け落ちてしまっては元も子もない。

 今ある人的資源をどれだけ活用できているかが、個性的なビジネス集団を作り出し、他社との差別化によるアドバンテージを生み出す時代が訪れている。

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