「極真会館」名称利用を巡り分裂し争う親族と弟子達
○○会、○○協会、○○検定
個人で始めた団体が大きくなり、全国周知になるほど拡大することがあります。
世界に空手を広めた大山倍達氏(以下、倍達氏)が創設した「極真会館」は、その代表格と言えるでしょう。
極真会館は1990年代には、全世界で会員数1,200万人を超える巨大な組織となりましたが、1994年に倍達氏は死去。
多くの弟子達が倍達氏の偉業を讃えその教えを伝えるべく、各地で「極真会館」の名称のついた空手道場を引き続き運営していきます。
ここで、倍達氏も生前に予想していなかったであろう争いが、親族や弟子達の問で起こります。
倍達氏は生前、「極真会館」という名称について商標登録しないまま、本部に認定されれば誰でも自由に「極真会館」と名乗って良い状態で広めていきました。
ところが倍達氏の死後、後継者を巡って弟子達や親族の間で分裂がおき、訴訟係争となりました。
ぽっかりと空いていた「極真会館」の商標権についても奪い合いの状況となります。
商標は先願主義なので、最初に出願した倍達氏の三女が、5年がかりで商標登録することに成功しました。そして、弟子達が極真会館の名称を使用することに制限をかけ始めたのです。
商標承継の原則論~三女の商標登録は審判で無効に
もし仮に、倍達氏が生前に商標登録を行っていたら、これらの係争はここまで拗れなかったかもしれません。
団体(会社)の創設者が亡くなった場合、商標権は以下の原則に基づいて継承・相続されます。
生前に個人名義で商標登録していた場合
死後、商標権は相続の対象となるため近親者に相続される。
生前に個人名義で商標登録し、後に団体(会社)に譲渡した場合
商標権は団体(会社)の知的財産として、死後も事業の継続に利用される。
最初から会社・団体で登録した場合
そのまま事業の継続に利用される。
倍達氏の創設した極真会館は、団体(財団法人)として世界的に有名になっていましたが、生前に商標登録はされていませんでした。
倍達氏の三女は空手家ではありませんでしたが、倍達氏の死後商標出願し、登録しました。
そして商標登録後、それまで「極真会館」として活動していた各団体に、商標権の侵害を理由に名称の使用中止を求めたりする訴訟を起こしていきました。
倍達氏の生前から「極真会館」として活動を続けてきた各団体は、当然納得がいきません。
そこで、三女が商標登録した「極真会館」について、特許庁に無効審判を請求しました。
結果、一度登録された「極真会館」の商標登録は無効との審決がおり、三女の商標登録は抹消されました。
無効の理由は、「三女が『極真会館』の名称が強い顧客求心力を持っていることを認識した上で、他の事業者の活動を妨害し、使用料を要求する不正の目的をもって本件商標を出願したと認定され、『極真会館』の名称を使用している事業者が複数いる現状で、それらを一個人に独占させることは社会的相当性を欠くので、公序良俗に反する。」という内容でした。
名称は先に商標登録し承継者を事前に決めよう
このような事態が起こらぬために倍達氏は、自分の亡くなった後、その事業をどうして行きたいか、「事業の成長の段階できちんと見直し、商標登録も計画に合わせてきちんと手当てしておく」べきでした。
生前に事業がうまくいっていても、死後にお家騒動が起こり、分裂してしまうというのは良くある話です。
生前であっても分家やのれん分けなどで争いが起こり、名称の使用を巡ってもめるケースも多々あります。
一旦争いが始まり、「極真会館」ケースのように、後継者を巡って裁判ともなると、大変な労力、時間、お金がかかってしまいます。大切な事業を失速させてしまうような、不毛な消耗戦に発展する場合も多くあります。
あなたが精魂込めて守ってきた事業が、あなたの手を離れた途端にそんな不毛な争いで消耗するようなことがあったら、がっかりですよね。
そこで、事業者の皆さんには、事業の拡大や縮小、継承等、それぞれのフェーズに合わせ、先に商標権を手当てしておくことをお勧めします。
もしあなたが事業承継を考えているならば、この先事業を誰にどうやって引き継いでいきたいかを検討し、子供に継がせたい場合には、先に個人で商標登録しておき、相続できるように準備をしておくべきです。
逆に子供は会社に関係なく、死後に子供が名乗りをあげて、これまで活動してきた団体の活動の邪魔をすることがないように予防したければ、会社(団体)であらかじめ商標登録を済ませておくと良いでしょう。
「極真会館」のように、生前は関与していなかった子供が、同じ名称で事業を始めてしまうことを防止することができます。
先に商標登録しておくことは、生前の分家騒動を予防する上でもメリットもあります。
お店が有名になったところで、弟子がある日突然勝手に独立し、同じ名称で商売を始めてしまうといったトラブルがありますが、先に商標登録しておけば、独立後に勝手に名称を使用することを阻止することができます。
逆に独立した弟子が先に商標登録してしまった場合は最悪です。本家だったはずの創業者が、名称を使用できなくなる場合もあります。
「極真会館」の場合は創業者の大山倍達氏の圧倒的なカリスマ性で、生前は問題なく運用されていました。しかし、内部分裂や継承者争いといった繊細な問題が、いつ何時発生してもおかしくない、リスクを伴った状態で成長していたのです。
早めに商標登録をし、事業の規模に合わせてきちんと知的財産の手当をしておくことは、第三者から自身の事業を守るだけでなく、継承者争いや組織分裂といった内部分裂を防ぐ上でも効果のある、大きな保険となります。