メンタルの不調を訴える人が増える一方、労働諸法はこれらの人々の休職について裁量を各企業に委ねています。従って、企業側がメンタルヘルスが不調な社員を見極め、休職の必要があれば適正なタイミングで本人に伝え、その後のケアを行ってあげる必要があります。そこで本稿はこれらの手順について、詳細に適正な方法をお伝え致します。
見極め難しく負担大きい従業員のメンタル不調
企業規模が大きければ人事スタッフや産業衛生スタッフが悩み、中小零細企業であれば経営者を悩ませる問題の1つとして、メンタルの不調を訴える従業員がいる場合、いつ・どのように休職するよう伝えるべきか?というものがあります。
というのも、労働諸法では民間企業の休職について、それぞれの会社に裁量をゆだねており※、判断は各企業が就業規則などを元に行うのが原則だからです。
一方でストレスチェック制度が始まるなど、事業者に対しては働く従業員のメンタルを損なわないよう、事前の予防責任が課せられるようになりました。
従って、事業主は従業員のメンタルヘルスに取り組むとともに、メンタルヘルス不調の従業員がいるならば、それを見抜いて専門家に診察してもらい、必要ならば休職を検討する必要があります。
そこで本稿は、
- メンタルヘルスが不調な社員を見抜く方法
- 休職のタイミングはいつに決めるべきか?
- 休職が決まった時に社員へ伝えるべきこと
の3点をご説明します。
従業員のメンタル不調を見抜く3つのポイント
社員のメンタル面不調を見抜くには、社員が精神的に健康な時と比較して起こる、3つの変化をチェックする必要があります。
3つの変化とは、
- 1)業務上の変化
- 2)外見の変化
- 3)情緒面の変化
です。
以下、詳細を見てみましょう。
1)業務上の変化
- 遅刻・欠勤・早退が目立つようになった
- 仕事のペースが著しく低下している
- ケアレスミスが目立つようなった
- きちんと整理されていたデスクが散らかってきた
- 同僚・上司とのコミュニケーションがうまくいっていない
メンタルヘルスが不調に成りやすい人は、元来がまじめ、キレイ好き、完璧主義などの傾向を持っています。
仕事で上記のような状況が観察されるようになった時は注意が必要です。
2)外見の変化
- 顔色が悪い
- 覇気がない
- 食欲が明らかに減って痩せる
- 身だしなみに気を使わなくなった
3)情緒面の変化
- イライラしてる様子であることが多くなった
- 否定的な言葉が多くなった
- 以前よりも口数が少なくなったり声が小さくなった
- 何事にも興味を示さず顔の表情の変化が少なくなった
この中で最も重要なのが、遅刻・欠勤・早退といった1)業務上の変化です。
メンタルヘルス不調の早期発見・早期改善のためにも、労働日の9割を下回るような勤怠不良があれば、上司や人事、場合によっては経営者による面談を行いましょう。
面談でのチェックポイントは、「仕事」、「睡眠」、「体調」です。
「仕事」以外の項目で問題があれば、病気による影響(疾病性)を考えて、産業医との面談を行いましょう。
産業医がいなかったり、産業医の訪問が月に1回のみで早急に対応したい場合は、医療機関への受診を促し就業可否の診断書を提出してもらいましょう。
その後も、勤怠不良が改善しなかったり、従業員が医療機関で受診しない場合、受診を拒否をする場合は、再度面談を行い、上司や人事からの命令として受診を強制します。
従業員は企業との契約の中で、自分の体調を管理して労働できる状態にし、事業主からの命令に従う義務があるとされています。
主治医や産業医が医学的に治療・休養が必要かを意見し、その意見をもとに上司や人事が休職の可否を判断します。
休職タイミングはいつ・どのように決めるか?
休職タイミングの決め方は明確です。
医学的に見て、主治医・産業医から休養のため休職が必要と判断され、事業主が休職を決定した時が、従業員に休職を言い渡すタイミングです。
休職に至るまでに、上司や人事は一般的に繰り返し本人と話をしているため、休職について社員は納得してくれる場合がほとんどでしょう。
ただし、「自分は病んでない」「これで休職したらキャリアが台無しになる」などの理由で、休職に納得しない従業員が多いのも事実です。
私達の経験では、こういう場合に2つの方法で納得してもらいます。
1:本人の希望通りに休職をしない方向で調整するが、この段階で「2週間の間の勤怠」を通常に戻すことも同時に約束し、もし勤怠不良がこの期間に生じた時は休職とする。
2:休職の扱いではなく、まずは有給で1〜2週間休み、休み明けの初日に再評価する。有給がない場合には休職の約束をする。
本人は、まだ仕事がやれる、休職すると家族からの視線が恥ずかしい等、複雑な心境を抱えていることは事実です。
従って、「ルールの中で強制して休職にする」のも1つですが、「自分のコンディションが悪く、休みが必要なのだ」という納得感を醸成する期間を設置すると、休職に納得してもらう期間をスムーズに経ることが可能です。
メンタル不良の従業員を無理に働かせると、症状が悪化し、さらに悪い事態を引き起こし、しかも会社がその責任を負わねばなりません。
休職は解雇ではなく、体調を良くして復職するための休養期間であり、体調が改善したら復職できることを伝え、安心して療養に入れるようサポートしていきましょう。
休職と聞くと、どうしても従業員がマイナスのイメージを持ちがちですが、休職は新たに再出発するための手段であることを前向きに伝えることで、従業員と信頼関係を築くこともできるでしょう。
休職が決まった従業員へ事前に伝えるべきこと
休職が決まったら、従業員と事業主の間でトラブルなく、休職期間から復職までを経過させるため、休職前に従業員に伝えることがあります。
1)休職の目的と休職期間の注意事項を本人に伝える
休職を促すタイミングで、休職は新たに再出発するための手段であることを伝えているはずですが、これを再度本人に伝えるべきでしょう。
また、休職期間中の注意事項を伝えることも重要です。
特に近年、休職中に遊びに行った様子をSNSでアップし、職場の同僚の反感をかうケースが多くなっています。
復職後、働きづらい環境を作らないためにも、休職中にやったほうがよいこと、行わないほうがいいことのアドバイスも必要です。
2)休職開始から職場復帰までの流れ・ルールを明文化し渡す
休職開始から職場復帰までの流れ・ルールを明文化し、休職する従業員に渡すことも望ましいでしょう。
パンフレットなど書面で説明するとわかりやすいですし、あとからも見直しやすく、お互いが休職中のルールを確認する上で役立ちます。
パンフレットに入れる項目としては、以下の項目があることが望ましいです。
- 休職中の会社との連絡方法
- 休職中の生活や復職までの生活における決まりごとの説明
- 休職中の給与や傷病手当金
- 休職時や復職時に必要な書類
- 休職可能な期間等
生活における決まりごとは復職に向け、規則正しい生活を送り、それを会社側も把握するために必要です。
病態が安定し、復職に近づいたら、生活リズム表を記入してもらうことも伝えておくと良いでしょう。
また書類上の決まりごとでは、給与や傷病手当金、休職可能な期間など本人の経済面に関することも伝えることで、生活に安心感を与えてあげましょう。
以上、
- メンタルヘルスが不調な社員を見抜く方法
- 休職のタイミングはいつにするべきか?
- 休職が決まった時に社員へ伝えるべきこと
の3点をご説明致しました。
※労働基準法第5条第1項