中小の事業承継における株式評価の方法〜その難易度が高いワケ

事業譲渡

 社長の平均年齢が60歳を越え、あと10年ほど経過すると、中小企業で事業承継ラッシュが始まります。事業承継する企業が非上場企業の場合、株式相続は「取引相場のない株式等の評価」で行われますが、具体的にはどのような算定方法なのでしょうか?また、相続する株式の評価が高い場合の資金調達にはどのような方法があるのでしょうか?考えてみましょう。

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非上場企業の事業承継ラッシュが近々始まる

 日本には休眠会社なども含めると400万を超える企業が存在しています。

 これには個人事業主も含まれており、法人に限ると約170万社、その中で大企業は1万2千社、さらに上場会社となるとおよそ3千5百社に絞られます。

 日本企業の殆どは中小企業なのです。

 さて、最近多く話題に上るのが、こういった中小企業の事業承継です。

 というのも、2016年に日本企業の社長の平均年齢は61.19歳に到達し、中でも70代以上の社長は2011年に全体の19.38%だったのが、2016年には24.12%に到達しているのです。※

 60代の社長が33.99%ですから、70代と合わせると、日本の社長の約60%は60代以上で構成されています。

 彼らがあと何十年も現役であり続けられるか?といえば、現時点の平均寿命(男性80.79歳:女性87.05歳)から考えてみても厳しいところ。

 しかし、親が亡くなった際、上場企業ならともかく、上記のように大半の会社は非上場ですので、親の会社の株式に一体幾らの価値があるのか、想像すらつかないというのが実情です。

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非上場企業の株式相続は「取引相場のない株式等の評価」で行う

 相続税では、非上場の株式を相続するとき、「財産評価基本通達」の「取引相場のない株式等の評価」に基づいて評価することとしています。

 『親が1千万円で設立した会社だから株の金額も1千万円だろう』と考える人が多いのですが、これは大きな間違えです。

 1千万円というのは“あくまで株の取得金額”であって、相続税は相続発生時の時価に基づいて計算されます。

 その時価の計算方法が、上記の「取引相場のない株式等の評価」によって行われるのです。

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「取引相場のない株式等の評価」の計算方法

 「取引相場のない株式等の評価」は、具体的には、まず会社をその規模に応じて「大会社」「中会社」「小会社」に分け、それぞれの区分で定められている計算方法に基づいて評価していきます。

 計算方法は大きく分けて次の4つです。

  • ①純資産価額方式(大会社、小会社)
  • ②類似業種比準方式(大会社)
  • ③①と②の併用方式(中会社、小会社)
  • ④配当還元方式(規模に係らず)

 このうち④配当還元方式は同族株主以外の人が相続した場合の特例なので、事業承継では①から③を使うことが多くなります。

 詳しい計算方法は煩雑なため割愛しますが、おおざっぱなイメージとして、それぞれの計算式は以下の通りです。

  • ①純資産価額方式:「会社の自己資本の部の金額÷発行株数」=1株あたり株価
  • ②類似業種比準方式:事業内容が類似する上場企業の株価や利益額等を基にして計算した金額=1株あたり株価
  • ③併用方式:①と②の計算結果をもとに「①×〇〇%+②×○○%」として計算した金額=1株当たり株価

 となります。

 現金や資産を持ち、利益が出ている会社の株式相続を行う場合、最初に1千万程度だった評価の株式を、数億単位で相続しなければならない場合が生じます。

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相続税支払に必要な資金調達は思ったより辛い

 では、この計算をした結果、思いのほか金額が大きくなり多額の相続税が発生したとします。

 納税は申告期限までに行う必要があり、もし相続財産のほとんどが株式であれば、納税資金はどこからか調達しなくてはなりません。

 この場合、4つの切り口で納税資金を用意することが検討可能です。

1)銀行の融資を活用

 銀行から借りるとしても利息が発生しますし、そもそも貸してくれるか不明です。

2)株式の売却

 株式を売って調達しようとしても、非上場であれば売却自体が難しく、運よく売れたとしても所得税という別の税金がかかる恐れがあります。

3)延納と物納を活用

 一方相続税には「延納」と「物納」という制度があります。

 延納は分割払い、物納は金銭ではなく物品による納税の制度です。ただしこれらの制度には厳しい要件があるうえ、税務署長の許可受けなければなりません。

4)事業承継税制の活用

 また事業承継税制という制度も作られています。

 これは自社株(上場株式を除く)を相続した場合、一定の要件を満たせば相続税の納税を猶予してくれる制度で、自社株の最大8割相当部分に対応する税額が猶予されます。

 ただしこちらも厳しい要件があるうえ、その後の状況によって税額が免除される場合もあれば、利子税含めて支払わなければならない場合もあります。

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事業承継の話は必ず親が元気なうちに始めよう

 いかがでしょうか?

 ここまで読んでいただければ、事業承継はいきなり行えるものではないことが、よくご理解いただけると思います。

 可能な限り親が存命中に事業承継の手はずを整え、相続税の支払準備を始めましょう。

 これらを行うのに早すぎることはないのです。

※2016年 全国社長の年齢調査 東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20170203_01.html

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