経営者のための退職金制度として、すっかりおなじみの「小規模企業共済制度」ですが、今年の春に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律」が施行されたことで、ルールが改正されています。いずれのルール改正も「改良」と言ってよいほど、経営者にプラスの内容です。詳細をご説明いたします。
小規模企業共済制度は経営者の退職金制度
「小規模企業共済制度」とは、小規模企業の個人事業主または会社等の役員の方が事業の廃業や退職した場合に、生活の安定や事業の再建を図るための資金をあらかじめ準備しておく共済制度です。
言い換えれば、経営者のための退職金制度と表すことも可能ですね。
さて、平成28年4月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律」が施行されました。
これに伴い、小規模企業共済制度についても改正がなされたことは、あまり知られていません。
そこで本稿は、契約者貸付の上限の引き上げなど従来よりも利用し易い制度となった、小規模企業共済制度について変更点も踏まえてご説明します。
小規模企業共済制度の概要をおさらいしよう
まずは、小規模企業共済制度の概要を簡単にご説明します。
1)主な加入資格
この共済に加入できるのは、常時使用する従業員が20人以下(小売、卸売業・サービス業では5人以下)の法人役員または個人事業主です。
2)掛金の設定範囲
月額掛金は、1,000円から70,000円までの範囲(500円単位)で自由に設定できます。
支払方法も「月払い」「半年払い」「年払い」の中から好きな方法を選ぶことができます。
非常に柔軟な掛金設定となっていますね。
3)共済金等の受取りルール
個人事業主であれば、個人事業を廃業したり、子供に事業を全部譲渡した場合などに、共済金を受け取ることができます。
また、会社の役員であれば、会社の解散や役員退任の場合に、共済金を受け取ることができます。
また、共済金は、20年以上積み立てていれば、掛金の100%以上の給付が見込めます。
具体例)法人が解散した場合の役員が受取る共済金
- 掛金月額3万円、加入期間20年の場合:掛金総額720万円
- 解約により受け取れる共済金:835万円
小規模企業共済制度に加入するメリットは?
次に、小規模企業共済制度に加入するメリットに触れてみましょう。
1)掛金の支払により生まれる節税効果
小規模企業共済の掛金は、支払った金額の全額を所得税の計算上、所得から差し引くことができます。
所得から差し引くことができる控除の代表格と言えば生命保険料の控除ですが、生命保険料の控除が最大で年間12万円であるのと比較しても、小規模企業共済は最大で84万円で、非常に効果が大きいと言えます。
具体例)所得500万円の人が年額84万円の掛金を支払っていた場合
- 所得税:84万円×所得税率20.42%=171,528円
- 住民税:84万円×住民税率10%=84,000円
これらの控除をトータルすると、1年あたり約26万円の所得税と住民税の節税が可能になります。
2)共済金を受取る時に発生する節税効果
共済金を受取る場合には、退職所得扱いとなる一時金方式と、公的年金の雑所得扱いとなる年金方式がありますが、いずれについても受取時の税負担は低くなります。
3)契約者に向けた貸付制度がある
小規模企業共済の加入者は契約者貸付を活用することが可能です。
借入限度額は掛金の100%程度です。利率は年0.9~1.5%と低く、また面倒な審査等もないため、すぐにお金を受け取ることができます。
いざという時の資金調達元の一つとして、活用できるのは嬉しいですね。
小規模企業共済制度に加入するデメリットは?
メリットがあるということはデメリットもある、ということで小規模企業共済制度に加入するデメリットを説明します。
1)早期解約時は掛け金が100%戻らぬ場合もある
任意に解約したとしても、一定額の解約手当金を受け取ることができますが、契約期間が20年に満たない場合には、解約手当金は払込掛金を下回ってしまいます。
2)予定利率の引き下げが可能性として考えられる
共済金の予定利率は現在1.0%ですが、将来引き下げがある可能性もあります。
過去の変遷を見ても、その傾向がわかります。
- 平成8年4月から加入分の予定利率: 6.6% → 4.0%へ
- 平成12年4月から加入分の予定利率: 4.0% → 2.5%へ
- 平成16年4月から加入分の予定利率:2.5% → 1.0%へ
平成28年の改正で小規模企業共済が良くなった4つの点
さて、冒頭でお伝えしたように、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律」が施行されたことにより、小規模企業共済制度も一部改正となりました。
以下、その内容をお伝えいたします。
1)共済金の受取額が引上げられた
個人事業主等が、配偶者や子供へ事業譲渡した場合や、65歳以上の会社役員が退任した場合の、共済金受取額が引き上げられました。
具体例)会社役員が65歳以上で役員を退任する場合の共済金
たとえば、掛金月額3万円で加入期間が20年間だった時は、改正前が725万円しか受け取れなかったのに対して、改正後は797万円受け取れるようになっています。
2)掛金月額の減額条件が緩和された
掛金を契約途中で減額する場合には、これまで「事業経営が悪化している」等の理由がある場合に限り減額することができましたが、改正後は理由が不要となりました。
より自社の財務状態や、利益配分に関する経営方針に合わせて、掛金の額を合わせられるようになったため、これは非常に大きなプラス要因です。
3)契約者貸付の限度額が増額された
契約者貸付の限度額が1,000万円から2,000万円に増額されました。
資金調達枠が広がったので、これもプラスな内容の改正と言えます。
4)分割共済金の支給回数が増加
共済金を分割で受取る場合、これまで年4回の支給でしたが、改正後は年6回(奇数月)となりました。
これにより、公的年金(偶数月)と交互に、退任後の毎月の安定収入として受取ることができるようになりました。
経営者の退職金としての意味合いが、より強くなった形ですね。
いずれの改正点も、加入者にとってはメリットとなることが多いため、まだ未加入の方はこの機会に加入されることをお勧め致します。
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