経営者間において起こる論争の一つに「ビジネスは仕組みが先か?それとも売上が先か?」というものが挙げられます。確かに日本国内の成功事例を見れば、ビジネスモデルは優れた企業が多いですし、アメリカでは仕組みが優れているとお金が集まりやすいものです。日本の中小企業にとっての現実はどちらを取ったほうが成功しやすいのでしょうか?
ビジネスモデルが優れていれば上手く行く?世の中はそんなに甘くない
会社を興す際には誰もが一度は夢見るであろうIPOによる一攫千金。
日本においても古くはソニーやホンダ、現代ではソフトバンクやユニクロなど、創業者が一代で築き上げた企業が世界的な企業となり、創業者たちは天才経営者としてもてはやされます。
一方で、そのような華々しい成功を収められる例はほんの一握りであり、日本の中小企業の約7割が赤字企業と言われています。
MBAの講義などでは、成功した企業の仕組み(いわゆる「ビジネスモデル」)を分析することもよくあります。
確かに、成功したビジネスを分析すると、そのよく出来た仕組みには感嘆させられます。
しかし、成功企業の例にならって、ひたすらビジネスモデルを考え続けていけばいい、というのは机上の空論であって、ビジネスにはキレイごとだけではない泥臭い部分が多数あり、時にはただガムシャラにやることが、成功する上で不可欠だったりします。
とはいえ、ガムシャラにやれば必ず成功するほど、ビジネスの世界は甘くはありません。
一部の天才的な経営者の中には「とにかく真摯に取り組んだだけだ」ということを言う人がいいますが、そんな言葉を真に受けてはいけません。
ガムシャラにやっているだけに見えて、そこには天才的な市場感覚や人員掌握術があってこそ、成功が存在します。
凡人が天才を表面上だけ真似しても、うまくいくはずがありません。
日本の中小企業は仕組みと売上どちらがまず優れているほうが上手く行く?
中小企業の経営者はとにかく、目先の売上を積み上げることで必死という方がほとんどでしょう。
ビジネスは利益を上げることが正義です。どんなに高尚な企業理念を掲げたとしても、利益を出さないビジネスなど存続ができません。
と、前置きが長くなりましたが、こんな話を先日ある経営者の方としていたときに、こんなことを聞かれました。
「じゃあ、ビジネスをやっていく上で、売上を上げることと、仕組みを作ることのどちらを優先したらいいのですか?」という非常に本質的な質問です。
本音で言えば両方大事なのですが、それでは答えになっていないので、私はこんな風に答えました。
「日本のようにVCやエンジェル投資家から資金調達することが一般的でない場合は、銀行からお金を調達するしかありません。
では、銀行がお金を貸す際に何を見るかというと、結局は決算書のボトムライン、つまり税引き前利益です。
彼らは色々なことを言いますが、結局はここが赤字もしくはちょっと黒字ぐらいの企業にはあまりお金を貸したくないのが本音です。
この状況においては、どんなに素晴らしいビジネスモデルがある、と言ったところで何の意味もありません。日本においては、そういう意味で売上が先なのです。
一方で、アメリカのように投資の仕組みが発達している場合は、目先の売上よりもそのビジネスモデルが持つポテンシャルが全てです。
今は大幅に赤字でも、数年後にそれが100倍、1000倍のスケールになる可能性があるようなものにお金が集まるのです。
そこでは今期の決算書のボトムラインなど気にする必要はなく、ひたすら自らのビジネスモデルを洗練させることに集中する、つまり仕組みが先にあるべきなのです。
さて、ここは日本です。
現実的に考えて、まずは運転資金は銀行からの借り入れに頼らざるをえない場合がほとんどでしょう。
従って、少なくとも2、3年は売上と利益に徹底的にこだわりましょう。
その先のことはとりあえずは考えなくても結構です。将来のための投資も控えましょう。
とにかく売って売って売りまくって、内部留保を積上げ、その決算書を持って、銀行から借りれるだけの資金を借りましょう。
そして、そこからは頭を180度切り替えて、ビジネスモデル、放っておいても利益があがる仕組みを構築することを優先するのです。
そのための設備投資や人材獲得にも、これまで集めた資金で十二分に投資しましょう。
この局面では一時的に赤字になったとしても気にしてはいけません。手元には十分な資金があります。
銀行に見せるための決算書など必要ないのです。目先の利益よりも、将来のための仕組作りが最優先です。
日本で会社を経営するなら覚えておきたい真実
売上が先か、仕組みが先か、という質問にあるべき論で答えれば、私は「仕組みが先」と答えると思います。
しかし、日本において銀行からの借り入れを考えると、最初は売上と利益を優先する、というよりも、それ以外のことを考えるべきではありません。
売上もあげつつ、素晴らしいビジネスモデルも構築していく、というのは相当に難易度が高く、結局投資も中途半端になり、ほとんどの場合で上手くいきいません。
なので、まずは徹底的に売上と利益を上げ、十分な資金を手にした上で、仕組作りに着手するというのが現実的なやり方ではないでしょうか。
ビジネス書などでは、「素晴らしいビジネスモデル」がもてはやされる傾向にありますが、ビジネスの現場はそんなにキレイごとだけでは回りません。
中途半端ことをせず、まずはガムシャラに売上と利益をあげてから仕組み作りを考えたほうが、日本でビジネスを行うなら上手く行くことが多いのです。