インターネットや書店等では、簡単に就業規則の雛型を入手することができます。特にお金を節約したい創業時に、多くの方がモデル就業規則を使って自社の就業規則を作ります。ところが安易にモデル就業規則を使うと、思わぬ落とし穴にハマります。モデル就業規則の安易な使用によるリスクをどのように軽減できるか考えてみましょう。
創業時はモデル就業規則を利用してコスト削減
現在では、インターネットや書店等で、簡単に就業規則の雛型、モデル就業規則を入手することができます。
特に会社立ち上げ時は、コスト削減のために、これらのモデル就業規則を利用して、自前で就業規則を作る方が多いようです。
ただ、モデル就業規則を利用して、就業規則を作成する場合には、十分注意する必要があります。
そこで本日は、モデル就業規則を安易に使うことが危険な、2つの理由についてご説明したいと思います。
業種によって潜むリスクの種類は全く変わる
まず、就業規則を作成する大きな目的の1つに、「会社をリスクから守る」というものがあります。
ここで考えなければならないのが、リスクについてです。企業が抱えるリスクというものは、業種によって異なってきます。
例えば、運送業と美容院では、抱えるリスクは全く異なるものとなります。
運送業であれば配送中の事故、美容院であれば顧客トラブルなど、事業内容によってリスクが大きくなる部分は全く違います。
さらに、同じ業種でも、会社規模、従業員の雇用形態や立地等によって、潜在するリスクは変化します。
しかし、モデル就業規則をよく見てもらいたいのですが、内容が業種を特定して作成されてはおらず、内容も一般的なものです。
先ほどの例えで言えば、運送業では、車両事故に関するリスク対策が必要となってきますが、モデル就業規則では、運送業に潜在する細かなリスクには対応しておりません。
実際にトラブルが起こった場合、就業規則が全く役に立たずに、その結果、何百万円もの損害額が発生してしまう場合もあるのです。
記載した相対的記載事項を取り消すのは困難
モデル就業規則を利用するもう一つの注意点として、就業規則に関して労働基準法では「相対的記載事項」という法律を定めています。
相対的記載事項とは、会社に定めがある場合、就業規則に記載しなければならない事項です。
最も、代表的なものは、賞与や退職金制度、休職制度、慶弔休暇などです。
これらのものは、会社内に「定めがある場合」には、就業規則に記載しなければなりません。
この法律を逆に解釈すると、「定めが無い場合」には、就業規則に記載する必要が生じません。
賞与や退職金制度、休職制度、慶弔休暇などは、元々、事業主に与えられた義務ではないからです。
さらに、仮に、賞与や退職金を支払う場合でも、支給額や支払い方法、対象者等については、会社が自由に決めることができます。
休職制度や慶弔休暇についても、日数や給料の支払いの有無は、会社側が任意に定めることができます。
とはいえ、事業主に法律的な義務の無い事項についても、一度、就業規則に定めてしまえば、従業員の既得権となり、制度の廃止や条件の低下には、従業員の同意が必要となってきます。
モデル就業規則に、休職制度や慶弔休暇が記載されていれば、事業主の方が、「就業規則には、休職制度や慶弔休暇を記載しなければいけないんだな」と勘違いされてしまうケースが十分考えられます。
休職制度や慶弔休暇制度の持つ意味を十分理解して、就業規則に記載するのなら良いのですが、意味もあまりわからず「モデル就業規則に書いてあったから記載しなければいけないと思った」では、会社に必要以上の負担がかかってしまいます。
特に多くのモデル就業規則では、相対的記載事項について、従業員に有利な内容で書かれている場合が多いので、注意が必要となります。
たかが就業規則、されど就業規則でして、よくよく法律を理解しなければ、将来会社の財務に大きな影響を及ぼすことを鑑みた上で、モデル就業規則や雛形は活用する必要があります。