大雪などの天候不良で、公共の交通機関がもし動かなかった場合に、従業員がタクシーを利用して出社し、支払料金を請求してきた際、会社は経費としてこれを受け入れる義務があるでしょうか?結論から申し上げますと、天候不良の際に従業員がタクシー通勤した場合、会社にタクシー代金の支払い義務は生じません。ただし業務遂行上、支払わざるを得なかったものについては、一定の考慮を元に支払うことが望ましいと言われています。
天候不良のタクシー通勤を認めるのは義務?
昨日は低気圧の影響で、東京もみぞれ混じりの雪が積もる天候となりました。
都心を走る電車や地下鉄(山手線や東京メトロ等)は遅延程度で済みましたが、郊外や地方を走る路線は運転見合わせ状態となり、通勤客に大きな影響を与えました。
このように大雪などの天候不良で、公共の交通機関がもし動かなかった場合に、従業員がタクシーを利用して出社し、支払料金を請求してきた際、会社は経費としてこれを受け入れる義務があるでしょうか?
レアケースかもしれませんが、実際にあり得る話のため、知っておいて損はないかもしれません。
交通費支給は労働基準法上会社の義務ではない
結論から申し上げますと、天候不良の際に従業員がタクシー通勤した場合、会社にタクシー料金の支払い義務は生じません。
大前提として、労働基準法では交通費の支給を会社に義務付けるような規定は一切ないため、交通費の上限額や支給方法について、会社は自由な裁量で判断を行って良いこととなっています。
更に雇用契約の締結段階で、会社と個人は通勤にかかる交通費の上限額や支給方法を、お互いの合意にもとづき決定し、契約を締結しています。
ただし、労働基準法の第11条で賃金とは、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」となっており、業務遂行上、当該社員が支払わざるを得なかったものについては、賃金として支払うことが義務付けられています。
大型商談を控えて商談時間を遅延するわけに行かなかった時、出張など業務の一環で予定が組まれた中で、予定を遂行するためにどうしてもタクシーを利用しなければならなかった時など、業務上、会社に不利益を被らせることを防ぐ目的や、やむを得ない理由があって使用する場合は、会社はタクシー代の請求に応じることが望ましいと言われています。(従業員は事前周知を心がける必要がある。)
通常の通勤において社員がタクシーを利用し、その費用を請求したとしても、それが業務の遂行に全く関係がなく、契約の範囲外である場合、会社は応じる必要がありません。
就業規則で通勤と天候に関する基準を作ろう
とはいえ、これらの天候不良が労使問題につながる、大騒動に発展するケースも多々あります。
そこで肝要なのが、就業規則内で「天変地異・天候不良」の際に、社員の「帰宅・自宅待機・自宅勤務の許可」「帰宅・自宅待機・自宅勤務の指示」に関する基準を決めておくことです。
「帰宅・自宅待機・自宅勤務の許可」とは、社員に帰宅や自宅待機に関する判断を一任すること、「帰宅・自宅待機・自宅勤務の指示」とは会社側から、社員に帰宅や自宅待機に関して判断することを指します。
- 「通勤時間帯に警報レベルが◯◯の場合は、自宅待機で有給付与。」
- 「帰宅時に交通機関が乱れる恐れがある時は、早期の帰宅許可で半休付与」
などの基準を明確に設けておけば、無駄な経費が流れることも少なく、社員も天候で通勤を不必要に左右されず、労使交渉トラブルに会社が巻き込まれることも少なくなるでしょう。