よく商品のキャッチフレーズで私達は「顧客満足度」や「何万人が支持した」という意見を強調するキャッチフレーズを見かけます。しかしこの考え方には盲点があります。顧客が商品やサービスを受け取る際にどれだけ我慢を強いられているかを表す概念、「顧客我慢」を見過ごしているからです。東証一部のファッションサイト運営企業で顧客我慢に端を発した騒動の顛末が、良いケーススタディとなります。
消費者の声に罵倒ツイートで応戦した経営者
もう3年ほど前の話ですが、新進気鋭のファッションサイトで洋服を購入した高校生が、以下のようにツイッターでつぶやきました。
「1050円で買った服が、送料手数料入れたら1750円とかまじ詐欺やろ? ◯◯(企業名)。」
これに対して、サイトを運営する企業の経営者は、ツイッターでその高校生を以下のように罵倒し、大きな炎上騒ぎが起きました。
詐欺??ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ。お前ん家まで汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれてんだよ。お前みたいな感謝のない奴は二度と注文しなくていいわ。
結局、ツイッターで騒ぎが起きた翌日に同社の株価は大幅下落、経営者が自らの罵倒ツイートについて謝罪し、消費者はそのサイトでこれからも商品を購入すると意思表示したことで、騒ぎは沈静化しました。
このインターネット炎上事例は、全ての企業にとって非常に良い着眼点を与えてくれるものです。
消費者やクライアントは商品やサービスを購入する際に、満足と同時に全く正反対の感情も抱いていることを教えてくれるからです。
顧客満足の裏にある顧客我慢を拾う必要がある
よく商品のキャッチフレーズで私達は「顧客満足度」や「何万人が支持した」という意見を強調するものを見かけます。
多くの企業は商品が売れた際に、顧客がどれだけ満足したかを調べる顧客満足度調査を行い、その結果が80%〜90%になれば、その商品は良い商品と考えます。
しかしこの考え方には盲点があります。顧客が商品やサービスを受け取る際にどれだけ我慢を強いられているかを表す概念、「顧客我慢」を見過ごしているからです。
顧客我慢が顧客満足を上回り始めると、それは一気に企業の業績を悪化させる要因となってしまいます。
「顧客我慢」という概念は、B・J・パインII 氏と J・H・ギルモア氏による共著[新訳]経験経済という本で、提唱されました。
この本では、顧客満足と顧客我慢の違いを以下のように解説しています。
- 顧客満足:(顧客が得られると期待しているもの)−(顧客が得られたと認知しているもの)
- 顧客我慢:(顧客が本当に求めているもの)-(顧客が受け入れたもの)
「お客様から〜という声を頂戴した結果、◯◯の部分を更に改良しました。」というキャッチフレーズを掲げる企業は、顧客満足と共に顧客我慢を強く意識していると言って良いでしょう。
先ほどのファッションサイトの一例で言うと、確かに通信販売である以上送料がかかるのは仕方がないことであり、しかも1,050円の低単価商品では送料を価格転嫁できないのは明白です。
ただしサービスに対して、潜在的に「送料」という顧客我慢が存在していることを、経営者は拾うことができませんでした。
東証一部上場企業、売上高も当時で年間300億円強を計上するなど、顧客から圧倒的な満足を得ていることが、彼から顧客我慢を見えにくくしていたのです。
結果として、高校生と同じ我慢を強いられている消費者が彼の発言を吊し上げ、事態はより深刻化してしまったのです。
顧客我慢を直視することはチャンスにつながる
最終的に当該ファッションサイトは炎上騒ぎを契機に、その後数年間に渡り送料を無料とし、現在では収支バランスを踏まえて、2,999円以上の商品を購入した顧客の送料を無料とするシステムを導入しています。
顧客我慢を踏まえたサイトの改良が貢献したこともあり、同社の売上高は3年前から更に30%近く伸びています。
顧客我慢について考えることは、自社の既存ビジネスモデルを改良することに役立ち、新規で新たな業界へ参入する際には、既存者達に対して消費者が強いられている我慢を取り除くことで、大きなチャンスを与えてくれます。