ハロウィンの2015年・市場規模は、日本記念日協会によると、2014年のバレンタイン商戦の1080億円を上回る1,220億円に到達すると予測されています。ちなみに2009年にはハロウィン市場規模も560億円程度と今の半分以下でした。なぜ短期間のうちにハロウィンが日本に根付いたのか?そこには「商品を利用することが習慣化」されるために必要な4つのアプローチを担った優れたマーケターの存在がありました。
日本のハロウィン市場の規模は5年で倍となる
10月最後の週になりました。今年のハロウィンは、10月31日(土)が本番で、30日の「ハロウィンイブ」が金曜日となるため、渋谷・六本木辺りの街には思い思いの仮装をした若者たちが繰り出し、お祭り騒ぎとなることが予想されています。
もし仮装して街に繰り出すことはなくても、私達はなんとなくハロウィンに取り囲まれ、結果としてハロウィン気分を味わいます。カボチャとお化けとお化け屋敷の3点セットデザインがあらゆる商品に取り付けられて「ハッピーハロウィン!」と私達に語りかけるからです。
スーパーに行けばオレンジ色をしたお化けかぼちゃはもちろんのこと、ミカンや柿などオレンジ色のフルーツがお化けのシールで仮装して私達を出迎えてくれますし、カップヌードルもポテトチップスもかぼちゃ味で売り込みがかかります。
ビジネス界隈に飽きたらずハロウィンイベントの活用は行政にも広まっています。東京都は今年からハロウィンの季節限定で「HALLOWEEN &TOKYO」と印刷されたカボチャ色のごみ袋を配布し、街のクリーンネスを啓蒙しています。ちなみに東京都が啓蒙のエヴァンジェリストとして選んだのが、年中ハロウィン的ノリのきゃりーぱみゅぱみゅ氏というところも「なるほどそう来たか」という力の入れ様を感じるところです。
このように私達の生活に深く根ざしつつあるハロウィンの2015年・市場規模は、日本記念日協会によると、2014年のバレンタイン商戦の1080億円を上回る1,220億円に到達すると予測されています。
とはいえ10年も遡ると、10月の終わりにこれほど日本全体がハロウィン色に染まっていたかと言えばそんなことはなかったはずです。2009年にはハロウィン市場規模も560億円程度と今の半分以下でした。
日本にハロウィンの習慣根付かせた4つの仕掛
これほど短期間で日本全体がハロウィンにハマることに成功した理由を考えた時に、筆者が思い出したのは『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』というニール・イヤール氏のベストセラー書籍です。
この本は消費者の間で「商品を利用することが習慣化」されるために必要な4つのアプローチを提示しています。
- ①トリガー(きっかけをもたらす)
- ②アクション(行動を促す)
- ③リワード(報酬を与える)
- ④インベストメント(投資させる)
というアプローチです。
巨大イベント・ハロウィンが日本に広まっていった経緯をアプローチの順に見ていくと、ハロウィンが広まる過程が複数の優れたマーケター達が主導して行われたことがわかります。
そのマーケターとは①、②が東京ディズニーランドとユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下:USJ)、③がフェイスブックやツイッターのようなSNS、④が楽天やドン・キホーテを始めとする小売業の人々です。
①トリガー(きっかけをもたらす)
現在の日本におけるハロウィンフィーバーのきっかけを作った最初のマーケターは、紛れも無く「東京ディズニーランド」と「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」です。
彼らの本国はアメリカ合衆国つまりハロウィン発祥の地であり、ハロウィンの楽しみ方を知っている彼らは、1990年代後半(USJは開園当初の2002年)から、まだ慣れていない日本人へハロウィンが主役となるイベントを用意しトリガーを弾きました。
②アクション(行動を促す)
2つのテーマパークは更に消費者へ「アクション」を促しました。彼らは幅広い世代層の消費者に「仮装」と「一緒に祝うこと」への参加を勧めたのです。
例えばディズニーランドでは、夢の世界の外では普通でいたい人々のためにわざわざ「仮装スペース」まで園内に設けて、多くの人に仮装体験してもらうことに成功しました。
夜になれば恥ずかしさも半減、仮装×パレード参加で参加者の多くは最高の興奮を味わいます。一度体験した興奮は少しずつ習慣になっていきます。子供ならなおさらのことです。
③リワード(報酬を与える)
ディズニーとUSJでハロウィンを体験した人々(主に女性層)が次に求める欲求、それは「誰かにこの興奮を伝えたい」というものです。この欲求に対して報酬を与えることに成功したのがフェイスブックやツイッターといったソーシャルメディアです。
自分が非現実の世界で体験した出来事を賞賛される機会をソーシャルメディアは作りました。賞賛された人々は来年もハロウィンに積極的に参加しようと考え、タイムライン上でハロウィンを楽しむ友人たちを見た非ハロウィン参加者達も、年を追うごとに「では私も」と参加していくようになります。
④インベストメント(投資させる)
楽しみ方を知り始めた日本人は、もともと凝り性な特性を持つゆえに少しずつハロウィンに凝りはじめ、少しなら投資してでもハロウィンに参加したいと考え始めます。
ハロウィンでちょっとした手間をかけるところと言えば「仮装」です。ここで「投資させる」アプローチとして、ありとあらゆる仮装衣装の選択肢を提供したのが、インターネットではアマゾンや楽天、実店舗であればドン・キホーテです。
彼らは「他の人とは違うオリジナリティがある」仮装用の衣装の選択権を与えて投資させることで、消費者がハロウィンに参加する価値を高めました。消費者は昨年よりも今年、今年よりも来年、更に進化した仮装でテーマパークや街へ繰り出すことを目指します。
企業同士の有機的な役割分担で新市場を創出
このように複数のマーケターがタッグを組み(意図してか、意図せずしてかは不明だが)消費者へアプローチしたことで、日本におけるハロウィンイベントは短期間で巨大なマーケットを生み出しました。
ディズニーやUSJだけでも、Facebookやツイッターだけでも、楽天やドン・キホーテだけでも、このようなマーケットは作り出すことが出来なかったでしょう。
得意分野の違う企業同士が、有機的に個々の役割を担うことで、新たなマーケットはまだまだ作り出せるのかもしれません。