日本企業の多くが事業承継について真剣に考えねばならない時期に差し掛かっています。この事態を踏まえ、昨年末に発表された税制改正大綱に伴う改正のうち、事業承継税制について大きな改正が行われ、「事業承継税制」納付猶予される税金が80%から100%猶予へ拡大することになりました。適用要件など詳細をお伝えいたします。
差し迫る後継者問題を踏まえ事業承継税制が大幅改正
日本企業の社長の年齢は2016年時点で61.19歳です。
日本人の平均年齢があがっており、「今の60代は若い」とは言われているものの、日本企業の多くが事業承継について真剣に考えねばならない時期に入っているのではないでしょうか。
中小企業約400万社のうち数十万社が後継者不足等で廃業になってしまうという試算も出ており、違う調査を見ると中小企業の約半数がまだ後継者未定というデータも出ています。
このような事態を踏まえ、昨年末に発表された税制改正大綱に伴う改正のうち、事業承継税制について大きな改正が行われました。
お正月で2代目以降の方や後継者の方は、創業者や先代と家族会議をする機会もあったかと思います。
ただ、なかなか話を前に向けることができなかった方も多いことでしょう。
事業承継は話の決着をなかなか付けにくい一大イベントですので、次回お話しする際に今回の改正ポイントをぜひ参考にしていただければと思います。
「事業承継税制」納付猶予される税金が80%から100%猶予へ!
事業承継の中で重要なのが、前代表から新代表への株式の移転ですが、この株式の移転には当然のように税金が絡みます。
未上場である中小企業であっても、株式の換金価値があれば、税金をいくら掛けられようが納めることができます。
ただ、ご承知のように未上場の中小企業の株式は換金性が高くないため、事業承継で株式を移転したのに税金を掛けられて、納めることが大変になるケースがよくあります。
これらの事情を踏まえ、2009年に創設されたのがいわゆる「事業承継税制」と呼ばれる、非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例という税制です。
「事業承継税制」は、非上場株式を次世代に渡した(相続・贈与)場合に、その移転にかかる税金である相続税・贈与税の納付を猶予するという制度です。
こんな夢のような制度があったのか!という方もいらっしゃるかもしれませんが、この制度は今まであまり利用されていませんでした。
理由は、手続きが複雑な割に、納付猶予される税金が80%のみだったためです。結局は一部を納付しなくてはいけないため、あまり利用されていませんでした。
この80%猶予等が2018年度の税制改正で100%の猶予等に変更になりました!
これにより事業承継税制の利用が進むものと思われます。以下、内容を見ていきましょう。
改正「事業承継税制」の適用要件とは?
1)先代経営者の条件
- ①対象会社の代表者であったこと
- ②対象会社の筆頭株主であったこと
2)後継者の条件
- ①対象会社の代表者になること
- ②対象会社の筆頭株主になること
贈与の納税猶予等を受ける場合のみ、後継者が3年以上取締役であることが条件となります。
また後継者は親族外でも対象となります。
事業承継税制を一度スタートさせた場合には、先代経営者以外の人から相続・贈与でもらった株式もこの制度の対象となります。
3)対象会社の条件
対象会社の条件は、中小企業庁に規定する中小企業者に該当すること、都道府県知事の認定を受けることです。
中小企業庁に規定する中小企業者については、以下の表を参考にしてください。
ポイントは資本金の額もしくは従業員の数で判定ができるという点ですので、いずれかが該当していれば中小企業者に該当します。
4)事業継続の条件
- ①後継者が5年間対象会社の代表者であること
- ②5年間対象会社の雇用を8割維持すること
- ③後継者が次世代にバトンタッチ(相続・贈与)するまで、対象会社の株式を保有し続けること
雇用の8割維持は5年間平均で判定されます。
また仮にこの条件が満たせなくても経営状況の悪化や正当な理由があれば、ただちに打ち切られるわけではないようです。
後継者が次世代にバトンタッチする前に売却等をされた場合は、当然猶予された税金は納める必要があり、また猶予期間中の利子(罰金)も納める必要が出てきますので、その点ご留意ください。
いかがでしょうか?
今回は事業承継税制の大枠の概要を説明させていただきました。
事業承継は税金も問題ですが、実際に承継できるかどうかも重要な問題ですので、いずれにせよトータルな問題解決が必要です。