フランスのような有給休暇取得大国と比較すると、日本人はその半分程度しか有給休暇を活用していません。もっとも現実としては、有給休暇を従業員側から完全に消化したいとは言いにくい部分もあります。そんな時は会社側に認められる有給休暇の時期指定権を生かし、有給休暇の計画的付与を行うのはいかがでしょうか?
有給休暇の計画的付与が生み出す経済効果は約12兆円
フランスは有給休暇大国として知られる国です。
たとえば、
- 有給休暇取得率:約93%
- 有給休暇平均給付日数:37日
この数字は、日本の有給休暇取得率は約50%、有給休暇平均給付日数20日と比較して倍近い差があります。※
フランスが有給休暇を取得するきっかけは大恐慌でした。バカンス法を制定し休暇を取ることで、需要が増大し経済が再生され雇用が創出されることを狙ったのです。
日本でも、安倍内閣の働き方改革の一環として、同じように有給休暇を増やそうという取組が行われています。
経済産業省・国土交通省・(財)自由時間デザイン協会の研究によると、有給休暇を完全に取得すると約12兆円の経済活性化効果があるといいます。
従業員が個別に有給休暇を申請しにくい風潮もありますが、繁忙期を避ければ社員が有給を消化したところで、会社に何ら支障のない時期も実際には存在します。
このような場面では、会社が主体となって「計画的付与」を活用することで、有給休暇の取得率を高めることが可能です。
そこで本稿は、有給休暇の「計画的付与」という考え方についてご紹介します。
計画的付与とは?計画的付与を行う有給日数の計算方法
有給休暇の「計画的付与」とは、有給休暇の一部(5日を超える部分)を、会社側が計画的に付与する対象にすることを定めた制度です。
有給休暇のうち5日は労働者個人が自由に使えるようにしなければいけませんが、5日を超える部分に関しては会社が時季を指定し取得させることが認められています。(時期指定権)
計画的付与の制度を使うには、労働組合または労働者の代表者と労使協定を結んで、労働者側の同意を得ておく必要があります。
有給休暇を保有していない入社直後の人がいる場合は、有給休暇の計画的付与で会社全体が休みになって休まざるをえない場合に、新人であっても自己都合での休みではなく、会社都合による休み扱いとなるため、休業補償が必要になります。
では、有給休暇の付与日数のうち、5日を超える部分に関しては、どのように会社が計画的付与を実行することが可能でしょうか?
例えば、下記の様な場合にはどうなるのか考えてみましょう。
- 社員A:入社したばかりで有給休暇が0日
- 社員B:入社して1年で有給休暇の保有日数が11日残っている
- 社員C:勤続年数が長く有給休暇の保有日数が20日残っている
この3人の所属する事業場が、有給休暇の計画的付与のために一斉に休業すると、以下のようにそれぞれの日程で計画的付与が行われることになります。
- 社員A:入社したばかりで有給休暇が0日⇒賃金の60%以上の休業補償が必要
- 社員B:入社して1年で有給休暇の保有日数が11日残っている⇒11-5= 6日が計画的付与の対象
- 社員C:勤続年数が長く有給休暇の保有日数が20日残っている⇒20-5=15日が計画的付与の対象
上記の例で理解できるように、同じ事業場に所属していても、元々の有給休暇保有日数によって、計画的付与で使用できる日数が違います。
また、元から有給休暇を保有していない、もしくは労働者が一斉休業によって休む場合には、休業補償の支払いが必要です。
前年度に保有していたにも関わらず、取得されずに次年度に繰り越しとなった有給休暇がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。
ですから、前年度の繰り越し日数によっては、計画的付与の日数が同期入社の他の労働者に比べて多くなることもあります。
計画的付与を行う代表的な3つのタイミングと
計画的付与の方法にはいくつかありますが、代表的なものとして下記のものが挙げられます。
1)事業場全体を一斉休業する場合
工場等で連休の間にある平日の機械の稼働効率を考えて稼働率の低い日を休みにするケースがあります。
また、ブリッジホリデー(飛び石連休の間の平日に設定した休み)、夏季休暇、年末年始休暇等の大型連休をとる場合があります。
2)グループ別に交代制で休業
期初や月中に経理部門だけ休業する、営業閑散期に営業部門だけが休業する、といった形で計画的付与を行うケースがあります。
3)年休計画表に応じて個人ベースでの付与
会社が労働者個別に、休みの時期を指定する場合もあるでしょう。
どのような形で計画的付与を行うにしても、就業規則等で具体的に明示しておくのが賢明です。
有給休暇の計画的付与は、労働者の心身を健全な状態に保つだけではなく、長期休暇を創出することで社会の経済を活性化させる起爆剤です。
有給休暇の取得義務化が叫ばれている今、計画的付与を充実させることで、社員に充足感をもってもらい、質の高い仕事につなげるのはいかがでしょうか。
※エクスペディア:有休消化率3年ぶりに最下位に!有給休暇国際比較調査2016
https://welove.expedia.co.jp/infographics/holiday-deprivation2016/