人間は建物のわずかな傾きの影響でも不調を感じてしまう、デリケートな身体の構造を持ちます。しかし働く場所については「最低限のスペースがあれば良い」と考える企業が多いのが現実です。そこに目を付けたのが竹中工務店です。竹中工務店は「健築」という概念で、心身の健康増進を考えた空間づくりを研究しています。今回は健康と建物の関係を解説します。
体調不良と建物には因果関係がある?人間のデリケートな身体構造
数年前に建てたばっかりの家が欠陥構造を持っており、ビー玉を置いたとたんに自然と転がっていく。
こんな映像をテレビのニュース番組で目にしたことがありませんか?
ビー玉が転がる角度は約0.6度と言われていますが、一方で、人間が傾きを感じるのは約0.3度。
実は人間はビー玉が転がるよりも半分の角度で傾き感じるのです。
つまり、ビー玉が転がる0.6度の傾きがある場所で人間が生活すると、頭痛やめまいなどを感じるのは当たり前の話。
傾きの角度が2〜3度生じると、めまいや頭痛、吐き気というかなり重い症状が起こり、7度を超えると半数以上の人が睡眠障害を起こすのだそうです。
このように、人間の平衡感覚は意外にも正確で敏感にできています。
職場で働いている時に、「仕事が捗らない」と体調不良を訴える人がいたら、生活環境や仕事をする空間(建物)が傾いているせいかもしれません。
健康になる建物が話題!?竹中工務店の取り組み
これら健康と建物の関係に着目した竹中工務店が、千葉大学予防医療センターと共同で心身の健康を考えた空間づくりや建築、まちづくりに取り組んでいることをご存じでしょうか?
生活習慣病やがんといった病気は予防が大切と言われ、近年では予防医学が重要になってきている背景から、竹中工務店はストレスを緩和する空間や思わず昇り降りしたくなる階段などをデザインし、健康増進につなげるプロジェクトを行っています。
現在、竹中工務店が主に検証しているのは、健康になる建物を目指した研究の中でも、サーカディアンリズム(体内時計)と空間の関係です。
朝の時間帯に太陽光を浴びると、体内時計がリセットされてすっきりした目覚めができることは、皆さんもご存じですよね。
人間の体と光は密接に関係しているため、サーカディアンリズムに合わせて照明を変化させることできる空間が、どんな影響を与えるかを実験しました。
その結果、任意に明るさを調節できる環境では、仕事中に眠気を起こす副交感神経が抑えられ、睡眠時には副交感神経が活性化し、リラックスした状態で眠れたという結果が得られました。
室温設定を柔軟に変えることも快適な空間作りに貢献する
この結果から、竹中工務店はオフィスの空調にも着目し、サーカディアンリズムに合わせて室温設定を変える実験を行いました。
深部体温は活動している時間帯に上げておくと就寝前に体温を下げることができ、質の良い眠りができると言われています。
13時から20時の間に設定温度を上げたところ、一定の室温に設定している状態よりも深部体温が上がることが分かりました。
「健康になる建物」と聞くと「どういうことだろう?」と疑問がいっぱい生まれてきますが、ふたを開けてみれば「ストレスフリーな空間デザイン」という意味だったのですね。
特にオフィスは実用性が重視されているため、快適な空間は二の次になってしまいがち。
ですが、心地よい空間と仕事は切っても切り離せませんよね。
快適なオフィスが作れたら、きっとみなさんの仕事もはかどるはずです。ぜひ、健康になる建物について一度考えてみてはいかがでしょうか?