創業から必死に会社を支えてくれた役員がいよいよ勇退する時、心ある経営者の貴方はできるだけ多くの退職金を出してあげたいと思うはずです。しかしながら、感謝の気持ちを込めて高い退職金を支払おうとする時ほど、税務当局は厳しいチェックを行い、延滞税や過少申告加算税を課そうとしてくるため注意が必要です。
できるだけ多く出してあげたい役員の退職金
創業から頑張ってきた役員さんがいよいよ勇退する時期が到来しました。
経営者の貴方は、創業から当社を引っ張ってくれた役員に、できるだけ多くの退職金を出してあげたいと考えています。
しかし、「役員の貢献は当社にとって大きなものだった」とよい条件で退職金を支払おうとするならば、その支払いはかなり危険なものとなります。
というのも、過去にも税務署サイドと納税者サイドの間では、経営者に対する退職金を巡り、多くの争いが繰り広げられてきました。
本日は、このような争いがなぜ起こるのか?経営者に支払う退職金は、どれくらいの額が適正なのか?といった点について、解説してみたいと思います。
役員退職金の算定で利用される功績倍率を単純に3倍にしてはいけない
一般的に経営者へ支払われる退職金の額は、「功績倍率法」という以下に記述する算式により計算されます。
- 役員の最終月額報酬額×勤務期間(年単位)×功績倍率=役員退職金額
この中にある功績倍率は、多くは1.0~3.0の間と言われています。
功績倍率は、どれだけ会社に貢献しているかによって、会社ごとに変えていらっしゃる事が多いのですが、私の実感としては3.0倍に設定している会社様が多い気がします。
例えば、最終月額報酬額100万円×30年間×3.0だと、9,000万円が役員退職金額となるわけです。
さて、そんな役員退職金ですが、法人税法上で注意しなければならない事があります。
- ・他社と比較して過大(多すぎ)ではないか?
- ・貢献具合から見て過大(多すぎ)ではないか?
という2点です。
条文的には法人税施行令第70条に過大な役員給与についての記載があります。
第七十条(過大な役員給与の額)
法人税法第三十四条第二項 (役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。
2項
内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額
先ほどの功績倍率は、どれだけその役員が会社に貢献したかを数値化したものであります。
例えば、退職金を支払う役員が単に名義的な役員だった場合、功績倍率を3倍として支給しても、後の税務調査で否認される(税金計算上費用とされない)ことは必至でしょう。
功績倍率は類似規模の会社と比較する必要あり
なお、退職金の額が否認された場合、損金不算入となることにより、通常支払う税金以外にも、延滞税や過少申告加算税が課されますので、できるだけ否認されない程度の役員退職金を設定するのが良いでしょう。
最近の事例だと、平成28年4月22日に東京地方裁判所で、役員退職金に関する裁決が出ました。
- 税務署の主張:支給した役員退職金は過大である。類似規模の会社の最終月額報酬額の「平均」または「最高」を採用して計算すべき
- 納税者の主張:類似規模の会社の「平均」も「最高」もおかしい。自社にはそんな事は関係ない
というものに対して、東京地裁は、比較した法人の「最高額」を採用すべきという裁決を発表しました。
退職金を出す場合には、自社だけを考えて報酬額を出すというのは危険なため、時間をかけてでも類似規模の会社で、同じ立場に立つ人への退職金支払い状況を調べて、功績倍率を弾き出す必要があります。
後から否認されたのでは後味の悪さが残りますので、どうかお気をつけ下さい。