「宛名を入れない領収書は発行できません」は正しいか?
事業の経費の支出は、振込であれば口座(通帳)に記録が残りますが、現金での支出では領収書を発行してもらう必要があります。
特にお店で物を購入したり飲食をした場合には、領収書をもらう機会も多いと思います。
ただし会社を幾つか経営していて、どの社名を領収書に記入するか、受取人を個人にするか会社にするかなど迷う場面もありますよね。
領収書の宛名を空欄にしたり、「上様」などを使用する場面も多いのではないでしょうか?
しかしこのような場合「領収書は発行できない」と店員に領収書の発行を断られる可能性があります。
領収書はなぜ宛名を記入する必要があるのか?
領収書は宛名を相手に伝えるのも、記入してもらうのも時間や手間がかります。そこまでしてなぜ領収書に宛名の記入をする必要があるのでしょうか?
領収書に宛名を記載する理由
経費計上のために領収書やレシートを発行する際には、基本的に会社や個人事業主の宛名を記入して作成してもらう必要があります。
それは税法上、領収書が「会社にとって必要な支出があった」という証明になる重要な書類だからです。
消費税法で定められている領収書の記載事項
法人税法や所得税法では特に規定はありませんが、消費税法では領収書の記載事項が定められています
税法上、下記の5つを記載する必要があります。
- ①発行者
- ②取引日時
- ③取引内容
- ④金額
- ⑤書類の受取人(宛名)
宛名や金額を記入せずに発行すると、改ざんなどに悪用される可能性があります。
そういったトラブルを起こさないためにも、正確な情報が記載された領収書を作成する必要があるのです。
5万円以上の領収書は収入印紙が必要
また代金が5万円以上で、領収書を発行してもらう場合、収入印紙が必要になります。
収入印紙の貼り付けがない場合、経理上有効な領収書とは認められないので経費計上ができなくなります。
高額な支出があった際は、収入印紙の貼り忘れがないか必ず確認しましょう。
宛名なしの領収書は経費計上できるのか
「実際のところ宛名なしでも経費計上できるの?」と疑問に思っている方も多いのではないかと思います。宛名なしの場合は経費計上できるのか解説します。
経理上は問題ない可能性が高い
経理上は宛名がなくても問題ないケースが多いです。基本的に業務の関連性があるかどうかで経費として計上するか判断するため、領収書の宛名がなくても特に問題はありません。
会社によっては領収書ではなく、レシートでも業務上の支出であれば良いとするところもあります。
税務上は経費計上できない場合がある
しかし一般的に宛名がない領収書は税務上、経費計上できないとされています。それは業務に関係のある支出なのかどうか、宛名がないと見分けがつかないからです。また必要事項などが十分に記載されていない場合も経費として認められない可能性高いです。
宛名を省略できる事業
ですが例外として、⑤の宛名を省略できる事業というものがあげられており、その中には小売業や飲食店業が含まれています。
そのため、例えばコンビニで物を購入した時や居酒屋で飲食をした時には、宛名なしの領収書やレシートでも問題ないということになります。
この場合は業務上の必要経費であるならば、宛名が記入されていなくても経費計上できる可能性が高いです。
領収書に宛名を記載したほうがいい理由
上記で領収書に宛名が必要な理由や要件に触れましたが、より具体的にどういったメリットがあるのか解説していきます。
税務調査
数年に一度ではありますが税務署は会社が税金をしっかり納めているか調査を行います。
領収書の宛名が空欄の場合や、但し書きの品代が多い領収書、金額が不自然に高い領収書は税務調査において経費として認められないケースがあります。
消費税の仕入税額控除
宛名なしの領収書が認められる業種以外、宛名のない領収書は仕入税額控除ができません。仕入れにかかる税金の控除は会社の消費税の納税において非常に重要な役割を果たすので、適用されないのは会社にとってデメリットです。
社内規定
先ほど経理上は問題ないケースが多いと説明しましたが、会社の規則で「宛名のない領収書は経費として認めない」という場合もあります。
会社としては税務調査でのトラブルを避けるために、できるだけ宛名ありの領収書で経費の支出を管理したいものなのです。会社の規則を確認しておきましょう。
経費として払い戻しを受けるためにも領収書の宛名の記入を推奨します。
二重請求の防止
領収書に宛名がないと、二重請求される可能性があります。領収書は代金の支払いの証明となる書類なので、発行者は宛名がないと誰から支払いを受けたのか特定ができません。そのため、会計上のミスで請求書が自社に送られてくるなど二重請求される場合があります。
紛失した際の悪用対策
領収書に宛名がないと悪用されるリスクがあります。
二重請求でも解説しましたが、領収書はお金のやりとりを証明するものです。「宛名の人から代金を受け取った」のと同時に「代金を支払った」という証明にもなります。ゆえに宛名がないと領収書の内容を改ざんされるなど、悪用されるといったトラブルが発生するリスクもあります。
ですのでこういったリスクを避けるためにも、領収書発行の際は必ず名刺などを見せ、社名や個人事業主など受取人の宛名を記入してもらうようにしましょう。
支出が証明できる書類として宛名が記載されていた方が、発行者も受取人も安心して領収書を取り扱うことができます。
宛名の要・不要の基準とは
現状はお店の方針に任されている
とはいえ会社によっては経費精算の際、一定金額以上はきちんと宛名が記載された領収書でなければ認めないというところも多くあります。
これは会社の内部統制上の決まり事であって、その会社に所属している限りは従わざるを得ません。
領収書を発行する側も、必ず宛名を記載するところ、求められれば記載する程度のところ、記載せず渡すところなど、様々あります。
極端な話ですが、宛名のない領収書を、白紙委任状とみなしたり、私文書偽造とみなすお店があるのも事実です。
これはオーナーの方針であったり、従業員に任せきりで判断される部分もありますが、特に法律上でどのように判断すべきか、現時点では制限がありません。
ただ一ついえるのは領収書の宛名の有無にかかわらず、そのお店が発行したことを証明するために印鑑が押されているというのは最低限確認しておきましょう。領収書において押印されているということは証明書としての意味を果たします。
脱税になる可能性もあり
では、実際の税務調査などで、宛名記載のない領収書の発行が無条件に大丈夫か?というと、そうではありません。
宛名が無いということは、誰に対して発行されたかが分からないということなので、個人的な支払いや第三者のものをもらってきたという可能性があります。
先ほども説明しましたが、経費計上が難しくなるだけでなく、内容次第では脱税として扱われるリスクもあります。
宛名を記入してもらうのがベスト
領収書の宛名を空欄にしたり「上様」という書き方を使用するのは様々な事情があると思います。
しかし何度も繰り返ししつこいですが、後々トラブルに発展したり脱税になるリスクもあるため、多少面倒だとしても自身の氏名や会社名などを領収書に記入してもらいましょう。
領収書の宛名を偽りなく記載することで、発行者も受取人もトラブルを避けることができます。