個人事業者は、経費算入できるかできないかが不明瞭な領収書を、意外と多く抱えているものです。また、個人事業者が払ったもののうち、経費として計上できるのは「事業に直接関連のある費用」だけ、と法律にも記載があります。果たして、プライベートと仕事が混在した領収書の金額は、経費に算入できないのでしょうか?走る税理士鈴木さんが解説してくださいます。
個人事業者にとって領収書の公私区分は難しい
個人事業の経理処理をする際、どれを経費にして良いものか、迷うタイミングは意外に多いものです。
材料費の仕入れや事務用品の購入など、明らかに仕事に使っているものであれば迷うことはありません。
しかしながら、
「これって経費になるのかなぁ?」
というものって結構ありますよね。
材料費など分かりやすいものであればいいのですが、パッと見ただけでは、経費にしていいものかどうか分からないものも多いです。
このように、プライベートと仕事の区分が付きにくい領収書が存在する場合、どのように区分していけばいいのでしょう?
公私区分の指標となる「家事関連費」という項目
「領収書さえあれば何でも経費にできる」、と思われている方もいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。
個人事業者が払ったもののうち、経費として計上できるのは「事業に直接関連のある費用」だけです。
ここでポイントになるのが「直接」という部分です。
個人事業者の場合、事業者としての立場と個人としてのプライベートな立場で、2つの性格を持っています。
税務的な考えで言うと、それぞれの経費は
- 事業者としての立場の経費・・・「必要経費」
- プライベートな立場の経費・・・「家事費」
という表現をします。
ただし、経費というモノは、単純に区分できるものだけではありません。
「これって経費なのかなぁ?プライベートの費用なのかなぁ?」と、なかなか区分がしにくいものも多いのが現実です。
例えば、マイカーを個人事業に使っている場合、マイカーを使って仕事先に行くこともあれば、その帰りに子供を迎えに行くこともあるでしょう。
そのような場合のガソリン代は、必要経費の部分もありますし、家事費の部分もあるわけです。
例に上げたような、必要経費と家事費がゴチャゴチャに混ざってしまっている費用のことを「家事関連費」といいます。
個人事業者の場合、この家事関連費をどのように処理するのか、ということが最大のポイントと言っても過言ではありません。
家事関連費は原則的に経費への算入が出来ない
さて、この家事関連費については、原則は「経費として認められない」というのが、税務署のスタンスです。
所得税法第45条には「家事関連費の必要経費不算入等」という条項があるのですが、法律上で「家事費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」については必要経費に算入してはならないという規定があるのです。
つまり法律では、「事業に直接使っている経費しかダメだよ」と、明文化しているのです。
この法律を文面そのままで捉えると、少しでもプライベートに使っている自動車やスマホなどの費用は「全額経費にしてはいけません」ということになってしまいます。
しかし、ちょっとこれでは、個人事業者が可哀想すぎます。
そこで法律では、次の2つの要件のいずれかを満たした場合に、家事関連費を経費に算入していいよ、という基準を設けています。
(家事関連費)
第九十六条 必要経費とされない家事関連費に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費
さっぱり意味不明だと思うので簡単に言えば、
- ① プライベートな費用が混ざっていても、ちゃんと必要な部分が区分できるならOK
- ② 青色申告している人で、帳簿で「この部分について事業に使っています!」と記録しているならOK
という形に要約できます。
事業割合を決めるなら3つの区分方法を利用
それでは、これまでの説明を元に客観的な3つの区分方法を見ていきましょう。
1)区分できる基準があればOK
例としては、自宅を事務所にしている人を考えて下さい。
例えば、自宅の固定資産税を払っていたとしても、基本的に自宅の固定資産税は「家事関連費」になるので、経費に出来ないのが原則です。
ただ、自宅の1階の半分はお店にしていて、1階の半分と2階は自宅て使っている場合はどうでしょう。
1階も2階も同じ面積であれば、全体のうち1/4相当部分は、お店で使っているというコトが明らかですよね。
このような場合には、1/4という明確な基準があるので、固定資産税のうち1/4相当は、経費にしてよいことになります。
逆に「たまにリビングでも領収書の整理くらいの仕事をしているよ」というような場合には、明確な基準がありませんので、いくら多少の仕事はしていたとしても、固定資産税は経費に算入できません。
2) 帳簿上で区分してあればOK
帳簿上で、事業の部分というコトが明確にしてある場合も経費算入がOKになります。
例えば、最初の例のようにマイカーを仕事にも使っていたとします。
本来であれば、マイカーにかかる費用も「家事関連費」になるので、いくら仕事で使っていたとしても、経費に出来ないのが原則です。
このままではガソリン代なども経費に出来なくなってしまいます。
そこで、帳簿上で「このガソリン代のうち、半分は仕事に使って半分はプライベートに使った」、というように区分して記載しておけば、OKということになっています。
これは青色申告をしている人しか認められていないので、白色申告の人はちょっと不利になりますね。
3)事業割合の明確な基準を決めればOK
ただ、そうは言っても、いちいち1回づつ区分するのは大変というのが本音。
そこで、最初に明確な基準を作っておいて、その割合をもって経費にする部分と、プライベートにする部分を決めても良いことになっています。
これを「家事関連費の按分」といいますが、明確な基準をつくっておけば、税務署側も「ちゃんと基準があるならいいでしょう」と認めてくれます。
この割合を「事業割合」といいます。
事業割合をどの程度に設定するかによって、経費の金額も大きく変わってきますが、あまりにも現実離れした割合は、税務署もOKしてくれないので注意してください!
現実的な事業割合は税理士と相談するのが吉
事業割合は、経費の内容や事業の性格によって変わってきます。
例えば、ほぼお客様まわりで車を使っている場合には、事業割合は限りなく100%に近くなるでしょうし、ほとんど移動には使わないのであれば10%もいかないと思います。
どの程度の事業割合であれば認めてくれるのか・・・ということは、素人には分からないですよね。
そのあたりは税理士に相談してみて下さい。「この程度であれば大丈夫だろう」という基準を教えてくれると思いますよ。