年金の過少支給問題 その根は深い場所にある
2018年2月に支給された公的年金に関して、約130万人の支給額が本来の額より少なかった、との報道がありました。
昨年、所得税控除を受けるための書類の様式や記入項目が大幅に変更されました。
その結果、受給者が控除に必要な申告書に気づかなかったことが過少支給の原因、と当初報道されていましたが、実はその控除のデータ入力を委託された企業で入力ミスが多発していたことや、契約に違反し中国の業者に業務を「再委託」していたことなどが発覚。
機構の理事長が謝罪会見を行うなど、大問題となりました。トラブルで明確になったこと、それは、年金制度を運営する日本年金機構の体制が完璧でないということです。
複雑になった控除申告書をスルーすると…
さて、今回問題になった控除のための申告書ですが、正確には「扶養親族等申告書」といい、毎年8月~9月頃に日本年金機構から送られてきます。
本来、年金受給者は、「基礎控除」の38万円、「公的年金控除」の120万円はもれなく控除になるので、158万円までの額は非課税となります。配偶者など扶養親族がいれば控除できる額は更に増えます。
しかし、この申告書を提出しないと、扶養控除だけでなく、基礎控除や公的年金控除も受けられなくなる、もしくは縮小されてしまいます。
書類の名前が「扶養親族等申告書」なので、単身の方や扶養している親族がいない方は「自分には関係ない」と、スルーしてしまうこともあるでしょう。
内容を知っていれば誰でもきちんと提出するはずですが、その周知も十分でなく、さらに記入項目も複雑化されて「分かりづらい」との苦情も多かったようです。
申告書の様式は、これまで往復はがきで、前年から変更がなければ「変更なし」にチェックすれば済む簡易的なものでしたが、昨年からA3用紙に変更になり、記入事項もマイナンバーや詳しい所得など大幅に増えたようです。
申告期限は昨年12月11日でしたが、未提出や記入ミスが多発。また前述の「業者の入力ミス」が10万件ほどあり、合計約130万件で本来よりも支給額が少なくなった、という経緯でした。
現在も確認中の「持ち主不明」年金記録問題
もともと別々に管理されていた国民年金や厚生年金では、結婚や独立などの場合、複数の制度に渡って年金に加入することになっていました。
その後、基礎年金番号が導入されて統合されたのですが、平成19年に、基礎年金番号に統合されていない、いわゆる持ち主不明の年金記録が約5,000万件存在することが発覚。
調査によって、申告で3,000万件ほどは特定できたものの、現在でも約2,000万件の年金が「持ち主不明」なのだそうです。
持ち主不明の年金記録は、
- 60歳以上が4分の3
- 加入期間が「1年未満」「1年以上5年未満」の記録
- 記録の開始時期が昭和40年代以前
- サービス業(飲食店など)、小売業(デパートなど)、商社などの業種に関する記録
という傾向を持っていました。
また、年金記録の「漏れ」や「誤り」にも以下の傾向が見られるようです。
- 転職のたびに年金手帳が発行された
- 会社を退職後、結婚して姓が変わった
- いろいろな名前の読み方がある
以上の3つが原因の90%を占めるとのこと。3)に関しては、「長田」と書いて「ながた」「おさだ」と読めたり、「健」と書いて「けん」「たけし」と読めるようなケースです。
参考リンク:持ち主不明年金検索:日本年金機構
ねんきんネットで年金記録は自ら把握しよう
前述の持ち主不明の年金や、漏れ、過少支給は、実は防止できます。
実はとても重要なものなのですが、保管も面倒だし、捨ててしまう人も多いかもしれません。
このねんきんネットでは「定期便」にある年金記録が常に詳細に見られます。また、将来の収入などを仮で入力し、受給できる年金の目安なども知ることができます。
実際は年金加入者だったはずの時期が抜けている、などねんきんネットから発覚した例も数多くあるそうです。
「定期便」に記載のアクセスキーで簡単に登録できますが、手元に「定期便」がない場合でも、ID発行まで少し時間はかかりますが登録可能です。
ぜひ、以下の参考リンクから登録することをお勧めいたします。
参考リンク:ねんきんネット
支払った以上、自分の年金は自分で守る意識を
2015年にはサイバー攻撃で年金情報が流出したり、2017年にも合計約598億円の支給漏れが発覚したり、何かと問題の多い年金制度。
だからこそ、私達は「自分の年金は自分で守る」という意識を持つ必要があります。
下がると叩かれる年金の運用ですが、現在は株高の恩恵もあり、順調に推移しているようです。
預貯金ではふやせませんし、タンス貯金など論外です。若者を中心に「年金はあてにしていない」という声はよく聞きますが、そのうちどれだけの方がGPIF以上の成績で運用できているでしょうか。
役立てられるかどうかは自分の意識次第。iDeCoなども含めて制度を理解し、使えるところはきっちり使うこと。でも任せきりにせず、目を光らせてきちんと自分の年金を管理すること。
そうして初めて、年金が将来の役に立つ資産となるのかもしれませんね。