ある一人の顧客が生涯にわたってもたらしてくれる価値のことを生涯顧客価値(ライフタイムバリュー)と言います。しかし、こんな言葉のなかった時代に、生涯顧客価値の重要性を見抜いていた人達がいます。江戸の商人たちです。火事が頻繁に起きた江戸で、彼らは火が燃え移る際に、必要最低限の荷物の中、あるモノだけは必ず抱えて逃げました。あるモノとは一体何だと思われますか?
放おっておくとみるみる無くなる生涯顧客価値
読者の皆さんは、企業が新しい一人の顧客を獲得するのに、いったいどれくらいのお金をかけているかをご存知ですか?
相場は一人あたりだいたい8千円~1万円くらいです。
やり方や業種によってその相場も多少は変わっていきますが、リアルなお店が新聞の折込みチラシを配る、ネットならばリストを集めてメルマガ発行する、PPC広告を使うということになれば、一般的にはこれくらいの相場になります。
たとえば、あなたが飲食店のオーナーだったとして、ディナーに1回来てくれたお客さんが獲得単価8千円かかったとして、1回あたり2千円の利益を落としてくれる人なら、5回目のリピートでやっと利益が出るか否かの計算です。
ところが、これだけ費用を掛けて獲得したお客様も、放っておくと年に25%が脱落すると言われています。
脱落してしまう一番の原因は、そのお店のことを忘れてしまうことです。実にもったいないと思いませんか?
ですから私達は、ある一人の顧客が生涯にわたってもたらしてくれる価値、すなわち生涯顧客価値(ライフタイムバリュー)を大事にする必要があります。
生涯顧客価値を大事にした江戸時代の商人たち
さて、生涯顧客価値を大事にするうえで、今日はぜひ紹介したい大先輩たちがいます。
それは、江戸時代の商人です。彼らは生涯顧客価値という言葉すら無い時代から、この価値を大事にしていました。
将軍のお膝元である江戸の町は、「火事と喧嘩は江戸の華」と言われるくらい、火事が頻繁に起こる場所でした。
当時から世界一の人口を誇り、木造家屋が密集していた江戸の町では、一旦火事が起こると消火も容易ならざるものとなります。
ですから、火事が起きると住人たちはみな、火事で家が無くなるものと諦めて、必要最低限持っていけるものを抱え、火から逃げることになっていました。
では、商人たちは火事が起こった時、何を持っていったと思いますか?
商売道具でしょうか?商品でしょうか?それとも…これまで蓄えてきた大判小判でしょうか?
実は、いずれも不正解。
火事になった時に商人たちが真っ先に持ち出したものは、「大福帳」と呼ばれる顧客名簿だったのです。
ビジネスにおける最大の資産はお客様とお客様のデータ
大福帳は、顧客の口座別に、いつ、誰が、何を、どれくらい購入したか?掛けはどれくらいあるか?など、顧客との取引にかかわるビッグデータの集約された名簿です。
商人たちは、文字がにじみにくい特殊な和紙で作られた大福帳を油紙にくるんで、井戸に放り込み、その後で一目散に火から逃げたようです。
しかも火事が終わったら、井戸から大福帳を引き上げ、さぞかし喜んだとか。
なぜか?
大福帳に記載された顧客データをもとに、火事で商品が消失したことのお詫び次いでにお客様の元を回り、新しい商売のネタをもらえるからです。
つまり、江戸の商人達は、目の前にあるお金より、これからお金を稼がせてくれるもの、つまり顧客データから発生する生涯顧客価値のほうが大事なことを知っていたのです。
ビジネスにおける最大の資産はお客様とお客様のデータである。皆さんもそう思いませんか?