キャッシュが尽きたら会社は倒産します。しかし、節税に走る経営者の多くは、節税が目的化してしまい、キャッシュを増やしたり残すという目的を忘れてしまうようです。そうならぬためには、常に「「売上ゼロで固定費が出て行く状況で会社は何ヶ月持ちこたえるか?」「そのための現金は幾らあるか?」を意識する必要があります。
経営者が節税を行う一番の目的は会社にお金を残すこと
いきなり結論から入りますが、節税はお金を残すための手段の一つにすぎません。
私、一個人としては、「できる限りよけいな税金払いたくない」という気持ちには大いに共感するところがあります。
ところが節税に走る経営者の方を多く見ていると、税金のことしか見ていない状態になってしまっているのをお見受けします。
何をやるにしても、目的を達成することが主眼に置かれなければ、物事はうまく行きません。
会社を運営する経営者が節税を行う上で一番の目標とするべきは、会社が生き残るために、まずお金をいかに残せるか、増やせるか、ということです。
経営者は誰でも「売上ゼロで固定費が出て行く」状況を想定する必要がある
もし、この記事を読まれるあなたが、「仕事がまったく途絶えてしまった場合に何カ月持ちこたえられますか?」という質問を受けたとします。
この質問に答えるには、
- 今現在、手元にある現預金の金額
- 毎月の固定費が幾ら生じているか
を最低限でも把握しないといけません。
「固定費」というのは、「売上がゼロの状態でもかかってしまうお金」のことを言います。
事務所の家賃などはいい例ですね。仮に営業活動をまったくしていない場合でも、借りているかぎり賃料は発生してしまいます。
従業員を雇っているならば、人件費も従業員が退職しない限り固定費として発生します。
そんな形で固定費が発生する中、突然の災害や、リーマンショックのような経済状況の激変など、自社のコントロール外にある要因で、営業が不可能な状況が訪れる可能性は、いつでも、どんな会社でもゼロではありません。
お金が尽きたときに会社は死にます。
私が「経営者はお金を残すこと、増やすことをまず考えるべき」と思うのはそのためで、それを可視化し(見えるようにすること)、数字に落とし込むことは、税理士などの会計人の使命と言っても良いでしょう。
現金にフォーカスすると意味の無い節税が理解できる
ただ、経営者の方が「税金のことしか見ていない状態」になってしまっているとしたら、それは税理士のせいもあると私は考えています。
たとえば、税金が年間で260万円かかる見込みと、現金を860万円持っている会社さんがあったとします。
「うげ、こんなに払うの!?」と当期の予測を見て社長さんは感じました。
そこで社長さんは、決算までに500万円の経費を使うことで、税金を減らすことを思いつきました。
晴れて500万円の経費を発生させることにより、無事に税金は120万円になったとします。
でも、実際に手元のお金を見てみましょう。
- 節税前の現金:840万円
- 節税後の現金:480万円
半分近く現金が減ってしまっているんですよね。
これは架空の話ではありますが、税理士がシミュレーションの段階で、「手元にお金が840万円残ると、480万円残るの、どっちがいいですか?」と税金ではなくお金にフォーカスして、かつ数字に落とし込んで見せたらどうでしょうか?
賢明な経営者の方なら、無理に経費を使うことはまず無いでしょう。
勤務税理士には理解しにくいキャッシュ減の恐怖
少し話は逸れますが、私のサラリーマン税理士時代の反省話を少ししたいと思います。
自分としては「お客さまが少しでもわかりやすいように」という観点で、図やグラフを自分でつくってお見せしたり、決算前に利益や税額のシミュレーションをお見せしていました。
しかし、税額のシミュレーションをお見せすると、「こんなに利益が出るなら何かにお金を使うか」ということがありました。
そのお客さまは資金が潤沢で、無借金で、売上がいきなりゼロになっても半年~1年は持つぐらいの優良企業でしたし、むだな経費を使われたわけでもなかったのですが、今考えると反省です。
というのも、私自身が独立して最も感じたことの一つに、お金が無くなっていくことへの恐怖がありました。
当時も自分で考えて勉強して工夫していたつもりではあったのですが、もっとお金に焦点をあてて、もっともっと「数字を起点にしたご提案」というものが追求できたのでは?と今は考えており、同じ目線でアドバイスできることを嬉しく思っています。
未来への投資につながる“意味ある”節税はOK!
とはいえ、節税が全てダメなわけではありません。
賞与を支払うことで、社員のモチベーションが上がる。
広告費を使うことで、来期以降の売上や、信用(ブランド価値)アップに繋げられる。
必要な設備を整えたり、必要な物品を購入する。
この3つの節税対策に共通するような、「未来につながる投資」の意味合いを持つ節税は、プラスの意味合いを持ちます。
法人の場合だと、利益(所得)が800万円を超えたところから税率が上がるため、「税額の繰り延べ」と言われるような節税策でも、使い方と会社の状況次第で有効になる場合があります。
つまり、節税はあくまで経営を継続するための一手段に過ぎません。
私自身も「その会社さんが残しておくべきお金(ストックしておいたり、返済に回したりするお金)」がどれぐらいなのかを常に頭に入れ、一つでも多くのご提案ができるよう勉強を続けていくつもりです。