芸能マネジメントを手がける吉本興業が9月1日付で資本金を125億円から1億円に減資します。今回の減資で吉本興業に生じる大きなメリットの1つが、外形標準課税を支払う必要がなくなったことです。しかし政府は昨年から、資本金1億円以下の企業に対しても外形標準課税の支払い義務導入を検討しはじめています。経営者は政府に対して賢く立ちまわる必要があります。
吉本興業が9月に減資を利用し中小企業化する
芸能マネジメントを手がける吉本興業が9月1日付で資本金を125億円から1億円に減資します。
今回の減資は吉本興業に2つのメリットを生じさせます。
1つ目に資本金を取り崩して資本準備金に振り当てる措置のため、拘束力は生じますが広義のキャッシュは増えて、財務体質が改善されます。
2つ目のメリットとして減資後は税法上、資本金1億円以下の中小企業扱いとなり、法人税に優遇措置が働きやすくなります。
具体的には
- 1)交際費が800万円まで全額損金になる(資本金1億円以上は交際費のうち飲食の50%までが損金)
- 2)大資本の企業に適用される外形標準課税の免税措置が適用される
という内容です。
ここで注目したいのは吉本興業が先述2)外形標準課税を、今回の減資によって支払う必要がなくなったことです。
法人税は減免も中小に外形標準課税の手が迫る
外形標準課税とは、事業所の規模や従業員数、資本金等から客観的に判断できる基準で税額を算定する地方税を言います。
資本金が1億円を超える企業は、赤字であろうと黒字であろうと外形標準課税を支払う義務が生じます。
簡単にいうとこの税の趣旨は「規模の大きい事業を行っているなら、ビジネスで公共サービスを利用することも多いはずだ。だから、その分はどんなことがあっても地方自治体にきちんと支払いなさい」というものです。
以前の吉本興業は資本金が125億円あったので単純計算にして、数億単位の外形標準課税を支払っていたはずですが、今回の減資により外形標準課税が課されることはなくなりました。
大きなコスト削減に吉本興業は成功したのです。
ところが、政府は昨年からこれを打ち消すような政策を検討し始めています。2014年の内閣政策会議では、法人税減税による5兆円支出を補填するために、資本金1億円以下の企業に対しても外形標準課税を支払う話が出始めました。
となれば、吉本興業はもちろんのこと、資本金1億円以下のほぼ全ての企業に外形標準課税が課せられる可能性が高まっているのです。
法人税は利益を出している企業に対してしか課税されないのに対して、外形標準課税は赤字であろうと支払う必要があるため、赤字体質にあえぐ多くの企業が倒産してしまう可能性すら生じます。
多くの企業にとっては負担増・今から準備を
批判を受けて、麻生財務相をはじめとした閣僚は導入に慎重なスタンスを崩していませんし、いつどのタイミングで外形標準課税が全企業に導入されるかはまだ不明です。
とはいえ、その時がいつ来ても慌てないように、今から備えるのはとても賢明なことです。
外形標準課税対策として中小企業が今行えることは、
- 事務所は見た目だけでなく実用性やコストパフォーマンスを重視する:家賃は課税対象
- むやみやたらな人員増を行わずアウトソースできるものは外部へ委託:人件費増は課税対象
- 必要もないのに資本金を増やさない:資本金の額に一定の税率がかけられ納税額は増える
- (赤字なら)よりいっそう節約を心がけキャッシュを蓄える:赤字でも外形標準課税は支払い義務がある
を意識することです。
減税といいながら実質増税を目論む政府に対して、企業は賢く立ちまわる必要があります。