平成29年度税制改正大綱では、所得拡大税制の拡充が行われました。所得拡大税制とは、青色申告書を提出する法人が、国内雇用者に対して給与等を支給する場合に、一定の要件を満たすと税額控除を受けることが出来る制度です。今回の改正では税額控除の上乗せが可能になりましたが、活用するメリットのある企業と無い企業があることには注意が必要です。
平成29年の税制改正で所得拡大税制が拡充
平成28年12月8日、与党より平成29年度税制改正大綱が公表されました。
税制改正大綱とは、翌年度の税制改正法案を決定するのに先立って、与党・政府が公表する税制改正の原案のことです。
毎年12月半ばに公表されます。
今回は、特に経営者の方が関心を持つ、法人税の改正論点のうち「所得拡大税制の拡充について」解説いたします。
所得拡大税制の適用を受ける要件を確認しよう
所得拡大税制とは、青色申告書を提出する法人が、国内雇用者に対して給与等を支給する場合に、一定の要件を満たすと税額控除を受けることが出来る制度です。
今回は中小企業に限定し解説いたします。
中小企業がこの税額控除を受ける要件は以下の3つになります。
- 要件1:給与支給額が平成24年度の給与支給額よりも3%増加していること
- 要件2: 給与支給額が前年の給与支給額よりも増加していること
- 要件3:従業員1人当たりの給与平均額が前年の従業員1人当たりの給与平均額を上回っていること
なお、給与平均額は、「給与総額÷給与支給延べ人数(各月の支給人数合計数)」によって求められ、従業員のうち対象となるのは、比較が可能な2年間に渡り同じ会社に勤務されていた方となります。
つまり、所得拡大税制は、一定の割合で給与支給額を増加させる必要があるものの、会社全体の給与支給額が増加し、従業員1人当たりの給与のベースがアップしていれば適用可能な税制です。
また、平成29年の税制改正により以下の追加要件が加わり、これを満たす場合には税額控除額を上乗せできるようになります。
- 追加要件:従業員1人当たりの給与平均額が前年の従業員1人当たりの給与平均額より2%以上増加していること。
控除税額の計算方法と具体的な控除計算事例
ここからは、控除税額の計算方法と具体的な控除計算の事例をご紹介しましょう。
たとえば、
- 平成24年度の給与支給額(5,000万円)より給与総額の支給が10%アップしている
- 前期の給与総額は月額5,500万円
- 今期の給与総額は月額6,000万円
- 今期と前期に人の変動なし
- 今期の法人税額は1000万円
という企業があったとします。
前期 | 今期 | 平成24年 | |
給与総額(月額) | 5,500万円 | 6,000万円 | 5,000万円 |
延べ従業員人数 | 200人 | 200人 | 190人 |
1人当たりの給与 | 30万円 | 27.5万円 | 26.3万円 |
この場合、
- 平成24年と比較し給与総額が1,000万円(10%)増加している(要件1クリア)
- 前期より今期は500万円給与総額が増加している(要件2クリア)
- 1人あたりの給与平均額も増加し、その増加率が8%強となっている(要件3・追加要件クリア)
となります。
従って、従来の控除税額は、
- H24年より増加した給与:1,000万円 × 10%=100万円
となったところを、税制改正による追加控除税額が追加で、
- (今期給与増額6,000万円―前期給与増額5,500万円) × 12% =60万円
追加され、合計で160万円が所得拡大税制により、税額控除されることになります。
よって、法人税が1,000万円の支払が必要なところを、所得拡大税制を活用すると840万円の支払で済ませることが可能になるのです。
あくまで雇用を増やす企業にメリットがある
今回の事例を冷静に見てみると、人件費の支出が前年より500万円増えているのに対して、法人税の支出は160万円减少するに留まります。
つまり、同制度を活用してもトータルの支出は340万円増額する形となります。
ご理解いただけると思いますが、今回の所得拡大税制の改正は、法人税を減らすことを目的として活用しても、会社の支出を減らす効果はなく、制度活用のために人件費を単純にあげると、かえって損となる場合があります。
あくまでも雇用を増やす必要がある企業が、間接的に人件費を補助する位置づけで活用することが望ましいでしょう。