タコ社長が懸命に切り盛りするギフト会社Aは、目下1.5%の利益率を3%にあげようと必死です。そこで目をつけたのが、ギフトの資材包装代でした。月間200万円のコストを10%下げるべく、タコ社長は蛾次郎部長に指令を出し、7%の資材包装費ダウンにこぎつけますが、一年後に青ざめます。コストが増えていたからです。
ギフト会社Aのタコ社長がコスト削減を決意
あるところにギフト会社Aがありました。タコ社長が懸命に会社を切り盛りしています。
主力の商品は贈り物用の詰め合わせで、販路は問屋帳合の百貨店卸しが中心、
- 売上:3,000万円/月
- 粗利:900万円/月
- 人件費:400万円/月
- 家賃等の固定費:150万円/月
- 配送料:100万円/月
- 資材包装代:200万円/月
- 税引前純利益:50万円/月
という収入とコスト、利益の構造を持っていたとします。
全てを差っ引いた税引き前純利益は1.5%であり、ギリギリやっている企業といったところ。
百貨店も最近は売上が右肩下がりで厳しいため、コスト削減することで社内留保を多くし、利益率を何とか3%まで持っていきたいと考えています。
蛾次郎部長に課せた資材包装代のコスト削減
ここでタコ社長が着目したのは、資材包装代の200万円でした。
「年間2,400万円も資材費にかけてるの!?金かかりすぎ。これをあと10%コスト削減したら、一気に利益率が3%に近づく」と考えました。
そこで社長は、生え抜き50代部長の蛾次郎さんに「資材メーカーと交渉しろ!」と怒鳴りつけ、Bさんも「この年でリストラはやばい」とばかりにか、社長の声にビビったのか必死に交渉をすすめます。
ついに、「社長(心の声:タコこら!)!10%は無理でしたが、まとめ仕入れを行うことで、7%のコスト削減(値下げ)に資材メーカーが合意しました!少し多く仕入れた包装紙とダンボールは、空いたスペースがあるので、そこに置いておけば大丈夫です。」と報告があがってきました。
2,400万円の資材包装代が2,232万円に下がれば、実に年間で168万円のコスト削減となり、利益率も2.1%へ大幅アップです。
「よっしゃ、やったぞ!でかした蛾次郎!」
さて、ここまでは良かったのですが、一年後にタコ社長は青ざめます。なぜでしょうか?
タコ社長に見えなかった「時間」というコスト
タコ社長が一年後に青ざめた理由、それは、膨大に増えた資材の在庫管理に、蛾次郎部長が膨大な時間を使わなければならなくなったことです。
タコ社長は当然のように蛾次郎部長に残業代も渡しませんが、蛾次郎部長も音を上げて在庫管理の担当を1人雇わねば、かえって不良在庫が増えると泣き言を言ってきます。
「えーい!雇う!その代わり、営業もやらせるんだぞ!」と、年間350万円をかけてタコ社長は、30代後半のトラ君を雇いました。
ところが、トラ君としては「入社したばっかりなのに、管理業務も営業もやらせるなんて…おまけに残業代も出ないなんて、まじで酷い会社だ!」と半年間でぷっつりキレて、やめてしまいました。
蛾次郎部長は、トラ君への人材教育と在庫管理でヘトヘトになり、お金も人件費が半年分で180万円出ていった。
「資材費で168万円削ったのに、トータルマイナス!」
以上は仮名ではありますが、筆者が知り合いから実際に聞いた話です。皆さんにとっても「どこかで見た風景」ではないでしょうか?
多くの企業では、見えるコストを削ることによって、見えないコストが増えている現状が多々見られます。
これを防ぐ方法は、コスト削減を図る時に必ず、「人・モノ・金」という見える尺度だけではなく、「時間」という見えない尺度を念頭に入れることです。
- 人を減らして節約(リストラ等)
- 物を減らして節約(電球を減らす等)
- 支出を減らして節約(交際費を減らす等)
いずれも企業のコスト削減でよく利用されますが、これを行う時は「時間を効率的に使えるようになるか?」「生産性の高い時間を過ごせるようになるか?」という尺度を持たねば、かえって無駄が生まれてしまいます。
タコ社長の場合も、生産性の高い時間への意識がコスト削減の際にはたらけば、もっと違った節約が出来たかもしれません。
節約をする際は、「見えるもの」と「見えないもの」をトータルでバランスよく天秤にかけながら、問題を解決することが肝要ですね。
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