所得税や住民税より節税しにくいのが消費税
確定申告書を作成した後に、今年払わなければならない税金の金額を見て、「えー、こんなに払うの!」と思う人も多いかもしれません。
普段からチャンと帳簿を処理している人は、「だいたいこのくらいの税金が発生するだろうなぁ」ということを理解しています。
従って、所得税や住民税の対策、いわゆる「節税」というモノが出来るようになってくるのですが、なかなか節税が難しい税金があります。
それは「消費税」です。
消費税は売り上げが1,000万円を超えた人が対象なので、ある程度事業としての規模が大きくなってきた方が対象にはなります。
ただ、モノを売って販売するお店や飲食店、建設関係の仕事だと、意外にあっという間に1,000万円って超えてしまうんですよ。(逆を言えば、飲食店などの場合には1,000万円を超えないと、ビジネスとしては厳しいトコロなのですが・・・)
最近は自分自身で経理や確定申告をされている方が多いのですが、実は「もっと早く専門家に相談しておけばよかった・・・」と後悔するのは、この消費税に絡むトラブルなのです。
消費税は想定以上に金額が大きい税金です!
消費税で起こるトラブルを、分かりやすく説明するために、一つ事例を紹介しますね。
Aさんは塗装の工事をする建築関係の個人事業者の方。
起業してから順調に業績を伸ばし、平成25年には売り上げが1,000万円を超えました。
領収書や請求書は奥さんが管理していましたが、あまり良く分からないので、確定申告の時期にゴソッと整理を始めている状態でした。
分からないことがあったら税務署に聞けば教えてくれるでしょ、という感じであまり深くは考えていません。
期限ギリギリに税務署に行って、何とか計算をして白色申告で納税。
小さい子供をおんぶしながら、混みあう税務署を逃げるように脱出。
税務署の人に「27年から消費税がかかりますよ」と言われたけど、良く分からないのでそのままにしてました。
こんなご家族がいたとしましょう。非常によくあるパターンです。
このAさんの場合、平成25年の売上が1,000万円を超えているので、平成27年の売上については、消費税を納めなければなりません。
消費税というのは面白いシステムでして、2年前の売上が1,000万円を超えているかどうかで、消費税を納めるかどうかが変わってくるのです。※
そして、この消費税というものをナメていると、メチャクチャ痛い目を見ます。
納める消費税の金額の計算は「預かった消費税(売上の消費税)」から「支払った消費税(経費の消費税)」を差し引いた差額で計算します。
このAさんの場合、仮に27年の売上が消費税込で約1,300万円だった場合、Aさんの売上の中には預かった消費税分として
1,300万円 ÷ 1.08 × 8% = 約96万円
という金額が含まれています。
27年にAさんが支払った経費のうち、消費税の対象となるモノが450万円ほどだったとすれば、
450万円 ÷ 1.08 × 8% = 約33万円
という金額が支払った消費税ということになります。
ですからAさんが納めなければならない消費税というモノは、
96万円 - 33万円 = 63万円
ということになるのです。
昨年までは消費税なんて考えていなかったのに、今年確定申告したら、63万円も税金を納めなければならないなんて、ビックリしますよね。
資金繰りにも大きな影響を与えてしまいますし、家計もヒィヒィです!
消費税の簡易課税制度で税額は半分以上減る!
実はAさんの場合、もっと早く対策をしておけば、消費税の納税額をかなり減らせた可能性があります。
先ほどの消費税の計算方法は原則的な計算方法なのですが、売り上げの規模がそこまで大きくない(年間売上が5千万円以下)事業者の人は、消費税の計算で使える特例があるのです。
それが「消費税の簡易課税制度」という制度です。
カンタンに言えば、売り上げの金額だけで、消費税を計算する方法です。
Aさんの場合、消費税を簡易課税の方法で計算していれば
96万円 ー {96万円×70%(第3種事業)} = 約29万円
という計算をすることが出来ました。
原則的な計算方法であれば、63万円も消費税を払う必要があったのに、この簡易課税の方法を選択すれば29万円で済んだのです。
半分以上も税金を減らすことが出来れば、節税効果は大きいですよね!
更に、この簡易課税の方法を使って計算するには、新しい年度(1~12月)がスタートする前に、税務署に届出書を出しておかなければなりません。
Aさんがこの事実を知ったのは確定申告が終わった平成28年の3月。
簡易課税を選択するには、その課税期間(1年)がスタートするまでに届出書を提出する必要があります。
この段階で届出書を出したとしても、簡易課税の方法で計算することが出来るのは平成29年からです。
ですから、普通に確定申告して税金を納めるのであれば、平成28年分はもう1回不利な方法で、消費税を計算して納めなければならないというコトなのです。
あー、また30万円以上も余計な税金を払わなければならないんでしょうか?
大丈夫です。対策方法がもう一つありますよ!
消費税の課税期間の短縮で消費税を圧縮せよ!
こういった場合であっても、やり方によっては消費税の納税額を減らすことが出来る方法が、もう一つあります。
それは、消費税の課税期間の短縮を、税務署に届け出るという方法です。
所得税の計算期間は、1月1日から12月31にまでの1年間が基本です。
消費税も基本的には同じ1年間なのですが、この1年間を短縮して、3か月間や1か月間に変更することが出来ます。
例えば3か月間に変更したとすれば、1~3月、4~6月、7~9月、10~12月という年4回で、消費税を計算することが出来るのです。
Aさんの場合、この課税期間を短縮して、3月中に届出書を出せば、4月以降の消費税の計算は、簡易課税の方法で計算することがOKになります。
こうすれば少しでも消費税のダメージを減らすことが出来ますよね。
ただ・・・この方法のデメリットは「最低年4回は消費税の計算をしなければならない」ということです。
今まで、年1回の確定申告で四苦八苦していたAさんの奥さんが、年4回も税務署に行く必要があることを考えると、やっぱりキツイですよね。
ならば、もう一つ、最終奥義とも言える奥の手をご紹介しましょう。
いざとなれば会社を作って法人成りという選択
最終奥義、それは個人事業を会社にしてしまう、つまり「法人成り」という方法です。
実は、これが一番手っ取り早いです。
個人事業を会社にしてしまうことで、消費税の負担を大幅に減らすことが出来るからです。
先ほど書いたように「消費税を納めるかどうかは2年前の売上で判断」されるのですが、新しく作った会社は産まれたての赤ちゃんのようなもので、2年前には存在がありません。
ですから、最長で2年間は消費税を納める必要がなくなるわけです。
個人事業についても、事業を法人に移してしまえば、消費税の計算の基礎となる売上がなくなるわけですから、納める消費税も一緒になくなります。
Aさんの場合、年間の消費税額が63万円ということは、2年分として126万円も消費税の負担が減るわけですよ。
メチャクチャ大きい金額ですよね!
ただし、この方法にもデメリットはあります。
「確定申告すら四苦八苦していたAさんの奥さんに会社の税金の申告ができるか」という、現実的な問題です。
まぁ普通に考えて無理でしょうね。
この段階まで来たら税理士に頼むしかありません。つまり、この方法の最大のデメリットは「税理士に依頼する費用」です。
法人成りのハードルはどんどん低くなっている
会社を設立する場合には、スゴイ費用が掛かると思っている人もいるかもしれませんが、最近は比較的リーズナブル、かつ簡単に会社を作るコトが出来るようになりました。
資本金も1円からで大丈夫になりましたし、株式会社であっても20万円~30万円程度の費用で、会社設立は可能になりました。
消費税で100万円以上オトクになると思えば、簡単に費用もペイできてしまいます。
税理士の費用も気になるところですが、Aさんの奥さんの負担が大幅に減ることを考えると、メリットは大きいと思いますよ。
クラウド会計や経理の効率化を進めていけば、Aさん自身の事務負担も減らすことが可能です。
個人事業主の方で、消費税の壁にぶち当たっている方に、この記事が役立てば嬉しいです。
備考:
※専門用語で言うと「消費税の納税義務の判定」と言います。かなり端折っている部分もありますので細部については専門家にご相談ください。