毎年、国税庁からは異議申立、審査請求及び訴訟の概要が公表されています。毎年300~400件近くのものが終結し、そのうち5%~13%程度の訴訟について納税者の主張が認められています。しかしこれからは、国税局による取り締まりが更に強化されることが予想されます。経済協力開発機構(OECD)が課税強化に各国足並みを整えるよう報告書を提出したからです。中小企業の節税対策にも当然影響が予想されます。
OECDが動き出し租税訴訟の場が騒ぎ始める
毎年、国税庁から異議申立、審査請求及び訴訟の概要が公表されています。
平成25年度に至る過去5年間の租税訴訟の終結状況を概観しますと、毎年300~400件近くのものが終結し、そのうち5%~13%程度の訴訟について納税者の主張が認められています。
現在のところ重要な税務訴訟で未だ終結していないものに、IBM事件やIDCF事件(ヤフー事件)などがあります。
しかし、これら租税訴訟については、国税局による取り締まりの強化が今後予想されています。
というのも、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development:以下「OECD」)は2015年10月5日、国際課税ルール強化のために「税源浸食と利益移転」(Base Erosion and Profit Shifting:以下「BEPS」)プロジェクトの最終報告書を公表しました。
これを受けて今後、租税回避、国際的租税回避について、我が国税務当局による、本格的な課税取り締まり強化が予想されるのです。
未決の訴訟の動向も含めて影響があると考えられるため、「税源浸食と利益移転」に関する、OECDの主張に触れてみましょう。
多国籍企業の過度な節税対策に対する締め付け
ヨーロッパを中心に先進国ではかつてない規模で税収が減少しています。そのような中で、アップルやグーグル、それにスターバックスといった、多国籍企業は国境を越えて、過度な節税対策を取るようになりました。
いわゆる「ダブルアイリッシュ・ダッチサンドウィッチ」スキームというものです。
税金は、各国で独自の法律(国内法)に基づいて課税を行われていますが、多国籍企業に対する課税は一つの国だけでは課税が完結しませんので、国際間のルール(租税条約)というものを各国間で締結してルール作りを進める必要が生じています。
こうした状況において、OECDは、現在の国際課税原則や各国国内税法について、足並みを揃えるように各国へ通達を出しています。
その完成形が先述の、「税源浸食と利益移転」プロジェクトの最終報告書です。
とはいえ、細部にわたりすべてを規定することは難しいため、今後の租税訴訟は、税制の趣旨を踏まえて判断されることが多いものと考えられます。
それは加盟国の日本でも同じこと。
判決例をみると、文理及び制度趣旨にも立ち返った判断がされることが多く、立法の経緯、趣旨に合致した主張を行うことで、勝訴の道が開かれるように考えられます。
その意味で、もし今後国税局に租税訴訟を起こされる時は、裁決例、裁判例や専門家の意見も踏まえて対応することが必要です。
中小企業の節税対策にもOECDは影響与える
冒頭で伝えたIBM事件では、平成26年5月東京高裁で国側が敗訴したものの、132条(同族会社等の行為又は計算の否認)の解釈について国側の訴えが認められました。
IBM事件とは〜
IBMが100%子法人株式を当該子法人に買い取らせ、受取配当等の益金不算入の恩典を受け、且つ株式譲渡損を実現させるスキームを、国税局が不当と訴えた事件
独立当事者間の通常の取引と異なるものは経済的当理性を欠くものであり租税回避となる、租税回避の意図があったかどうか、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的があったか否かを判断する必要はない、という解釈が採られています。
これを踏まえますと、無理に不合理な話をしたり(事実の仮装)、資料の隠蔽は大きなリスクを孕むことに留意が必要でしょう。
また、多国籍企業のみならず、今後は中小同族会社もタックス・プランニング※には留意が必要になるはずです。
※タックスプランニングとは
将来の法人税等の負担額と将来の課税所得を想定し、税制の仕組みや特徴を考慮し無駄な税金を払わない為の、合法的な節税対策の計画・立案を指す