日本電産の永守重信会長(以下、永守氏)が相次いで行う、教育機関への寄付が大きなニュースとして取り上げられています。寄付行為を行う場合には寄付金控除が認められており、所得から一定額を差し引くことで節税対策ともなりますが、寄付行為を選択する背景には日本の相続税が超過累進税であることが1つの大きな要因として考えられます。以下、詳細を解説いたします。
お金持ちは寄付を選択する〜日本電産・永守会長の場合も
日本電産の永守重信会長(以下、永守氏)が相次いで行う、教育機関への寄付が大きなニュースとして取り上げられています。
中でも、京都学園大学の工学部新設を支援するために、個人として100億円以上を寄付したことには称賛の声が数々と寄せられました。
インタビューでも「住める家があれば十分」「全部使ってあの世に」という発言をされており、その志の高さは本物であり本当に尊敬に値する方だと個人的に感じています。
とはいえ、寄付行為を行う場合には寄付金控除が認められており、所得から一定額を差し引くことで節税対策ともなります。
また、税理士として会計に携わる人間としては、永守氏が4,000億円に及ぶ資産を寄付に使わず、子供達がそのまま相続することになったらどうなるだろう?ということも頭をよぎります。※
そこで本稿は、高額所得者が相続税を真正面から支払わねばならない場合に、どれくらいの支払負担が生じるかをご紹介します。
日本の相続税は超過累進税率〜お金持ちにはキツい税制
高額所得者が寄付行為を行う大きな1つの理由は、相続税の税率が非常に高額であるがゆえのものです。
日本において相続税は、金額に応じて段階的に税率が上がる超過累進税率を採用しています。
平成27年1月より相続税は格差是正、富の再分配機能強化の観点から、税率構造等の大幅な改正が実施されましたこともあり、現在の相続税率は財産額に応じて10%~55%の8段階に分かれることとなりました。
相続税額の計算に当たっては、財産から債務を差し引いた純財産額を元に、一定の基礎控除額を控除した金額を課税標準として相続人の数に応じた税額計算を行います。
さらに、居住用等の宅地の優遇制度である小規模宅地等の特例や、配偶者の税額軽減等の税額控除もあり、様々な軽減制度もあります。
ここでは配偶者がなく、相続人は子供2名のみという前提で財産額に応じて、相続税の実効税率(相続税額/財産額)を検討してみましょう。
財産の分け方は法定相続分通りとして、財産は全て預貯金と仮定します。
総資産額 | 相続税額 | 実効税率 |
1億円 | 770万円 | 7.7% |
5億円 | 1億5210万円 | 30.4% |
10億円 | 3億9500万円 | 30.4% |
50億円 | 25億8290万円 | 51.6% |
100億円 | 53億3290万円 | 53.3% |
つまり、10億円を超えた辺りからの財産については、相続が行われると半分近くが相続税として納税する必要が出てきます。
相続人に配偶者がいた場合には税額軽減制度により上記の相続税は半減しますが、その後に配偶者が亡くなった場合には二次相続税が発生しますので、次の代に残す財産としては結局半分程度が相続税として持って行かれることになります。
使途不明になる税金より寄付の方が世を潤す
特に、永守氏の場合は2017年時点で4,000億円に及ぶ資産のうち、日本電産の株だけで2,500億円に及びます。※2
これをまともに現金化して相続すると考えれば、株式の売却時に20%の税金を差し引かれ、そこから50%以上の相続税を取られるため、手元にはわずかしか残らないことになります。(ガバナンスを考えれば売却は考えにくいですが)
このような相続税の累進課税制度について冷静に考えると、永守氏のように、「税金はどう使われるか分からないから使い道がはっきりしている公的な機関に寄付をする」という考えも非常に納得できます。
高額納税者の方に、子供が生きていくのに困らないだけのお金は残しておいて、後はご自身で使われるなり、好きな団体に寄付するなり、自分で稼いだお金は自分で使い道を決めるという考え方をされる方が多いのは、これらのことが理由となります。
お金は天下の回り物とも言いますが、稼いだお金は使ってしまった方が周りも潤うのかもしれません。
※ Forbes The World’s Billionaires
https://www.forbes.com/billionaires/list/13/#version:realtime
※2 4月26日時点の日本電産・株価より算出
Photo via VisualHunt.com