政府は消費税率のアップを前提に、その逆進性の対応として「軽減税率」の議論を活発に進めています。軽減税率の導入には様々な問題点が存在しますが、もっとも大きな問題点は「軽減税率対象品目の境界・線引き」に関する問題です。既に軽減税率を取り入れた国の先例を元に国内で起こりうる問題について提示いたします。
やぶれかぶれ軽減税率導入は問題点だらけ
11月16日に発表された7~9月期の国内総生産(GDP)は2期連続マイナス成長ということで、また景気が悪くなっているようです。
しかし、政府は消費税率のアップを前提に、その逆進性の対応として「軽減税率」の議論が活発にされています。
軽減税率の導入には、
- ・多くの事業者に対象品目の仕分け、レジの改造や取替え、申告納税事務の手間といった負担が増加する。
- ・高所得者層にもより高額な軽減効果が及ぶ。
- ・農家を中心に消費税の還付申告をすべき事業者が多く発生する。
- ・簡易課税方式の計算が複雑になる。
などの問題があります。
それだけではありません。
というか、それよりも大きな問題として、軽減税率対象品目の境界・線引きの問題が存在しています。
今日はこの点について考えてみたいと思います。
各業界は軽減対象品目に入れてもらおうと必死
まず、なぜこれほど軽減税率に関する論争が大きくなっているのでしょうか?
その理由は、似たような品目でも、軽減税率の対象になれば売れる可能性が高くなり、はずれれば売上がダウンする可能性が高くなるからです。
軽減税率の対象に入るか、入らないかは、大げさに言えば「天国と地獄」ほどの違いになるのです。
当然、各業界団体は、どうにかして軽減税率の対象に入れてもらおうと動いています。
パン業界は、パンを入れてもらいたい訳ですし、ドラッグストアの団体も大衆薬などへの軽減税率適用を求めて活動しているようです。
新聞業界は、「欧州では大半の国が新聞や書籍に軽減税率を適用しているから日本でも対象とすべきだ」と自ら社説などに書いています。
笑ってしまいますね。
各業界が国会議員を使って必死になるのは当然です。実弾が飛び交っているのかもしれません。
たとえ、このような各業界の活動が線引きに影響しないとしても、境界の設定はそれはもう複雑なのです。
生鮮食品まで軽減対象にして起こるのはカオス
10月下旬には、「軽減税率「生鮮食品」軸に調整」なんて新聞記事が出ました。
その「生鮮食品」。
簡単にいえば、精米や野菜、刺し身、精肉などです。
「生鮮食品」の定義は、食品表示法やJAS法の定義を利用することなります。そうすると、スーパーの同じ売場でも税率が異なるものが並ぶことになり、大混乱が起きるでしょう。
野菜売り場では、たとえば次の混乱が起きます。
同じサラダの材料でも、複数の葉もの野菜を混ぜた「ミックスサラダ」は「加工食品」に分類されてアウト。お値打ち価格なのに、カットするという加工が入っているからです。
一方、ベビーリーフと呼ばれる少し高い若い葉野菜を取り混ぜたものは「生鮮食品」になります。混ぜただけでカットしていないからだそうです。
肉売り場では、特にひき肉が複雑です。
牛肉や豚肉だけのひき肉は「生鮮食品」です。
しかし、同じひき肉でも、牛と豚の合いびき肉は「加工食品」となってしまいます。値段が安くなるのにもかかわらず。
合いびき肉はダメで単体のひき肉はOK!?
一方で、松阪牛や神戸牛といった高額なブランド牛は精肉で「生鮮食品」となります。
合いびき肉は嗜好品で松阪牛は普段使い!?
魚売り場でも大混乱になります。
並んでいる一つの魚の種類の刺し身はもちろん「生鮮食品」です。
しかし、ほかの刺し身との盛り合わせになると「加工食品」になってしまいます。
盛り合わせは加工食品!ってあるかいと突っ込みたくなりますね。
刺し身だけでも税率の異なるものが並ぶことになります。
穀物でも、精米が対象でパンは「加工食品」で対象外といったことになります。
自民党も流石にこれではおかしいと感じたようで、「生鮮食品」に「加工食品の一部」を加える方向で検討を始めたようです。
「加工食品の一部」として、上であげた刺し身の盛り合わせ、合いびき肉、パンなどを想定しているようです。
そのうち、刺し身の盛り合わせなど生鮮食品に近い加工食品については、原産地表示を条件に「生鮮食品」とみなす案が浮上してるそうで、こうなると、もう訳が分からりません。
外食を除き軽減対象?海外では混乱が発生した
更に先週は、「対象品目の拡大は困難 自民幹部「外食除くという線引きできるのか」なんて記事も飛び出ました。
その「外食」
定義は単純のように思いますが、「外食」と「食品」の区別が実は非常に難しいのです。
軽減税率導入済みの諸外国でもその線引きに苦労していることから、その事実を伺い知ることが可能です。
例えばドイツでは、店内で食べるハンバーガーは「外食」とされ、持ち帰りのハンバーガーは、「食品」とされています。
軽減税率の適用される持ち帰り用として購入して、一歩店を出て袋を開けて食べれば安く食べれることになるのです。
ドイツの例を日本に当てはめると、最近はやりの「ちょい飲み」をターゲットにしたコンビニも、店内とちょっとした飲食スペースで軽減税率のある無しが変わる可能性があります。
イオンのようなモールによくあるフードコートの場合、どこまでが店舗でどこからが店外と定めるのでしょうか?
更にカナダでは、ドーナツが5個以下な軽減税率対象外で、6個以上なら税率はゼロと定められています。
その理由も「6個以上は店内で食べきれるはずがない」といったもう適当な線引きです。
ドーナツ店前で見知らぬ人が集まって「にわかドーナツ購入クラブ」を結成し、購入が6個以上になるように共同購入して清算するという事態も発生したくらいです。
イギリスでは、気温より温かい食べ物が「外食」と定義したそうです。
そこで怒ったのが、ピザが冷めないよう客に届けることを宣伝文句にしている宅配ピザ業界。
あのドミノ・ピザは訴訟を起こしたそうです。
他国を見ても軽減税率を導入したところで、混乱ばかり起きているのは明白ですね。
大混乱が発生する軽減税率を本当に導入する?
このように、軽減税率を実際に導入しようとすると、購入側も食品を提供する側も大混乱になります。
日本フードサービス協会会長が発言したよううに、軽減税率導入が競争の不公平につながりかねないのです。
商品開発でも、軽減税率の対象になることをまず一番に考えがちになり、本来の商品開発から歪んでしまうことにもなるかもしれません。
ということで最後に一言。
軽減税率導入大反対!!
給付付き税額控除の導入賛成!!