メインバンク選びは多くの場合、会社に近い場所に支店があったことや、個人口座があるから、といった理由で開設されます。しかし融資や財産の保全・資産運用を考えるようになったときは、どのような金融機関をメインバンクにして付き合うのかが非常に重要となってきます。そこで本日は金融機関の種類別に、付き合うことでどのようなメリット・デメリットが生じるかをおさらいしたいと思います。
金融機関も種類によってサービス・性格は違う
読者の皆様は現在付き合っているメインバンクとの法人取引をどのようなきっかけで始められましたか?
中には知人経営者からの口利きで融通の効く金融機関を紹介された方もいらっしゃるかもしれませんが、おそらく殆どの方が会社に近い場所に支店があったことや、個人口座があるから、といった理由で法人口座も開設されたことと思います。
少ない初期投資で行える起業や借り入れの要らない規模で事業を運営されるならばそれでも良いかもしれませんが、融資や財産の保全・資産運用を考えるようになったときは、どのようなメインバンクと付き合うのかが非常に重要となってきます。
メインバンクと一絡げに言っても都市銀行か地方銀行か?公庫か信金か?といった窓口の違いで、行員の顧客に対するサービス対応や金利の融通には雲泥の差が開きます。
どの金融機関にも一長一短があるため、一定のフェーズに会社が達した時は真剣に検討する必要が生じます。
そこで本日は金融機関の種類別に、付き合うことでどのようなメリット・デメリットが生じるかをおさらいしたいと思います。
メガバンクと付き合うメリット・デメリット
1)メリット:規模が拡大すると付き合うメリットが生じる
都市銀行とは一般的にメガバンクと呼ばれる、みずほ銀行、東京三菱UFJ銀行、三井住友銀行を指します。彼らと付き合うメリットは、なんといっても全国に支店を構え規模が大きいため、幅広いサービスを行ってくれることです。数多くの企業と付き合っているため情報量も多く、付き合っていくなかで自社の規模が拡大し、融資を順調に返済すればするほど、融資枠を他の金融機関に比べて大きくしてくれたり、金利を低く設定してくれるようになります。
2)デメリット:小物を相手にしたがらない
メガバンクに融資の相談へ行った時に、入って2〜3年程度の悪く言うとペーペーの営業が窓口になったことはないでしょうか?メガバンクは実績があまりない中小企業(一般的に年間売上5億円以下)を、顧客としたがらない傾向があります。もっぱら最近では融資を受けていない、小規模でもキャッシュリッチな企業に自ら積極的な営業をかけることがあります。しかし一旦後ろ向き方針を本店または支店が立てると、行員は自らの評価(キャリア)が担当先の成績で決まるため、少しでも業績が悪い企業から、冷徹に貸し剥がしを行う場合もあります。
地方銀行と付き合うメリット・デメリット
1)メリット:地元のネットワークが効く
読者の皆様が住む都道府県や地方の大都市の名前を冠する地方銀行、例えば北海道銀行、横浜銀行、福岡銀行といった銀行が地方銀行になります。本店がある都道府県内における支店網は非常に充実しているため、地域全体におけるお金の流れをだいたい把握しています。地元の顧客が一番のお得意先であるため、最初から懇切丁寧に対応してくれる場合が多いでしょう。地元で力ある企業の経営者と新参経営者がつながっていた場合、新規顧客にも関わらず新参経営者へ数千万単位でプロパー融資を実行してくれたという話も数多く聞かれます。
2)デメリット:規模拡大時は対応しきれない
やはりメガバンクと比べれば規模の経済性が効かないのが地方銀行と付き合うデメリットです。東京には支店があるけれど、大阪には支店がない、名古屋には支店がない、というように全国展開しようと思う時には、融通が効きにくくなります。また、規模が小さいためメガバンクに比べて、少ない金額の融資で工数は大きい融資とさほど変わらない分、金利を高く設定せざるを得ないのも現実です。
公的金融機関と付き合うメリット・デメリット
1)メリット:創業時の支援体制がバツグン
公的金融機関とは、日本政策投資銀行、日本政策金融公庫、など日本政府が出資金を出している金融機関です。公的金融機関と付き合うメリットはズバリ創業時の企業に対する支援に積極的な体制を敷いてくれていることです。例えば、創業支援融資などのように創業時で何も実績がなく、他の金融機関が融資してくれないような状態でも公的金融機関は窓口を開いてくれます。また金利も据え置きの場合が多く、ある程度返済について計算しやすい社内体制を構築することが可能です。短資の借り換え時に貸し剥がしを受けることもまずありません。
2)デメリット:対応に手間がかかる
当たり前の話ですが、他の金融機関と比較して有利な条件で融資してくれる分、細かな書類(資金使途・事業計画書・返済計画書)を用いた説明が事前に必要とされます。また他の金融機関と違って、担保があるから融資してほしいという説明はできません。あくまで事業計画に基づいた融資の返済を行えると約束できなければ、話には応じてくれないのです。また融資を受けた後に返済計画を一度でも破ると、その後は一切付き合ってくれなくなります。
信用組合・信用金庫と付き合うメリット・デメリット
1)メリット:地元のネットワークが効く
特に地方都市においては局地的なシェアが非常に高く、その街に所在する企業を大切にしてくれるのが最大のメリットです。比較的小さいなベンチャー企業であっても、熱心に会社へ定期訪問してくれるケースが多く見られます。リクルートのような大企業であっても黎明期には、地元の芝信用金庫から金融機関とのお取引が始まったのは有名な話です。
2)デメリット:融資には限度があり金利高い
信用組合・信用金庫は一つ一つの融資規模が小さいため、他の金融機関に比べて1つの融資に対してかかるコストが高くつきます。なぜなら少ない金額の融資にかかる工数も、大きい融資にかかる工数とさほど変わらないからです。そのため信用組合・信用金庫は、顧客への融資にかかる金利を高く設定せざるを得ません。また信用保証協会を通じた融資の場合には、信用保証協会の保証付き融資が中心となり、無担保保証の一般保証枠が8千万円までと決められているため、融資枠には制限があります。
付き合いは関わる担当者に左右される場合も
ここまでご覧になっていただき、いかがだったでしょうか?
自社がメインバンクとして取引を望む金融機関として望ましい先は、自社の規模や事業フェーズ、財政状況によって全く異なります。
最後にもう一つ、金融機関と取引する前に必ず踏まえておきたいことがあります。金融機関との付き合いは、担当行員や支店長の力量・さじ加減で全く変わることです。
取引先の担当者が小さな金融機関に所属していても有能で情熱を持った人間であれば、積極的に様々な支援策が貴方に舞い込みます。一方で、幾らメガバンクと付き合っても無能な行員が担当に付けば、メガバンクは貴方にとって全く役立たずの金融機関となってしまいます。
中にはメガバンクと地方銀行・信用金庫の両方と付き合っていても、無担保融資枠は地方銀行・信用金庫のほうが大きいという企業も多々存在します。
そのような場合は、見栄を張るより実を取り、地方銀行をメインバンクとするほうが賢明と言えるでしょう。
また、行員や支店長は数年に一回(3〜5年)で、転勤となります。コンプライアンスの観点から不当な力を特定の地域や企業へ及ぼすことがないようにするためです。
担当の行員が転勤になるから、支店長が栄転するから、取引がうやむやになる。ということがないように、「メインバンクはここにする」と決めたならば、長期的な視点で付き合い方の方針を決めることが必要になります。