過去に散々お世話になったパイセン(先輩)経営者の会社が傾いています。これまでの経緯を考えた貴方はパイセンへの恩義を返すのは今だと思い、無利子で会社からパイセンの会社へ貸し付けを行うことを決意しました。ところが、この業務を経理のB子さんにお願いしたところ、B子さんは「うちが損する!」と激しく叱ります。なぜでしょうか?詳しく解説いたします。
大好きなパイセン経営者の会社がピンチに…
貴方が若い頃、起業したての時にとてもお世話になったパイセン(先輩)がいました。
パイセンは先に起業していたので、経営者としてのイロハをいつも教えてくれ、ピンチの時はアドバイスをくれ、さり気なく仕事を渡してくれた、そんなかけがえの無い存在です。
あれから数年…貴方は時代の波を掴んで事業を軌道に乗せ、人も何人か雇えるようになりました。
ところが、しばらく会っていないうちに、パイセンの会社が逆にピンチを迎えていると貴方は風の噂で耳にします。
居ても立ってもいられず、パイセンに久しぶりに会いに行ったところ、何やら浮かない表情。
聞けば、大手企業との大口取引をいきなり切られてしまい、急な資金繰り悪化に困っているそうです。
男の友情で無利子の貸し付けを決意する貴方
話を聞いている最中、貴方の頭によぎったもの、それはあの起業したての日々でした。
パイセンが凹む貴方を景気づけるためにキャバクラに連れて行ってくれた8月の夜。
人材マネジメントについて、同じトップなのに全く食い違う意見をぶつけ合った12月の忘年会。
あんなにも大きかったパイセンの背中が、今はこんなに小さくなってしまった。
…イヤ、そんな感傷に浸っている場合ではない!これまで助けてもらったパイセンの背中を今度は俺が押す番だ!
「パイセン、今まで僕は本当にお世話になりました。だから、次は僕がパイセンの役に立ちたいです。うちの会社から1千万円くらいまで無利子で貸します。」
パイセンはしみじみ涙しながら、「お前、本当にありがとな…俺絶対に死ぬ気でやるから。」と頷きました。
無利子の会社貸し付けがマズいのはなぜか?
さて、ここまではよくある経営者同士の友情物語ですが、パイセンにお金を無利子で貸し出すことを約束した貴方は、会社に戻ってから経理のB子さん(超優秀)にこっ酷く叱られます。
なぜだと思われますか?
それは、幾ら友情がパイセンと貴方の間に存在しているとしても、貴方の会社に税務上の大きな問題が発生しているからです。
というのも法人税法第22条第2項には以下の文言があります。
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
「無償による資産の譲渡は…(中略)資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」という文言はつまり、パイセンに貸したお金は商取引の一環で行われたものとして、貸したお金に未収利息が発生してしまうことを意味しています。
この場合、租税特別措置法第93条第2項《利子税の割合の特例》に規定する特例基準割合による利率で計算された未収利息にかかる法人税を、貴方の会社が支払わねばならなくなります。
これがB子さんが貴方を叱った理由になります。
たとえ、貴方とパイセンの友情がそこに存在していたとしても、会社のお金を貸し付ける場合は、必ず利息を付けなければ後でややこしいことになりますので注意が必要です。