平成24年に使いやすい制度に改良された、サラリーマン向けの節税対策「特定支出控除」ですが、平成27年時点で全国の利用者はわずか1800人程度しかいません。当初はスーツなど衣料費も控除の対象となることから注目されていましたが、それ以上に面倒くさい2つの障壁が、特定支出控除を一般に浸透させにくくしています。
特定支出控除を使う人は全国でわずか1800人!
個人事業主や複数の収入がある方は、毎年確定申告をすることで、ビジネスにかかる正当な経費を計上して所得を下げ、所得税・住民税を抑えることができます。
一方給与所得者、いわゆるサラリーマンの方は通常確定申告はしません。
しかし、実は給与所得者でも確定申告することで、仕事の経費を計上できる、「特定支出控除」という制度が存在します。
住宅ローンや医療費などの申告で税金還付を受けられるのはご存じの方も多いですが、この特定支出控除は意外と知られていません。
現に全国の給与所得者5400万人中、この制度の利用を利用しているのは約1800人だそうです。(平成27年)
利用率なんと0.003%!
サラリーマンの節税というと誰でも興味を持ちそうなものですが、なぜそこまで広がっていないのでしょうか。
特定支出控除の対象となる8つの支出とは?
まずは、「特定支出控除」の対象となる支出を見てみましょう。
以下8つの項目が、これに該当します。
- ①通勤費:一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出
- ②転居費:転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出
- ③研修費:職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
- ④資格取得費:職務に直接必要な資格を取得するための支出 ※弁護士、税理士なども含む
- ⑤帰宅旅費:単身赴任などの場合の、帰宅のための旅費
- ⑥図書費:書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用
- ⑦衣料費:制服や作業服、その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服費用
- ⑧交際費:得意先、仕入先などに対する接待、贈答など
ちなみに、図書費・医療費・交際費は、職務の遂行に必要なものとして勤務先の証明書が必要で、上限65万円までが控除対象となる金額です。
スーツに年間65万円使っても控除の対象外…
この制度が当初注目されたのは、⑦の衣料費が経費にできるというところでした。
通勤費や転居費、研修費などは勤務先から支給されることも多いですが、通常衣服代は支給されません。平成25年くらいには、「スーツを買っても節税になる」といった報道をしょっちゅう目にしました。
しかし実際はそう簡単な話ではありません。
この制度を利用するには、上記①~⑧の合計額のうち、その年中の給与所得控除額×1/2を超えた額という条件が付きます。
例えば年収600万円の場合、1年間に87万円以上の業務に関する支出がないと、そもそもこの制度は受けられません。
しかも前述したように、スーツなどの衣料費や図書費は上限65万円。つまり仮にスーツを65万円分購入したとしても、それだけでは87万円に届かず、その年控除は受けられないのです。
年収 | 給与所得控除額の1/2 |
300万円 | 54万円 |
600万円 | 87万円 |
900万円 | 105万円 |
1,000万円 | 110万円 |
特定支出控除が浸透しない理由1:節税の効率が悪すぎ
つまり、特定支出控除は転勤の際の転居費など、ある程度のまとまった支出がないと、利用する機会がかなり少ない制度なのです。
新幹線通勤などで、会社の規定を超えた部分なども対象になりやすいかもしれません。
ただ、そもそも65万円分もスーツを買う方がどれくらいいるでしょうか?
仮に年収600万円の人が転勤を命ぜられ、転居に40万円、毎週末家族に会いに年間40万円、スーツに20万円、合計100万円支出したとします。
100万円-87万円(控除額)=13万円
税率が10%だったとして、13,000円の還付となります。
100万円の支出をして13,000円とは、物足りない気がするのは私だけではないはずです。
特定支出控除が浸透しない理由2:会社に支出を認めてもらう必要がある
支出額もそうですが、個人的にはもう一つの高いハードルがあるように思います。
上記の通り、図書費、衣料費、交際費には、勤務先が発行する証明書が必要になると書きましたが、つまり「業務の遂行に必要だった」と会社が認めてくれないと控除対象になりません。
その顧客との会食は誰の判断だったのか、この書籍は業務に直接関係あるのか、など会社(人事や社長)と意見が分かれることもありそうですね。
これらの事を踏まえると、0.003%の利用率もうなずけます。決して「使い勝手の良い制度」とは言えないですね。
とはいえ、数少ないサラリーマンの節税。転勤関連の支出を予定している方は、その他の支出も合算すれば控除に届くかもしれません。
このような際に気にしてみるくらいがちょうど良いでしょう。