日本企業の多くは、家族と同じ経済単位、もっと言えば夫婦を基本として会社を運営している場合が多く見受けられます。夫婦の収入を1つにまとめると、経理作業や社会保険手続きの手間がはぶけます。一方で夫婦で所得を分散すると、累進課税制である所得税の特徴を生かして、大幅な所得税の節税が可能になります。簡単な例を元に説明します。
日本の企業は同族経営・夫婦単位の経営が多い
日本企業の99.7%は中小企業、更に同族会社の割合も97%となっており、言わば多くの会社が、家族と同じ経済単位を基本として会社を運営しています。※
奥様や旦那様が一方の経営する事業について、ボランティアやアルバイトのような形で手伝っているケースは、皆さんも目にする機会が多いのでは無いでしょうか?
更に、身内だからということで、配偶者の一方に、アルバイト代くらいしか出さない、もしくは一切給料を出さないということもあります。
確かに、同じ会社にいるのならば、収入を1つにまとめたほうが経理作業や社会保険手続きの手間がはぶけるのは事実です。
また、夫婦で所得を分散したところで、法人税を節約することができるわけでもありません。
しかし、夫婦が同じ会社にいるのであれば、夫婦で所得を分散することで、家族の手取りを増やすことが可能になります。
つまり、所得税の節税が可能なのです。今日は、そのからくりを簡単にご紹介しましょう。
所得税の累進課税制を利用し所得分散で節税
夫婦で所得分散すると節税できる理由、それは日本の所得税が累進課税制となっているからです。
以下は、所得税の税率速算表になります。この表を元に以下、例を交えながら説明しましょう。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
たとえば、年収1,000万円を役員報酬として経営者(夫と仮定)がもらう場合の所得税は、1,000万✕0.33-153.6万=176.4万円となります。
一方で、妻を取締役にして、配偶者控除の適用を受けられる、ギリギリの103万円を役員報酬として渡す場合は、夫の役員報酬は897万円となります。
この数字から所得税を計算してみると、
- 妻:配偶者控除の適用を受けて所得税は0円
- 夫:897万円✕0.23-63.6万円=142.71万円
所得分散しない場合よりも約34万円分、所得税を節税することが可能になるのです。
たとえば、会社が少し大きくなり、年間で2,000万円の報酬を経営者として受け取れるようになったとしましょう。
この場合、経営者が単体で2,000万円を役員報酬として受け取ると、2,000万✕0.4-279.6万=520.4万円の所得税を払う必要が生じます。
一方で、夫と妻が両方で役員報酬を1,000万円ずつ分散して得る時は、
- 妻:1,000万✕0.33-153.6万=176.4万円
- 夫:1,000万✕0.33-153.6万=176.4万円
合計で352.8万円を支払えば良い形となるため、約167万円の所得税を節税することが可能になるのです。
配偶者控除の改正動向などは常に注視しよう
このように、所得税の累進課税について紐解くと、日本企業の多くが夫婦を最小単位として経営されていることは、非常に理にかなったことと言えます。
ただし、配偶者控除の制度改正の有りや無しやの議論が続いてますから、その動向によっては所得分散の配分を柔軟に変えていく必要があるでしょう。
また、夫婦で同額の役員報酬を受け取る時には、その額が大きくなるほど、税務調査で労働の実態などについて、税務署からのツッコミを受けるようになることにも注意が必要です。
※我が国の中小企業の実態 中小企業庁
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100215a05j.pdf