従業員の給料から特別徴収した住民税の支払いは、思った以上に事務処理コストがかかる作業です。ネットバンク対応していない地方自治体がほとんどですし、毎月支払いをするのでは、あまりに面倒臭すぎます。実は、これらにかかる事務処理作業を簡略化するために「納期の特例」という制度があります。中小企業にとってはありがたい制度です。
特別徴収の住民税支払で銀行に行くのは面倒
従業員の給料から特別徴収をした住民税は、原則としてお給料を支払った月の翌月10日までに、最寄りの金融機関の窓口で納付の手続きを行う必要があります。
従業員が退職するなど異動が無ければ、毎月納付する金額は基本的に同額です。
よって、毎月銀行に行って納付をする手続きが必要となるわけですが、この作業は、経理の人間にとって非常に面倒くさいものです。
小さな会社だと、経営者自らが毎月この作業を行うので、業務の効率化を阻害する一因となる場合すらあります。
「えー、混んでいる銀行の窓口に行くの面倒くさいから、振込とか自動引落とかできないの?」
このような声も、実際にあります。
私が事務所を構える神奈川県では、横浜市・川崎市に納める場合、ペイジーという手続きでネットバンク支払いをすることが可能です。
ただ、上記以外の市町村は電子納税をすることが出来ません。なんと、東京都の23区内でも電子納税は出来ないのです。
つまり、自動引落も出来ないので、必ず金融機関の窓口で手続きをしなければならないのです。
各自治体には早急に、ネットバンクなどでも納付手続きができるよう、改善を早くしてほしいモノです。
銀行に行く回数を年2回に減らす「納期の特例」
ただし、いくらインターネットバンキングなどで事務を効率化しても、住民税の納付のためだけに銀行に行かなければならないなんて、面倒くさすぎると思いませんか?
そのように思う方は「納期の特例」という制度を利用してみましょう。
納期の特例の制度とは、本来毎月納めなければならない住民税の納付を、6月と12月にまとめて6ヶ月分納付するというモノです。
具体的には、
- 1) 6月から11月までの住民税・・・12月10日までに納付
- 2)12月から翌年5月までの住民税・・・6月10日までに納付
という流れになります。
この方法を選んでも、銀行で納付をする点は変わらないのですが、少なくとも銀行に行く回数は、年12回から年2回に減らすことが出来ます。
これだけで、大幅に事務負担が減ります。
納期の特例を活用するために必要な3つの条件
納期の特例を選択するためには、3つの条件をクリアしている必要があります。
以下、ご紹介いたします。
1) 常時使用する従業員が10名未満
お給料を支給する人数が、1ヶ月当たり10名未満であることが条件になります。
この人数には社長などの役員も含まれますが、1~2カ月程度の短期のアルバイトなどについては含める必要はありません。
「小規模な事業所は事務作業も大変だし、税額も多くないから半年に1回でいいよ」という制度趣旨に基づく要件です。
ただし、以下のような状況だと、この特例は利用できません。
住民税の対象者が3名で、あとはアルバイトばかりで20名の会社
あくまで従業員の人数が10名未満かどうかで判定するので、この場合には納期の特例はNGです。
住民税の対象者が、10人未満であるという意味ではありませんので注意しましょう。
A市に住んでいる人が8名、B市に住んでいる人が5名の場合
この場合はそれぞれの市で10名未満ですが、納期の特例の判定は全体の従業員の人数で判断します。
この場合には納期の特例を受けることができません。
2) 適用を受けるには「承認申請書」の提出が必要
納期の特例を適用するためには、市区町村に対して「特別徴収税額の納期の特例に関する申請書」という書類を提出して、承認を受ける必要があります。
従業員の人数の要件さえクリアしていれば、基本的に承認してもらえますので、そんなに難しい手続きではありません。
申請する事業所の住所や名称を記載して、以下の内容を記入します。
- ① いつの納付分(○年○月)から適用するか
- ②申請月の前6ヶ月間の給料を支給した人数と金額
- ③住民税の滞納の有無など
承認申請書テンプレート
これらの事項を記入した書類を、市区町村の担当役所窓口に提出します。
基本的に即日承認となると思うのですが、一部の自治体(横浜市など)は承認まで数日期間を要する場合もあるようです。※
承認が出た月の翌月分から、納期の特例で手続きを行うことができます。
3)承認が出た後の納付方法
納期の特例の承認をうけた場合、翌月分からまとめて納付が可能となります。
例えば、毎月納付すべき住民税額が80,000円だった事業所が、7月10日に納期の特例を受けた場合はどうでしょう。
この場合は7月分(8月10日納付分)までは毎月納付となるので、今までと同じように住民税を納めます。
翌月の8月分から納期の特例が摘要となるので、8月~11月分の4ヶ月分(320,000円)を12月10日までに納付することになります。
12月~翌年5月分の6ヶ月分(480,000円)からは、6月10日に納付すればいいわけです。
この場合、新しい納付書を送ってくれる自治体もありますが、そうでない場合には、11月分と5月分の納付書の金額を訂正して使うことができます。
翌年の6月以降は新しい納付書が届くと思いますが、取りやめをしなければ、自動的に年2回の納付書が送られてきますので楽ちんですね。
納期の特例適用にあたり注意しておくべきこと
最後になりますが、納期の特例を選択した場合には以下、3つの点に気をつけて申請しましょう。
1)一回あたりの納付額が増えるので資金繰りに注意
半年分をまとめて納付するわけですから、毎月納付していた金額の6倍の資金を、一気に会社から出さなければなりません。
うっかり忘れていると、資金繰りに影響を与えるので注意が必要です。
2)源泉所得税の納付の時期と1ヶ月ずれている
お給料から天引きする所得税(源泉所得税)にも、納期の特例の制度があります。
源泉所得税の納付期限は7月10日と1月20日ですが、住民税の納付期限は6月10日と12月10日です。
1ヶ月ずれていますので注意しましょう!
3)途中で退職した人がいた場合には金額に気を付けよう
退職した人がいた場合には「住民税の異動届出書」を提出して、住民税の金額を精算する必要があります。
この場合には納付すべき金額が変わることがありますので、退職した人がいた場合には、必ずチェックするようにしましょう。
途中で入社した人の住民税の特別徴収切り替えなどをしたり、違う市町村に住んでいる人を採用した場合も、同様に手続きが必要となります。
いかがだったでしょうか?
納期の特例を活用すると、事務手続きを簡略化することで効率化できますし、事務処理ミスを防ぐことにもつながります。
住民税の手続きは想像以上に手間がかかりますので、今のうちから早めに対策をしておくことをオススメ致します!
備考
※申請書は各市区町村のホームページからダウンロードできます。