起業時に会社へ貸付を行って、食いつないだ経験をされている経営者の方は非常に多くいらっしゃいます。いわゆる役員借入金です。しかし、うまく行き始めると役員借入金を会社に残したことを忘れてしまう場合があります。もし突然自分が死んでしまったら?なんとこの借入金に相続税が掛かって、家族が路頭に迷ってしまう場合も!役員借入金の解消方法をプロに3つご紹介頂きます。
会社のためを思った社長の自腹が大変な事に?
会社を設立した時、初めから軌道に乗れば、それはよい話ですよね。
しかしながら、そうは上手くいかないことも多く、社長さんの多くが自分のポケットマネーから会社の経費を出すことも少なくありません。
ところが、この社長からの借入金を放っておくと、後々になって、大変なことに成り兼ねないことをご存知でしょうか?
どのような時かと言いますと、
社長からの借入金が残ったままで、社長が急遽亡くなってしまった時
の場合です。
急に亡くなられなくても、いつの間にか亡くなってしまう、ということも少なからずあります。
役員借入金が残ったままの何が問題になるの?
会社に社長の借入金がある場合、社長が亡くなった時点で、その借入金は社長という役職を切り離して、一個人の観点から会社に貸し付けたお金として、親族の「相続財産」となってしまいます。
つまり、残された遺族はその役員貸付金に対して、相続税がかけられるようになるのです。
考えてみますと、会社にお金が無いから、会社に自分の財産を使ってお金を貸している。
会社のお金が足りているのであれば、それはもう返済しているはずです。
要は、返せないお金なのに「財産」と言われてしまい、その分の相続税を払えない(納税できない)なんてことが起きかねないのです。
以前私が見たのは、社長が80歳近くなのにもかかわらず、会社に社長の借入が1億超残っている会社がありました。
その会社は以前は繁盛していたようですが、現状は毎年赤字であり、かなり資金繰りが苦しい状態です。
勿論、社長への借入金1億円を返済するなどということはできません。
しかしながら、その社長がもし亡くなった場合、その1億円は相続財産となるのですから、それに対して相続税がかかるのです。
考えただけで恐怖ではないでしょうか?
役員借入金を無くすために知る3つの対策方法
このような場合に取れる対策は、主に3つあります。
- 社長の役員報酬を減らし、返済に充てる
- 社長の借入金を資本金に振り替える(DES)
- 社長の借入金を債権放棄してしまう
それぞれ、見ていきましょう。
対策1:社長の役員報酬を減らし、返済に充てる
こちらは金額が比較的少額であったり、地道に返済することができる範囲であれば使う方法です。
例えばですが、細かい所得税などを抜きにして、下記のように月々50万円の役員報酬の会社があるとします。
- 【通常】役員報酬500,000円/現預金500,000円
これを役員報酬を30万円に減額し、借入金の返済にする。
- 【改訂後】
役員報酬 300,000/現預金500,000
役員借入金 200,000
このようにすれば、年間で240万円返せるという訳です。
社長の手取りも変わりません。(所得税や社会保険を考えると増えるでしょう)
但し、役員報酬は変更できるタイミングが決まっているので、ご注意を!
対策2:社長の借入金を資本金に振り替える(DES)
現在の借入金を資本金に振り替えます。
仕訳的には
借入金/資本金
この最大のデメリットは、会社の決算時で納める法人住民税の均等割の増額です。
この策を行う時は、事前にそこは確認しましょう。
均等割は市・県併せて、7万円~380万円まで幅があります。
とはいっても資本金が1億円以下であれば、均等割20万円です。(都民税の場合)
相続税と比較したら、断然住民税の均等割を払う方がリーズナブルだと思います。
対策3:社長の借入金を債権放棄する
会社に対する社長からの借入金を免除してもらいます。
これを行う時の注意は、会社の方では「債務免除益」という収入が計上されることです。
会社がかなり赤字で、繰越欠損金が多額にあるのならば、債務免除益は相殺できるので良いのですが、もしもその会社が黒字企業であれば、その分利益が底上げされるので法人税が増額します。
特に債務免除益が足されて、結果として所得金額(≒税引前利益)が800万円を超えると、その分の中小の軽減税率は使えずに、800万円を超えた部分の税率は15%から23.9%に跳ね上がることを考慮した方が良いでしょう。(平成28年4月10日現在の税率による)
「大事の前の小事」家庭を守り攻めに転じよう
以上、いかがでしたでしょうか?
経営者の方は軌道に乗ってきたりしますと、会社への借入金には注意がいかなくなることが多々見られます。
また、こんな事は考えたくないでしょうが、過度な働きから急に亡くなられる社長さんも少なくないと聞きます。
『大事の前の小事』とはよく言いますが、やはり経営者の働きを支えてくれる家族を守ってこそ、攻めに転じることも可能になります。
残された家族に相続税で負担をかけないためにも、今一度会社への貸付金を考慮されてはいかがでしょうか?