昨年、2つのビルを併せて188億円で売却したはずのシャープが、そのうち1つの田辺ビルを138億円で買い戻しました。単純計算で考えると田辺ビルの価値は115億円程度であるため、シャープは23億円の損をした計算になります。余裕が無いはずのシャープはなぜ23億の損をしてまで田辺ビルを買い戻したのか?考えられる2つの理由をご紹介します。
一旦売却した本社ビルをシャープが買い戻す
台湾の大手ファブレスメーカー・鴻海の傘下に入り経営再建を目指すシャープは昨年、合理化の一手段として大阪にある2つのビルを188億円で売却しました。
本社ビルは家具販売大手のニトリに、田辺ビルはNTT都市開発にそれぞれ譲渡して、現金化を図ったのです。
ところがシャープは一転して9月21日に、NTT都市開発との間で売却したビルを138億円で買い戻す契約を結びました。
なぜシャープは田辺ビルを買い戻したのでしょうか?
1つ目に思いつく買い戻しの理由:経済合理性
シャープは確かに一旦田辺ビルを売却しましたが、セールアンドリースバックで賃貸料を払って入居し続けています。
セールアンドリースバックとは、自社が既に保有している固定資産を一旦売却し、その固定資産をただちにリース物件として賃借するリース方式のことです。
セールアンドリースバックには、資産売却によりキャッシュに余裕を持てる、税金の支払いを含めた事務の簡素化が実現する、などのメリットがあります。
田辺ビルを買い戻した1つ目の理由としては、リースバックの条件が相当悪かった可能性が考えられ、いったん買い戻しをしたほうが結果として経済的合理性があったのかもしれません。
2つ目に思いつく買い戻しの理由:鴻海の本気
昨年売却した本社ビルと田辺ビルは産経新聞記事によると、本社ビル約7千平方メートル、田辺ビルが1万1千平方メートルということです。
188億円を単純に敷地面積で割り振ると、本社が73億円、田辺ビルが115億円になります。
ところが、田辺ビルを138億円で買い戻すと、23億円損をする計算となるため、さすがに経済合理性だけで、今回の判断は合点がつくものではありません。
実は、今年の4月に鴻海とシャープが開いた共同会見で、鴻海グループ副総裁である戴正呉氏(現・シャープ取締役社長)は、「大阪本社を買い戻したい」とコメントしています。
「23億円の損」という数値を見ると、鴻海が創業の地を取り戻して、気合を入れ直そうといっていることもあながち嘘っぱちとはいえず、それなりの信憑性を感じます。
鴻海のシャープに対する影響力が強まっていることを、今回のニュースから推測することができるでしょう。
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