税務調査で従業員の横領が発覚しましたが、既にお金は借金の返済に使われて、おまけに従業員が自己破産…こんな時でも横領に係る取引は仮想隠蔽行為として機械的に重加算税の対象となり、支払い義務が会社に課せられます。破産されると安易に貸倒損失も計上できず、銀行の心証も悪くなります。これらを踏まえると、経営者は絶対に横領されない会社の体制を作る必要があります。
従業員の横領を見つけるも自己破産でバンザイ
先だっても、とある大企業の子会社で横領事件が発覚しましたが、毎年のように従業員による横領事件が絶ちません。
その手口は、帳簿を操作して自分の懐に入れたり、会社の備品を勝手に売ったり、取引先に架空請求させて裏でバックさせたりと様々です。
また動機も、遊ぶ金欲しさや異性につぎ込む、ギャンブル、借金苦など多様です。
横領が見つかるのは、大企業では内部監査等でということも間々ありますが、特に中小企業では税務調査の時に発覚するというケースが多くあります。
業務量や人数などの制約でなかなかチェックまで手が回らない実情のせいでしょう。
例えば自社に税務調査が入り、従業員の横領が発覚したとします。
架空の経費を計上し、その金額を自分の借金の返済に充てていました。挙句、返しきれずに自己破産までしています。この場合の取り扱いはどうなるのでしょうか?
元従業員に損害賠償を出すも実質は会社が金銭負担する
会社としてはその従業員に対する損害賠償請求を行うことになりますが、税務上まずは架空経費の計上時期にさかのぼって全て否認しなくてはなりません。代わりに従業員に対する未収入金が計上されます。
それにより課税所得が増えれば、法人税等を追加納付し、さらにこの架空経費が消費税の課税対象として処理されていれば、消費税の追加納付も発生します。
さらに問題なのは、この横領に係る取引は仮想隠蔽行為として重加算税の対象になってしまうということです。
社長としては、横領されたうえに重加算税まで課せられるのは納得いかないことです。
しかし、従業員も会社の一員であり、不正を起こさせないような体制をとっていなかった会社(経営者)にも落ち度があるということで、よほどの酌量の余地がなければ免れ得ません。
また注意が必要なのは、相手が自己破産しているからと言って、安易に損失(貸倒)を計上できない点です。
というのも、破産法では破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は破産しても免責されないこととなっており、横領による損害賠償金はまさにこれに該当してしまうためです。
地道に相手からの返済を受け続けるか、時効を待って損失とするか、いずれにしても長期間かかってしまいます。
銀行取引にもマイナス効果〜横領を絶対にされない体制作りを
もし会社側から請求権を放棄(免除)すると、その従業員に対する給与(賞与)となる可能性があり、その場合は会社が源泉税を納付しなければなりません。
もちろん源泉税は従業員本人から預かる必要がありますが、相手に資力が無ければ実質的に会社負担となってしまいます。
さらには銀行取引でもマイナスです。従業員に横領されてしまうような会社に、果たして銀行がお金を貸したいと思うかどうか、少なくとも心証が相当悪くなることは間違いないでしょう。
横領などされないような会社の体制を作ることが一番の早道です。