従業員にとって賃金は一番大切な労働条件ですが、経営者にとっても賃金の支払は、会社の生き死にを左右する大きなイベントです。なぜなら、日本では労働者保護の観点から最低賃金法や労働基準法賃金が整備され、経営者が賃金支払いを行う際は、大きな負荷がかかるからです。とはいえ何か一つくらい給与支払いを通じて、健全で合法的な節約術はないか?という点を労務のプロが解説してくれます。
賃金の支払い条件は政府に厳しく制限されてる
賃金は、労働者にとって最も重要な労働条件です。
従って、日本政府も賃金には、労働基準法等で様々な制限を定めています。
ところが、賃金に関する法律は、経営者の方も意外に知らないのが実情とも言えますので、今回は、賃金に関する法律についてお話ししていきたいと思います。
政府が最も重要視しているのは最低賃金法遵守
皆さんも御存知のように、賃金には「最低賃金」が定められています。
最低賃金は、最低賃金法というもので定められていますが、これが賃金と法律の関係で一番注意しなければならない分野になります。
使用者は従業員の賃金を自由に決めることができますが、最低賃金法で定められた賃金を下回ることはできないことになっています。
最低賃金は、都道府県ごとに時給で定められ、賃金が月給で支払われる場合には、時間給換算されます。
例えば、月給150,000円の社員がいたときに、
- 年間休日:107日
- 1日あたりの労働時間:8時間
という場合には、
年間労働日数が365日-107日(年間休日日数)=258日となります。
1ヶ月の平均労働日数は、258日÷12ヶ月=21.5日となり、1ヶ月の労働時間は、21.5日×8時間=172時間となります。
150,000円÷172時間=872.09円となり、この金額が、各都道府県の設定する最低賃金を上回っている必要があります。
また、最低賃金は一定の業種について、個別に最低賃金を定めているので注意が必要です。
例えば、千葉県の場合、千葉県の最低賃金は817円(平成28年2月現在)ですが、鉄鋼業については別途で893円と定められています。
従って、千葉県で鉄鋼業に従事する労働者には、最低でも時給換算で893円以上の賃金を支払う必要があります。
賃金の法律については、まず第1に最低賃金法に注意する必要があります。
賃金の支払いは月一以上でなければ労基法違反
次に注意するべき法律は、労働基準法第24条で定められる「賃金は月に1回以上、一定期日に支払う必要がある」というものです。
これは、同24条が定める賃金5原則、
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 一定期日払いの原則
- 毎月一回以上の原則
の一つに当たります。
賃金を2ヶ月に1度、2か月分をまとめて支払うという賃金の支払い方法は、法律違反となります。従業員が労働基準監督署に訴えれば、一発アウトで指導が入ります。
また、賃金は一定期日に支払うことが求められており、毎月同じ日に支払われる必要があります。
ですから、ある月は15日、別の月は25日、といった決め方や、「15日から25日の間」や「毎月第2土曜日」といった決め方は、法律違反となります。
毎月第2土曜日といった決め方では、月によって7日も賃金支払日が、変わってしまうからです。
こんな具合で、日本政府は賃金の支払いについて、厳しい制限を経営者に課しているのです。
従業員毎に支給日を変える節約術は合法である
賃金は最低保証を求められ、支払い条件も厳しく定められ、経営者にとって給与支払いほど苦しい作業はありません。
何か一つくらい、賃金支払いで誰にも責められない節約術はないのでしょうか?
あります!
意外と知られていませんが賃金の支払日について、経営者には唯一と言って良いほど有利なルールがあります。
「賃金は従業員ごとに支払日を変更しても良い」というルールです。
例えば、月給の社員は15日、時間給の社員は25日、といった支払方に賃金支払日を設定することは、全く問題がありません。
このルールを活用すると、特に会社規模が急拡大した時の賃金支払いや、業績が急速に悪化した際の賃金支払いにおいて、キャッシュフローにかける負荷を軽くする節約効果が生じます。
途中からこの制度を導入すると、非常に風当たりが強い場合がありますので、制度を導入するのであれば十分な説明が必要となるでしょう。
もう一つ最後にプチ情報ですが、支払日が休日に当る場合は、支払日を繰り上げることも可能ですが、繰り下げて支払うことも法的には認められています。
とはいえ、厳しい制限だらけの賃金支払いは、ちょっと間違えると違法になります。経営者はよくよく、法律について知っておく必要があります。