経営者がもともと持っている土地に借地権を設定し、新規工場や新規オフィスの建設コストをなるべく削減する場合があります。ところが、金銭のやりとりが発生していないという理由で、借地権設定を税務署へ無申告でいると、認定課税がかかって、かえってコスト負担が大きくなってしまいます。これを防ぐために重要なのが「土地の無償返還に関する届出書」を提出することです。
経営者が保有する土地に会社の建物を建てたら大変なことに!なぜ?
中小零細企業の経営は、経営者と会社が一心同体という図式の中で、様々なことを成り立たせていることがしばしばです。
特に、金額の大きな不動産への投資が必要な際は、経営者がもともと持っている土地を有効活用して、なるべくコストを削減しようとするケースが多いでしょう。
たとえば、工場や支社の事務所を建設する場合に、もともと経営者名義の土地に借地権を設定して、会社名義の建物を建てることがあります。
この場合、地域ごとに名目は変わりますが、借地権の設定時には権利金や礼金といった名義で、借地権の設定者と権利取得者の間で、返還義務の無いお金のやり取りが発生します。
しかし、あくまでも経営者が持つ土地を会社が利用することで、コストを削減しようとしているわけですから、権利金のやり取りをしない場合があります。
ところが、税務署側から見ると、経営者から会社への贈与が行われたものとみなして、認定課税を課せてくる場合があります。
企業にとってこれは大変な事態です。その理由を以下ご説明します。
借地権に認定課税がかかると膨大なキャッシュアウトが生じる
贈与が行われたものとみなされる場合、会社側は「土地の価格✕借地権割合」の権利を、経営者から「タダ」で受け取ったものと認定されます。
土地の価格が5,000万円で、借地権割合が60%だった場合は、経営者から会社側に3,000万円の贈与が行われたということになってしまうのです。
つまり、企業の利益が3,000万円増えるわけですから、中小企業の法人税が33.8%(平成28年現在)とすれば、1,000万円以上の法人税を税務署が請求してくる可能性があるのです。
これでは当初掲げたコスト削減の目的が達成できませんし、会社から大きなキャッシュアウトが発生することになってしまいます。
逆に、会社が保有する土地を、経営者が家を建てるために借りて借地権を設定した場合でも、経営者が3,000万円の給与所得を得たものとなってしまいます。
経営者は余分に3,000万円を用立てなければなりません。
こうなると、あまり経営者と会社の間で借地権を設定する意味がなく、かえって損になってしまう場合すらあるでしょう。
無償返還に関する届出を提出して認定課税を回避せよ!
このような事態は、経営者と会社間で借地権を設定する場合に、借地人と貸主の連名により、税務署に「無償変換の届出」を提出することで回避できます。
届出書は以下のリンクからダウンロードすることが可能です。
参考フォーマットURL:土地の無償返還に関する届出書
もう1つの方法としては、地代(更地)の相当額(判例:6%)を支払うことにより、認定課税を回避することも可能です。
ただし、この場合は経営者が不動産収入を得ることにより、確定申告を行う必要があります。
無償変換の届出を提出すれば、地代も相当額より低い金額へ自由に設定することが可能です。
従って、無償変換の届出を提出することが、一番合理的な認定課税を防ぐ手段と言えるでしょう。