国税局OB税理士が顧問先企業4社合計で約5億円の脱税指南に走った件で、東京地裁は懲役5年の極めて重い実刑判決を言い渡しました。国税局OB税理士がこのような脱税指南に走った背景の一つには、国税局に存在していた天下り制度の廃止があります。多くの国税局調査官が真面目に仕事をする中で残念な出来事です。
約5億円の脱税を指南した国税局OB税理士に実刑判決
2009年から2013年にかけて、関係する顧問先の4法人に架空経費を計上する手口を指南するなどして、法人税計約4億8千万円を脱税した国税局OBの元税理士・植田茅被告に、懲役5年、罰金1億5千万円の支払いを、東京地裁が判決として言い渡しました。
顧問先には、医療法人や出会い系サイトの運営会社があり、中には著名IT企業の関連会社代表取締役を勤めた人間もいます。
執行猶予が付かずに実刑判決となったことからも、本案権が極めて悪質なケースとして認識されていたことがわかります。
近年、このような国税局や国税局OB税理士による脱税補助、脱税指南が目立っていますが、どんな背景がその裏側にあるのでしょうか?
一部の国税局OB税理士が脱税指南に動く背景
まず、国税局OBの税理士と聞くと、箔がついたイメージがついて回りますが、国税局出身の税理士は23年間その業務に付くと、自動的に税理士の資格が付与されます。
実際に以前は、国税局から民間企業への税理士斡旋も行われており、署長・局長クラスの税理が、民間の大手企業へ天下りする事例が多々あり、税務調査の時期に、税務局内部の元部下や関係先へ口利きすることも行われていました。
ところが、元札幌国税局長が2002年に2億円の巨額脱税を行い、実刑判決を受けた事件を皮切りに、税務局と民間の癒着に対する目が厳しくなり、2010年に民主党政権の元で国税局から民間企業への税理士斡旋制度は廃止となります。
以前であれば、税務局にいる間に次の仕事口を見つけられる特権的な地位が無くなったわけですが、生活を守るためなら背に腹は代えられないのが人の性。
彼らを顧問として雇用することの最大のメリットは、税務調査のさじ加減と駆け引き、脱税の指摘手口を理解していることです。
自分のキャリアで培ったノウハウを悪用する国税局OB税理士と、利益を不当にプールしたい企業経営者の利害が一致することが、国税局OBによる脱税指南が起こる背景に存在します。
殆どの国税局調査官は真摯に仕事を全うしている
とはいえ、国税局に勤める殆どの調査官は、自分達が企業から目の敵にされていることを知っていても、公平の観点から職務を果たそうとする人々ばかりです。
正しい節税と納税義務を果たすことで、スムーズな税務調査に臨むよう啓蒙する国税局OB税理士も、多々存在するのが現実です。
このような事態を少なくするために、根源となる要因を未然に防ぐ制度設計が必要なのは自明の理であり、そのためにも更なる事件の真相解明が望まれます。