JAつやまで残業代未払い6億の訴訟!鍵となる管理監督者とは?

労務

 岡山県津山市のJAつやまで、正職員の3分の2にあたる200人超が、残業代の未払い等を含んだ、約6億円をJA側に求めていることがわかりました。JA側は支払いの一部を免除するため、一部職員を残業代のいらない管理監督者とみなそうとしています。管理監督者とは、どのような実態を持っている必要があるか解説いたします。

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JAつやまで正職員が残業代等6億円巡り訴訟

 岡山県津山市のJAつやまで、正職員の3分の2にあたる200人超が、未払い残業代約3億円と、労働基準法違反があったときに裁判所が支払いを命じる付加金を含めた約6億円を、JA側に求めていることがわかりました。※1

 そもそも労使協定において、時間外労働と休日労働については、労働基準法第36条に定められる36協定が締結された上で、割増賃金の支払いが必要とされています。

 時間外労働の割増賃金の割増率は25%以上(月 60 時間を超える時間外労働については 5割以上(中小企業は適用猶予))、休日労働の割増賃金の割増率は35%以上の賃金割増が必要となります。

 ただし、労働基準法第41条では、これらの残業代について「管理監督者」は適用の対象外とすることも明示しています。

 これを逆手に取り、JA側は残業代を求める職員約200人のうち、10%に及ぶ人材を「管理監督者」に後日挿げ替えて訴訟に望んでいます。

 そうすれば、管理監督者とみなした職員に残業代を支払わないで済むからです。

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管理監督者とみなされる場合とそうでない場合

 では、労働基準法第41条が定める管理監督者とは、どのようなポジションにいる人なのでしょうか?

 世間的に管理監督者のイメージを聞けば、「部長、課長、取締役とか、そういうった偉い人でしょ!?」と考えられているかもしれません。

 しかし、労働基準法で定める管理監督者は、以下の要件を満たしていれば、役職がなくても、その立場に立っているとみなされます。

  • 1)経営者と一体的な立場で仕事をしている
  • 2)出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
  • 3)その地位にふさわしい待遇がなされている

 つまり今回の訴訟においても、管理監督者であるか否かは、社員の職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて実態により判断されます。

 3要件に実態として当てはまらないパターンは以下の通りです。

1)経営者と一体的な立場で仕事をしている

 
 管理監督者は経営者に代わって同じ立場で仕事をする必要があるため、その役割は非常に重要であることから、労働時間等の制限を受けません。

 もし労働時間の制限を受けている場合は、役職が取締役などであっても、管理監督者と認められない場合があります。

 また会社都合で、「課長」「リーダー」といった肩書きを与えられていても、自らの裁量で行使できる権限が限られていたり、多くの事案について上層部に決裁を仰がねばならない場合も、管理監督者とは認められません。

 会社によっては、営業のテクニック上で、セールス担当社員全員に「課長」といった肩書きをつけているケースもありますが、これも権限と実態がなければ管理監督者と見なされません。

2)出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない

 管理監督者は、先述の通り、労働時間等の制限を受けません。

 その理由は、時を選ばず経営上の判断や対応を求められることがあり、また労務管理においても一般の従業員と異なる立場に立つ実態があるからです。

 ですから、管理監督者の出退勤時間を会社が制限することもできないはずです。

 管理監督者と見なされる人が遅刻や早退をした場合に、給料や賞与が減らされるようなら、その人は管理監督者と見なされません。

3)その地位にふさわしい待遇がなされている

 当然のことですが、管理監督者は経営者に代わって同じ立場で仕事をすることもあるため、地位はもちろん、給料その他の待遇において一般社員と比較して相応の待遇がなされている必要があります。

 それがお金を直接生むわけでないバックオフィスの仕事であっても、営業や技術部門の管理監督者と同等の地位、給与等の待遇がなされていなければ、その人は管理監督者とは見なされません。

 中小企業で特に問題視されているのが、このように待遇が正社員時代と何ら変わらず役員になり、負担ばかりが増えた「名ばかり役員」です。

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ビジネスの仕組みを変えるか慎重な採用活動を行わねば同じことが繰り返される

 JAつやまの訴訟では、2014年に労働監督署がJA側に対して、是正勧告を提出した後、2015年になって一部職員を管理監督者とするなど、意図的な人事操作が見受けられ、被告にとっては厳しい訴訟となることが必至です。

 それと同時に、JAほどの金融バックグラウンドがある組織であっても、このように過酷な環境を強いなければならない、国内の労働情勢に危機感を覚えます。

 例えば農作物の担当であれば、仕入れ・出荷・販売担当者は、高度な専門性を求められます。

 一旦シーズンに入れば、野菜や果物は成長が止まらず、専門性ゆえに代替人員も少ないため、休日を週休2日で組むことなど出来ていないJAが殆どでしょう。

 かといって、人件費をかけて彼らのシフトに入る人員を今の2〜3倍に増やしたならば、利益が出るどころか、ただでさえ生産者に「安く売られている」と突き上げられるところに、増えた人件費分を負担してもらわねばならず、離反を増やすばかりとなります。

 他のJAでも同じようなことは起こっており、今回の過酷な勤務実態は、氷山の一角に過ぎません。

 もっとも、民間の営利団体では顧客を増やすために、ビジネスモデルを変えたり、ビジネス領域を変えることが普通ですから、根本的にはそれを成し得ていない上層部が、一番責任を取らねばならないのは明白です。

 国の雇用政策は、日を経る毎に従業員を保護する方向に向かっています。

 「いや、うちの会社は◯◯業界だからこれが当たり前なんだよ。」という身構えでは、「JAつやま」と同じような訴訟に今後巻き込まれる可能性があると、今から認識しておきたいところです。

 人を雇用することがますます困難を極める時代となっていることを、経営者として認識しておく必要がありそうです。

※1朝日新聞:農協正職員の3分の2が提訴 残業代3億円請求 岡山
http://www.asahi.com/articles/ASJ6F55HXJ6FULZU00V.html

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