20世紀型一流企業の不祥事に共通する「戦略と実行の間の溝」

経営

 20世紀に一流と言われた企業で次々と起こる不祥事には、「トップの戦略とそれを実行する現場の間で溝ができている。」という共通の特徴が見られます。なぜこのような問題が頻繁に起こるようになったのか?解決するために経営者へ求められる役割とは?

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一流企業が起こす不祥事には共通する傾向あり

 最近メディアを賑わせている20世紀に一流と言われた企業たちの不祥事。

 詳細な調査はこれからだったりもしますので、細かい内容についての言及は避けますが、こういう事件の報道を見る度に「”戦略”と”実行”の間に相当に大きな溝があったんだろうな」と私はいつも感じています。

 「戦略と実行の間の溝」とは言い換えれば、「トップと現場の間の溝」に過ぎません。

 本稿では、この溝をどうすれば埋められるのか?について考えてみたいと思います。

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一人のカリスマが全てを統治することは困難に

 20世紀はメーカーの時代でした。作れば売れるという環境下において、とにかくトップの号令もとに大量生産をいかに効率的に行うか、が成功の条件だった時代です。

 しかし20世紀の終盤、日本やアメリカをはじめとする先進国が成熟化社会に入っていくにつれて、大量生産が必ずしもうまくいかなくなりました。

 経済とは需要と供給のバランスで成り立っていますので、大量で供給する条件としてはそれに相応する大量の需要がなければなりません。

 社会が成熟化してくると、消費者はより細かい条件や個別の要求を持ち始めますので、このバランスが一気に崩れたのです。

 また、ITが急速に発展したこともこの動きに拍車をかけました。

 ITによって情報が瞬時に世界中で共有されることにより、消費者の地理的条件による情報格差は急激に解消されました。

 これまでベテランの”勘”や”経験”を頼りに、消費者の需要や社会の動向を読み、そこに向けて大量生産をかけることで成功していた企業たちが、ことごとくその読みを外して業績を悪化させたのです。

 20世紀はカリスマ型のリーダーを多く生みました。

 松下幸之助、本田誠一郎、盛田昭夫・・・日本の高度経済成長を支えたこれらの天才経営者は、このような時代の後押しもあって生まれました。

 しかし、もはやゲームのルールは一変しています。

 1人の天才の勘や読みで、消費者のニーズを適格に捉えることが不可能になってきているからです。

 また、あらゆることまでトップが目を光らせ、口を出すスタイルでは、実行のスピードは遅くなり、誤りを正すこともなかなかできません。

 たった1人のカリスマが、全てを統治するスタイルそのものに、もはや無理があるのです。

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経営者が戦略と実行の間の溝を埋める方法は?

 では、どうすれば「トップと現場の間の溝」を埋めることができるのでしょうか?

 トップの役割は、大まかな方向性を決め、また色々なコンフリクトが生じた場合の調整弁として機能しつつ、社外に対してのスポークスマンとして企業の顔になること、これだけで十分なのです。

 他の細かいことは現場に権限を大幅に委譲しなければなりません。もちろん、最終的な判断とその責任は、トップが負う必要があることは言うまでもありません。

 冒頭で「戦略と実行の間の溝」と申し上げたのはこの部分です。

 良い戦略とは実行をともなって、「良い戦略だった」と評価されます。

 つまり、実行なくしては良いも悪いもないのですが、コンサルティング・ファームやMBAが一般化するにつれていつの間にか、戦略だけが一人歩きするようになってしまったことに問題があります。

 つまり、本来はセットのはずの戦略と実行が切り離され、戦略だけが重要なものであるかのように扱われ、いつのまにか実行との間に大きな溝が生じてしまったのです。

 MBAの講義では様々な企業の成功事例をケースとして取り扱いますが、これらはすべて実行された結果として成功したので「良い戦略の事例」として取り扱われることが殆どです。

 戦略を立てたことだけでは何も解決していません。実行し、結果を出してこその良い戦略なのです。

 こう言ってしまうと身も蓋(ふた)もないですが、有名な事例の多くは結果論であることが少なくありません。全く同じことをもう一度やったとしても、成功するかどうかは分からないのです。

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達成できぬ戦略をトップが強制してはいけない

 しかし、過去の栄光を忘れられないトップはそうは考えません。

 「こうすればうまくいく」「俺のやっていることは正しい」という前提で組み立てられた戦略は、現場を置き去りにし、結局は実行が伴わず、失敗してしまいます。

 でも、トップはこう考えてしまうのです。 「戦略は正しかった。ただ部下が無能だったためにそれを実行しきれなかっただけだ」 と。

 繰り返しますが、実行された結果のみが戦略の良し悪しを決めます。実行されなかった戦略、実行しきれなかった戦略は、その時点で悪い戦略なのです。

 現場に大幅な権限委譲をしつつ、全体の方向性をコントロールし、判断を下し、かつ、結果も出すことは並大抵のことではありませんし、そのためのスキルが相当に必要になります。

 こうなればなるほど、日本企業の「現場たたき上げのトップ」というものは、今の時代には不要になってきてしまうのです。

 トップが現場に実行しきれないような「戦略目標」を押しつけ、それを無理矢理達成するために現場が不正に手を染める。

 トップはそれを知らなかったと言い、すべての責任を現場に押しつける。

 最近の不祥事は殆どがこの構図で説明できてしまいますが、これは結局トップの問題、言い換えれば戦略の問題であると考えています。

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正しい戦略を立てるため正しい情報を把握する

 その通りにやればうまくいく魔法の戦略などありません。また、実行できない戦略はそもそも戦略ではありません。

 「戦略の実行」の問題ではなく、そもそも戦略は「実行を伴うもの」であるということを認識しておく必要があります。

 最後に、もう一つ大事なことがあります。

 「正しい戦略」を策定するためには、トップは「正しい情報」を常に把握しておかなければなりません。

 把握している情報が常に正しければ、戦略も適格なものを策定することができるはずです。

 多くの企業のトップが、現場で実行不可能な、誤った戦略を立ててしまう原因のほとんどが、「正しい情報を把握していなかった」ことだと考えられます。

 経営者として、現場にしっかりと権限委譲すると同時に、正しい情報が上がってくるようにすること。これこそが今の時代の経営者の最も重要な仕事だと言えるでしょう。

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ショーン

某ビジネススクールのMBAホルダーで、税理士資格保有者。
税理士資格は持っていますが、最近ではほとんどそちら側のお仕事はしておりません。

金融機関、会計事務所、CFOなど経験から会計・財務・税務分野はもちろんのこと、法務や社内システムの構築、戦略策定、プロジェクトマネジメントなどを得意としております。また、「効率化マニア」なので、タスク管理や読んだ本のデータ蓄積などを通じて、限られた時間で最大のパフォーマンスを出す方法をいつも追求しています。

コンフィデンシャルなお仕事も多いため匿名でのニュース投稿になりますが、私の経験や知識が少しでも多くの中小企業経営者のみなさまのお役に立てれば思い、精力的に投稿していきます。

なお、ニックネームおよびプロフィール写真は、私の大好きなプロスノーボーダーである「ショーン・ホワイト」から拝借しました。

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