躍進する「いきなり!ステーキ」を支える“肉マイレージカード”

企業分析

 新規顧客を獲得することが難しくなった現代において、既存客をつなぎとめるための施策「CRM」に力を入れる企業が増えています。CRMの代表的な施策の一つはポイントプログラムです。中でも、近年躍進を遂げるいきなり!ステーキの肉マイレージカードに関する取り組みは、ポイントシステムをうまく活用しきれていない中小企業にとってお手本となるものです。

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新規顧客を獲得するコストは年々上昇している

 一般に、「新規客を獲得するコストは既存客を維持するコストの5倍必要である」ということが言われますね。

 実際、新しいお客様をゲットするのは非常にコストがかかります。

 しかも、ネットを通じて情報が簡単に入手できるようになった今、消費者もどんどん知恵をつけており、新規客獲得のための子供だまし的施策にはなかなか引っかからなくなっています。このため、新規客獲得の効率は低下傾向にあるのが現状です。

 そこで、既存客をつなぎとめるための各種施策、いわゆる「CRM(Customer Relationship Management)」に取り組む企業が年々増えてきています。

 前述したように、既存客を維持するコストは新規客獲得コストよりも安いだけでなく、せっかく高いコストをかけて獲得した新規客ですから、CRM施策を通じて固定客化を図らなければもったいないからですね。

 ゆえにCRMは企業の販促活動において、節約のメイン手段と言えるでしょう。

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中小企業はポイントカードを使いこなせてない

 さて、CRM施策の中の「王道」と呼べるのが、ご存じ「ポイントプログラム」です。

 1枚もポイントカードを持っていない日本人は、赤ちゃんを除いておそらくいないんじゃないでしょうか。

 近年では、共通ポイントカードの導入と普及が進んでいます。代表的なところでは「Tカード(Tポイント)」、「Pontaカード(Pontaポイント)」がありますし、オンラインでは、楽天の「スーパーポイント」を貯めている方が多いことでしょう。

 これら共通ポイントは、様々なお店の利用でポイントがつくため早くポイントが貯まります。消費者としてはうれしい仕組みですね。ファミリーマート、ローソンなど、毎日のように利用するコンビニエンスストアで使えるのでいつも持ち歩くことになります。

 一方、共通ポイントの普及で旗色が悪くなってきたのが、個店で発行している独自のポイントカード。

 無料で発行できるのでついつい作ってしまうのはいいけれど、実際のところ、その多くは数か月に1回程度の利用ですから、財布にいつも入れておくのは邪魔くさい。

 結果的に家に置いたまま、いざ利用する段になって「持ってくるの忘れた」となって意味がないこともしばしば起きます。こうなると、ちょっとがっかりした気分にもなり、CRM施策としては逆効果になっているかもしれません。

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いきなりステーキ・肉マイレージカードの取組

 このように個店発行のポイントカードを取り巻く状況は難しくなっていますが、このところ発行枚数を大きく伸ばし、リピート率の向上、さらにはファンづくりにも貢献している独自のポイントプログラムがあります。

 それは、「いきなり!ステーキ」の「肉マイレージカード」です。

節約社長
ランチ時には行列ができる店舗もしばしば散見される

 「いきなり!ステーキ」は立ち食いスタイル、高品質のステーキが格安で食べられるというコンセプトが受け、1号店開店からわずか2年余りで70店超へと店舗数を大きく増やしている人気店です。

 そして、同店が発行している「肉マイレージカード」は、文字通り毎回食べたステーキのグラム数が加算されていくところがユニーク。

 この肉マイレージシステムには、リピートを誘う巧妙な仕組みが用意されています。

節約社長
リピーターを生むしかけが豊富な肉マイレージカード

 肉マイレージに記録された累積3,000グラムを超えると「ゴールドカード」にランクアップ。

 ランクアップ時に1,000円クーポンがプレゼントされることに加えて、来店時には毎回ソフトドリンク1杯が無料になります。また、誕生月にはUSリブロースステーキ400gが無料で食べられます。

 さらに累積20,000グラムを超えると「プラチナカード」へとさらにランクアップ。ランクアップ時に3,000円クーポンプレゼント。誕生月には好きなステーキ400g無料。来店毎に好きなドリンク1杯無料となっています。

 このランクアップの仕組みは、がっつり肉食べたいという人にとって、非常にインパクトのある特典であると言えるでしょう。

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ポイントカードはただ作れば良いものではない

 肉マイレージは、ほかにもリピーターを増やす、とりわけコアなファンづくりの仕組みが提供されています。

 それは、肉マイレージ数に基づいて「肉マイレージランキング」が公表されており、アプリで確認できることです。

 1位を目指して肉を食べまくる人は全体から見ると少数派だとは思いますが、ランキングのような形で「ゲーム性」をもたせることは、月何回も利用するヘビーユーザーづくりに大いに効果があります。

 最新の情報によると、肉マイレージカードの発行枚数は20万枚程度。ゴールド会員はすでに3万人、プラチナ会員も1,000人に達しているとのこと。

 彼らの取り組みからは、ポイントカードやポイントシステムが、自社のサービスに合わせ、顧客への積極的なアプローチ活用があって初めて生きるもの、ということが学べますね。

 このところ、タンパク質を積極的に取る一方、糖質を制限する「ローカーボダイエット」の影響もあり、「肉食」の人気が高まる中、ユニークな「肉マイレージカード」によるCRMにも成功している「いきなり!ステーキ」の躍進はまだまだ続きそうです。

Photo credit: yto via Visualhunt.com / CC BY

企業分析
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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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