マイナンバー制度導入までの歴史と今後の問題点をおさらい

労務

 2016年1月から「マイナンバー制度」の開始が決定している。1968年に「国民総背番号制」の導入が検討されて以来、ついに政府の悲願が叶う形となっているが、制度運用にかかる膨大なコスト等問題は山積みである。また効率化の大義名分の元に、国民の利益を削ぐ危険性もマイナンバー制度は孕んでおり、国民は政府の動向を見守る必要がある。

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マイナンバー制度は行政効率化の要となるか

 2016年1月から「マイナンバー制度」の開始が決定している。

 個人情報の漏えい対策や情報システムの対応について数多く取り沙汰されている中、マイナンバー制度から浮かび上がってくる今のニッポンの姿を考察したい。

 マイナンバー制度とは、正しくは「社会保障・税番号制度」のことであり、住民票を持つ国民1人につき1つの番号を付けて管理するものだ。

 政府はマイナンバー導入の目的を ”社会保障、税、災害対策の分野での効率的な情報の管理” であり、”複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するため” としている。

 ”行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する” ことが期待されている。※1 ※2

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マイナンバーへ至る40年の歴史と制度の問題

マイナンバー制度施行までの歴史

 マイナンバー制度の導入にあわせて情報セキュリティ対策に注目が集まっている状況だが、そもそもマイナンバー制度に関わる経緯を紐解いてみたい。

 遡ること、1968年の佐藤内閣時代には「国民総背番号制」の導入が検討されていた。しかし計画は頓挫する。

 約40年経った2007年 第1次安倍内閣の時に「年金記録問題」が発覚する。財政赤字が膨れ上がる中でいわゆる”団塊の世代”の大量定年退職を目前に控えた当時、行政における管理体制のずさんさが大いに取り沙汰された。

 2011年に菅内閣は「社会保障・税番号大綱」を決定するも、政権の交代によって一旦は廃案となる。

 ついに2013年、第2次安倍内閣は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」に基づき、「社会保障・税番号制度」、つまりマイナンバー制度の導入を決定する。

 あわせて金融分野でも、個人のマイナンバーが利用できるようにする「番号利用法」の整備と、個人情報の取り扱いに関わる規定などを盛り込んだ「個人情報保護法」が改定されることになる。※3

今後の問題点とは?

 そのような中、今年の2月にNHKの「ニュースウォッチ9」では、終戦直後の1946年(昭和21年)に日本政府が施行した”預金封鎖”について取り上げた。※4

 預金封鎖とは、政府の場合、財政破綻から免れるために国民の資産を把握して、税金で国の収入を立て直すために行われる施策のことである。または市場に出回った通貨の流通量を制限するなどの金融政策が実施される場合もあるという。

 わかりやすく言えば、国の借金を国民に負わせる措置のことである。

 短絡的に、または安易に政府の財政再建策とマイナンバー制度を結びつけるわけにはいかない。

 しかしながら、少なくともOECD(経済協力開発機構)の諸国の中で、近年のギリシャ、スペイン、スロベニアと同等、もしくはそれ以上であり、増え続ける一方の日本の財政赤字は決して楽観視できるものではないことだけは事実だ。※5 

 また、深刻な労働力の不足問題も、一刻の猶予もならない事態である。

 昨年2014年に財務省が公開した資料の冒頭には、次の文章が下線付きで記されていたので原文のまま紹介しよう。※6

 財務省 日本の財政関係資料
「歳入の半分近くを借金に依存し、将来世代に負担をつけ回しているという我が国予算の異常な構造は未だ解消されておらず、政府債務が累増し続ける深刻な状態が続いています。」

 財務省 日本の財政関係資料
「既に国及び地方の長期債務残高の対GDP比が200%を超える中で、このように債務残高の累増に歯止めがきかない現状のままでは、日本の財政は持続不可能と言わざるを得ません。」

 財務省は同時に「リーマン・ショック後の日本の財政健全化のペースが各先進国と比較して遅く、債務残高対GDP比は”最悪の水準”である」ことも言及されている。※7

 マイナンバーにかかるシステムの総額は、初期費用に2700億円、年間の運用に200億から300億円と推定されている。

 マイナンバー制度の中核システムだけでも設計、開発にかかるコストは114億円、個人のナンバーを生成する「番号生成システム」には69億円がかかり、およそ365億円の構築費用、年間運用コストに190億円をかけて世間を騒がせた「住民基本台帳ネットワークシステム」のカスタイマイズも必要になる。

 また「システムの開発の遅れ」による品質への影響を懸念する声も聞こえている。※8

 ちなみに「住民基本台帳ネットワークシステム」の普及について、総務省の正式な公開情報は確認できなかったが、一説には「たった5%」とも言われている。

 マイナンバー制度に関しては、住民票のある国民全員が対象となるため、さすがに住基ネットと同じ轍を踏むことはないと願いたい。

 さらにマイナンバーの運用を行う予定の「地方公共団体情報システム機構」にまで目を向けると、理事は総務省に何らかのゆかりのあるメンバーと官公庁を得意とする大手システム開発会社の人員で構成されていることも大変興味深い。

 なお「地方公共団体情報システム機構」とは、住民基本台帳ネットワークシステムを運用する「地方自治情報センター」の名称が変わっただけの団体名である。

 住基ネットがスタートした後にウィルス対策の遅れを指摘されていた記憶が残っている方も多いだろう。

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集団化は国民の利益を削ぐ危険性と表裏一体

 マイナンバー制度の導入によっていつかは ”行政の効率化”や”国民の利便性の向上”、ひいては ”公平かつ公正な社会” が実現するのかもしれない。

 しかし、民主主義という名の大義を掲げたナショナリズムは、民衆を集団化させ、結果的に国民の利益を削ぐ危険性をはらんでいることを歴史が証明しているのではないだろうか。

 民主主義とは決して権力の多数決ではないのだ。

 昨年2014年にマイナンバー制度のイメージキャラクター「マイナちゃん」が一般公募の中から選ばれた。

 今年の4月3日、個人が利用するマイナンバーのシステム名称が「マイナポータル」に決まり、5月には経済再生担当大臣が自ら記者会見で「ゲスの極み乙女。」の替え歌を披露するなどしてマイナンバー制度をPRしている。

 国の制度はいったい誰のためのモノなのか?

 我々ひとりひとりに、政策の本質と動向を見守る義務があることを忘れてはならない。

参照元
※1 内閣官房 マイナンバー社会保障・税番号制度
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/faq/faq1.html

※2 内閣官房 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案(概要)
http://www.cas.go.jp/jp/houan/130301bangou/gaiyou.pdf

※3 個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案
http://www.cas.go.jp/jp/houan/189.html
http://www.cas.go.jp/jp/houan/150310/siryou1.pdf

※4 NHK「ニュースウォッチ9」で日本政府による預金封鎖の真実を特集
http://news.livedoor.com/article/detail/9795802/

※5 OECD Data
https://data.oecd.org/gga/general-government-deficit.htm

※6 財務省 日本の財政関係資料
http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/sy014_26_10.pdf

※7 財務省 各国の財政健全化に向けた取組について
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia260922/02.pdf

※8 マイナちゃん
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/gaiyou.html

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