イオンが業績回復。ただし、高収益の体質を取り戻すには2つの難題がある。

企業分析

 10月初旬に小売大手・イオンの半期決算が発表され、グループ全体の売上高、営業利益共に昨年対比で上回ったことが大きく報じられています。新聞報道は、「総合スーパーマーケット部門の立て直しが業績好転の要因」という見解を出しているところもあります。しかし、本質的な高収益体質を取り戻すには、総合スーパーマーケット部門も含め同社には、まだ2つの難題があります。

スポンサーリンク

業績好転もイオンが高収益の体質を取り戻すには、まだ2つの難題がある

 10月初旬に小売大手・イオンの半期決算が発表され、グループ全体の売上高、営業利益共に昨年対比で上回ったことが大きく報じられています。

 中間決算も前期赤字から今期は黒字へ転換と、良い流れになっていると言えるでしょう。

 新聞報道では、「総合スーパーマーケット部門の立て直しが業績好転の要因」と報道しているところもありますが、実際のところはどうなのでしょうか?

 結論から申し上げますと、業績好転は朗報ですが、本質的な高収益体質を取り戻すには2つの難題があります。

 数字を客観的に見ながら考えてみたいと思います。

スポンサーリンク

難題1:総合スーパーマーケット部門はまだ不振。赤字脱却に向け値上げが必須。

 まず、今回発表されたイオンの第2四半期決算短信を見てみましょう。セグメント別の売上・利益情報は以下の通りです。

節約社長
イオン株式会社:第2四半期決算短信

 この中に「GMS」というセグメントがありますが、これが何かと話題のスーパーマーケット部門です。

 半期で売上が1兆5,000億円以上あるのに、100億円の赤字です。

 スーパーマーケット部門はものすごい売り上げにもかかわらず赤字なのです。

 イオンのGMS部門は2014年頃から百億単位の赤字を計上しており、実際には売上も昨年の同じ半期決算で見れば减少しています。

 これを、他のセグメント(スーパー、薬局、金融)の業績好調によって支えている、という状態がイオンの実態です。

 GMS部門の売上は全体の35%近くあり、ここの数値が良くならない限り、高収益体質となるのは厳しいでしょう。

 なぜGMS部門が良くならないか?

 大量購買を目的として仕入れた商品が、自分達の望むほど消費者に買ってもらえないからです。

 この傾向は過去からあり、いつまでもスーパーに行けば、安く買えるという常識が通じなくなる可能性があります。

 スーパーではもう少し値上げをしないと、もうイオンもやっていけない可能性があるのです。

スポンサーリンク

難題2:収益を生み出している子会社に多数の非支配株主が存在する

 もう一つの難題は、収益を子会社の株主構成により取り切れていないことにあります。

 イオン全体の営業利益は約850億円です。ここから税金など諸々を支払いますが、それでも約380億円の利益が残る計算になります。

 ところが、親会社株主に帰属する四半期純利益は約42億円となっています。

節約社長
イオン株式会社:第2四半期決算短信

 なぜこのようなことになっているかというと、非支配株主に純利益を配分せねばならず、イオンの子会社ではあるものの、イオン以外の株主がいる場合に、その比率にあわせて利益を配分しているからです。

 その額は約330億円あまりに及んでいます。

 例えば100億円の利益のあるグループ会社があるとして、イオンが60%、その他の株主が40%持っている場合を想定してください。この場合の非支配株主に帰属する利益は100億円×40%の40億円であり、これはイオンの利益ではないため、PLの最後で控除することになります。

 利益を稼いでいるグループ企業の多くに、こうした非支配株主が存在しているということが見て取れます。

 イオンだけで勝手に処分しにくい利益ですので、今後、こうした企業の株をイオンで買い集めていく、あるいはイオンが100%あるいは大半の株を保有するグループ会社の業績をより改善していく必要があるのです。

企業分析
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします。
大原達朗

一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会代表理事・アルテパートナーズ株式会社代表取締役として、M&Aを手掛ける公認会計士です。

BBT大学、法政大学院イノベーションマネジメント科の教員も兼任しております。

大企業だけではなく中小企業にとっても、ユーザーフレンドリーな会計業界を、世界中に広めることが目標です。

M&Aの悩み(会社や事業を売りたい/会社や事業を買いたい/小規模M&A投資を検討している)があれば、お気軽にお問い合わせください。

運営サイト:
経営者のための実践ファイナンス

【現職】
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会代表理事
アルテ監査法人代表社員
アルテパートナーズ株式会社代表取締役
日本マニュファクチャリングサービス株式会社監査役
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科兼任講師
ビジネス・ブレークスルー大学大学院准教授
ビジネス・ブレークスルー大学准教授
PT. SAKURA MITRA PERDANA Director

【職歴】
1998年10月 青山監査法人プライスウオーターハウス入所
2004年1月 大原公認会計士事務所開設
2004年6月 株式会社さくらや 監査役
2006年1月 株式会社ライトワークス リスクコンサルティング部ディレクター
2007年4月 ビジネス・ブレークスルー大学大学院講師
2008年4月 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科兼任講師(現任)
2008年4月 アルテ公認会計士共同事務所開設 代表パートナー
2008年6月 日本マニュファクチャリングサービス株式会社 監査役(現任)
2009年4月 アルテパートナーズ株式会社設立 代表取締役(現任)
2010年7月 アルテ監査法人設立代表社員(現任)
2010年8月 日本M&Aアドバイザー協会 理事
2014年10月 日本M&Aアドバイザー協会 代表理事(現任)
2016年4月 ビジネス・ブレークスルー大学准教授(現任)

【所属団体】
日本公認会計士協会、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)、日本税理士会、日本CFO協会

【資格】
公認会計士、税理士、 JMAA認定M&Aアドバイザー (CMA)

【その他】
ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA/経営管理修士(専門職) 日本CFO協会主任研究員(2006年)

大原達朗をフォローする
節約社長