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松尾 順
松尾 順マーケティングコンサルタント

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タンス預金増加・ふるさと納税が浸透しない理由を行動経済学で説明しよう

タンス預金増加・ふるさと納税が浸透しない理由を行動経済学で説明しよう
 日本の現金残高は現在100兆円強ですが、その40%に及ぶ40兆円超はタンス預金として保管されています。2千円を超える分のほとんどが現金還付、あるいは税額控除で戻る、あまりにもオトクなふるさと納税も未だ利用世帯は全体の4%程度。これら人間の理屈で説明できない不可解な経済行動は全て、行動経済学の「損失回避傾向」に基づくものなのです。

40兆円超えのタンス預金〜金庫需要も大幅増へ

 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

 最近ニュースでよく取り上げられるのが、「タンス預金が増えている」という話です。

 日本の現金残高は現在100兆円強、うち40兆円超がタンス預金、すなわち銀行などに預けることをせず、自宅に現金として保管されていると推測されています。

 「タンス預金」と呼ばれるように、現金をそのままタンスに隠している方も相当数いらっしゃると思いますが、さすがに盗難が怖いのでしょうか、このところ「家庭用金庫」の需要が伸びています。

 1万円札で4億円分入る金庫も発売されています。ということは、これだけの大金を自宅に置いている人が現実にいるということでしょうね。

行動経済学から見たタンス預金が増える理由

 また、孤独死する高齢者が増加していることから、本人の死亡後、タンス預金の存在に気づかず処分してしまった後、ごみ処理施設や廃棄物収集会社で現金を見つけるケースが相次いでいます。

 警察庁によれば、2016年に拾得物として届けられた現金は177億円に上り、近年は増加傾向とのこと。現金拾得物の増加の背景には、タンス預金をしたまま亡くなる高齢者の存在があると考えられます。

 さて、いくら低金利時代とはいえ、数千万円~数億円となれば、そこそこの利息になりますし、資産運用すればそれ以上の収益が得られます。もちろん、資産運用にはリスクが伴いますが、リスク低めの金融商品はいくらでもあります。

 それでもタンス預金が増えているのはなぜでしょうか?

 実は、高齢者の場合、足腰が弱って銀行に行くのも一苦労という人もいます。都会では銀行だけでなく、コンビニにもATMがあり、簡単に現金を下ろせますが、地方に行くと、銀行までは車でないと行けず、最寄りのコンビニまでも徒歩15分かかるというのも珍しくありません。

 また、カード決済も他国と比較してまだまだ日本では普及しておらず、現金払いが好まれる傾向が強いことも、手元に現金を置いておきたいという気持ちにつながっていると思われます。

 ただ、これらの要因以上にタンス預金の増加に対して大きな影響を与えているのは、やはり「損失回避傾向」の高さでしょう。

 「損失回避傾向」とは、行動経済学において最も重要なキーワードのひとつです。人は、得をすること以上に、損することを避けたがる、という一般的な人間心理です。

 シンプルに考えて、新たに何かを手に入れる喜びはもちろんわかるでしょう。しかし、すでに手に入れたもの、とりわけ、「手元にあるもの」を失うことはとても辛いということには、より一層共感できるのではないでしょうか?

 物理的に手元になくても、銀行口座に入れてあれば自分の所有物であることには変わりありません。しかし、目の届かないところにあるとやはり、不安を感じるものです。

 わずかな金利を得たり、リスクを取って金融商品を購入するよりは、手を伸ばせばすぐにそこにある「タンス預金」にして置きたいという気持ちは根強い「損失回避傾向」から来ているわけです。

ふるさと納税が浸透せぬ背景にも「損失回避傾向」の影響あり

 ついでながら、「損失回避傾向」が利用の障壁になっていると思われるものに「ふるさと納税」があります。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、所得に応じて限度額があるものの、実質2千円の支出で済むという制度。

 例えば、5万円までふるさと納税が可能な方がフルに枠まで納税すると、返礼品として、食料品から雑貨、旅行券など様々なものが得られ、確定申告すれば2千円を超える分のほとんどが現金還付、あるいは税額控除という形で戻ってきます。

 最近、返礼品が過剰になりすぎたとして、政府からの指導が入り多少魅力が落ちたものの「ふるさと納税」はフルに活用しない手はないお得な制度です。

 ところが、意外に利用したことがない人が多いのです。

 最新の統計データを見ても、平成28年のふるさと納税利用件数は225万件あまり、全5340万世帯から見ても4%強の利用実績しかありませんが、利用する世帯は複数申し込む傾向があるため、実態のパーセンテージは更に低いことでしょう。

 ふるさと納税がこれほど得する制度なのに、多くの人が利用しない背景にも、やはり「損失回避傾向」があると言えます。

 私もそうでしたが、利用する前は仕組みがよくわからないとか、確定申告がめんどくさそうだという気持ちがあり、なかなか手を出しませんでした。

 実はこの「いろいろ調べて理解する手間や時間、また確定申告の手間・時間がめんどくさい」というのは、まさに自分の手間・時間を損したくない(実際には損しないけど、まず手間・時間を先にかけなければならない)という意識が働いているということです。

 今年、ふるさと納税で5万円なり10万円を収めたとして、還付金が振り込まれるのは来年の春です。国の制度ですから、戻ってこないということはないのですが、先に支出しなければならないわけですから、まさに手元のお金をいったん失う行為です。

 このあたりが微妙に心理的なブレーキをひく要因になっているように思われます。

 一度でもふるさと納税を体験すると、意外に確定申告も難しくはないし、とにかく得だという実感があるのでまたやろうという気になる方が多いでしょう。

 したがって、ふるさと納税のさらなる利用促進には、損失回避傾向を軽減する工夫が必要だと思われます。

 まあ、あまり利用されると、ふるさと納税者の居住地域の税収が減少するという問題がありますから、利用されすぎないくらいがちょうどいいのかもしれませんが。

2017年9月28日

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