京都祇園の女将に学ぶ〜自らの「運命」「宿命」を受け入れ「立命」すること

経営

 京都祇園にある老舗のお茶屋「富美代」を受け継ぐ女将には、“一生涯結婚してはならない”というしきたりがあります。しきたりに抗いながらも遂には自らの宿命を受け入れ、店を数十年に渡って切り盛りしてきた8代目女将、彼女の跡を受け継ぎ9代目女将となることを決めた娘、彼女たちが宿命・運命に向き合い、やがて立命する姿は、より良い人生を送るためのヒントを与えてくれます。

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京都祇園・老舗のお茶屋「富美代」の女将に定められた家訓

 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

 訪日外国人に一番人気の観光スポットは、なんといっても「京都」でしょう。日本文化を堪能できる多数の神社仏閣がありますから。

 さらに、京都での楽しみのひとつは、祇園や先斗町にある風情を感じる街並みの散策。しばしば、優雅に歩く芸妓さん、舞妓さんに会うチャンスもありますね。

 さて、先日放送されたNHKスペシャル、「祇園 女たちの物語 ~お茶屋・8代目女将(おかみ)~」は、老舗のお茶屋「富美代(ふみよ)」に生まれた女将、太田紀美さんの生きざまを追った素晴らしい内容でした。

 富美代には代々伝わる家訓があります。

 ひとつは、富美代に生まれた女性は女将の跡をつがなければならないということ。もうひとつは、女将は一生涯結婚してはならないということです。

 ちょっと矛盾していると感じますが、富美代の女将は結婚できないけれど、後継ぎの女性を必要とするのです。したがって、未婚のまま子供を産むか、子供がいないときは、養子を迎えてきたとのこと。

 紀美さんの場合、結婚はしなかったけれど、愛した男性との間にできた女児を産み、先代と同じく未婚でその娘を育ててきました。そして今年、紀美さんは自分の娘、直美さんに、創業200年を迎えた富美代の9代目女将を継がせることを発表したのでした。

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8代目女将から9代目女将に受け継がれる定められた「宿命」

 紀美さんは物心ついたころから、自分は富美代を継ぐ人間であり、結婚はできないことを理解していました。そして、若くして8代目女将となったのですが、その後、お客の一人だった年下の男性と恋に落ちます。

 当時、紀美さんは女将の座もなにもかもを捨てて、その男性と結婚しよう考えたほどでした。もちろん、そう簡単に決心できることでもなく、「いっそお茶屋が燃えてしまえばいいのに、、、」と、思わず願ったほどでした。

 しかし、最終的に紀美さんは娘を出産後、やはり結婚をあきらめて富美代に戻り、女将の道を邁進してきました。

 さて、紀美さんは、生まれた瞬間から次の女将になることを「宿命」づけられていました。紀美さんの娘である直美さんも同様に、9代目の女将となることが「宿命」、結婚はできないとういうのも宿命です。

 直美さんもその宿命を知りながら、若い頃に一旦祇園を離れ海外留学し、アートに対する造詣からギャラリーを京都で開くなど、外の世界と祇園のしきたりの違いを知るゆえに戸惑い、自分に課せられた「宿命」を完全に受け入れることが出来ていませんでした。

 彼女は母を支えてお座敷の手配を手伝うものの、最初のうちは、これを「義務」と語っています。

 しかし、77歳になった紀美さんが長年のお座敷仕事で足が自由にならなくなったのを見た時、直美さんは遂に女将としての立場を受け継ぐことを自ら決め、それでも働こうとする母を止め、自らお座敷を仕切り始めます。

 富美代200周年の記念パーティで、直美さんは初めて9代目女将として挨拶します。

 直美さんに待っていたもの、それは会場に駆けつけた200名の馴染み客からの喝采と惜しみない拍手でした。

 彼女がその光景を見て、自らについて語った言葉、それは、「女将さんになるために生まれてきたというか、宿命だと思っていますね。」というものでした。

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選択できない「宿命」予測できない「運命」とどう向き合うか?

 「宿命」とは、命に宿すと書きますが、まさに生まれたときにすでに背負っているものが「宿命」なのです。

 あなたも、私も、すべての人はなんらかの宿命を背負っています。例えば、どの国のどの時代に生まれるか、誰を親として生まれるか。

 宿命によって自分の人生が決まってくる部分はかなり大きいものがありますね。今、内戦中の国に生まれ、育った人々は日々、死の恐怖におびえていることでしょう。愛する祖国を離れ難民生活を余儀なくされている方もいらっしゃるでしょう。

 自分で宿命を選択することはできません。生まれてくる国は選べない。他国と比較して平和な日本に生まれ育つという宿命はとても幸せなことなのです。

 もちろん、宿命だけで人生が決まるわけではありませんね。

 生まれてからの様々な人々との出会いや、岐路における、自分自身の選択によって、人生という道は多くの場合行ったり戻ったり、ジグザクな線を描くものです。

 偶然であれ、自分の選択であれ、その後にどのような展開が待っているかはほとんど予測できません。うまくいくときもあれば、うまくいかないときもある。

 たいていは、自分の期待や予想とは違う展開が待っています。私たちはこれを「運命」と呼びます。「命」が動く、だから「運命」です。自分としてやることはやったとしても、その結果は“神のみぞ知る”です。

 長い人生の中で、私たちはやることなすことうまく行かない、という時期を経験することがあります。その時、自分の「運命」に嘆き、絶望感を抱くかもしれません。

 でも、そんなときでも、自らの行動によって状況を打開できる可能性は残されています。

 自分の意思と行動によって「運命」は変えていくことができる。

 自分の行動の結果は予測できませんが、これ以上悪くなりようがないというどん底においては、多くの場合、自らの行動がより良い結果をもたらしてくれます。

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「宿命」を呪わず「運命」を乗りこなすことで「立命」する

 今の「運命」を嘆いたり、あるいはもっとさかのぼって「宿命」を呪うのではなく、能動的に運命を揺り動かし、自分にとってより良い人生を生み出そうとすること、それを「立命」と呼びます。

 昔人気だったテレビアニメ、「まんが日本昔ばなし」を見たことがある人は思い出してみてください。最初にテーマ曲が流れるとき、空を駆ける龍に乗る子供が描かれていました。実は、あの龍と子供には深い意味が隠されているのです。

 あの龍は「運命」であり、あの子はその運命を乗りこなしていた。つまり、運命に流されるのではなく、運命を乗りこなす。こんな生き方が「立命」です。

 富美代の紀美さんも、もってうまれた宿命、そして予期せぬ展開もあった運命を受け入れつつ、それを自分にとって最高の人生とするために懸命に生きてきたのでしょう。

 紀美さんの生き方はまさに「立命」と言えるのではないか、私は番組を観ながらそんなことを考えていたのでした。

 あなたの人生は「立命」ですか?

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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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