既存客との値上げ交渉シンドイ⇒通信業界の値上げテクニックに学ぼう

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 「値上げをして離れるお客様はそれまでだ。そんなお客様は切れ。」とはよく言われますが、言葉の表面を鵜呑みにすると、かえって会社の命取りとなることがあります。そこで本稿は、「ライフタイムバリュー(生涯顧客価値)」を重視する通信業界の各社が実施する、既存客をすんなり納得させる値上げテクニックをご紹介致します。

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既存顧客との値上げ交渉は難易度の高い実務

 どんな業種業態でビジネスをしていようが、難易度の高い共通の実務があります。

 それは顧客に値上げを納得してもらうことで、特に既存顧客との間で商品の値上げ交渉を行うことは困難を極めます。

 下手な値上げは既存の顧客を失うきっかけとなるため、できることなら値上げせず、穏便に済む方法はないだろうか?と考えるのが普通でしょう。

 この問題に対する解決策としてよく言われるのが、「値上げをして離れるお客様はそれまでだ。そんなお客様は切れ。自分がどんなターゲットを相手に、より高い値段で商品を販売できるかを明確にし、良い商品を売るのがビジネスの鉄則である」というものです。

 一見、この考え方はひどく正しいように見えますが、極論すぎて実行することが非現実的に思えませんか?

 取引先の数が限られていたり、キャッシュがきつい会社にとっては、この言葉を鵜呑みにするのが命取りとなることすらあります。

 それでも、コストの上昇を企業努力で吸収し、価格維持が難しい状況が見えてきたなら、たとえ相手がお得意様と言っても、値上げを避けることは難しくなります。

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通信業界の値上げテクニックは学ぶ価値あり

 そこで紹介したいのが、通信業界各社の値上げテクニックです。

 携帯電話のキャリア側は、サービス開始当初は格安サービスを提案しますから、利益をその顧客からあまり取れず、むしろ赤字となることがあります。

 しかし彼らは、その顧客に10年20年と契約を継続してもらうことで、「ライフタイムバリュー(生涯顧客価値)」を高めることで、利益を得ています。

 その際には、必ずどこかで顧客に値上げを受け入れてもらう必要があります。

 彼らの料金値上げにおいて特徴的なのは、値上げ時期が来ることを顧客に伝える際、タイミングを先延ばしにして、少なくとも半年から数年後に値上げするのを前提としていることです。

 たとえば、ブロードバンド契約を例にあげると、月額3,000円前後の料金を2年間契約として、2年後に契約更新を行う形がメジャーですよね。

 契約したことのある方は経験があると思いますが、ブロードバンドについて新規顧客として契約を結ぶ際は、2年目以降の値上げについて必ず提示されます。

 そうすることによって、顧客があまり反論することもなく、素直に新規契約や契約の更新を行うことを知っているからです。

 では、たとえば、更新契約の2年目に正規料金へ変更するのが嫌で、解約する旨を顧客が伝えてきた場合があったとしたなら、各キャリアはどう交渉してくるでしょうか?

 彼らは、「更に2年契約更新を行えば、あと1年は現行料金で良いとして、2年目(全契約で4年目)から正規料金へ変更(値上げ)するのはどうだろうか?」と、

  • 現状価格の一定期間維持
  • 遠い将来の値上げ

 をセットで顧客へ提案してくるはずです。

 こうして大半の顧客は値上げを受け入れ、同じキャリアとの契約を更新し続ける仕組みができあがります。

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目先の利益を欲しがる「現状維持バイアス」

 人間が将来の利益よりも、目先の確実な利益を獲得しようとすることを「現状維持バイアス」と言います。

 夏休みがはじまったばかりの小学生が、たとえば膨大な宿題を学校から渡されていたとしましょう。

 でもほとんどの児童は、友達に遊びに行こうと誘われれば、それが7月20日ならば、目先の利益(遊び)を将来の利益(余裕のある夏休みの後半を迎える)に対して優先しようとしますよね。

 これが現状維持バイアスです。
 
 値上げ交渉の際も、目先の現状維持と引き換えに将来の値上げを要求すると、相手側に現状維持バイアスが働くため、反論する人の割合が減ることが、海外の実験では実証されています。

 移行期間中に、適正な値上げアナウンスを相手に与えながら商品の付加価値を高めて、周囲(新規顧客や値上げをのむ既存顧客)で着々と値上げを実施し、「値上げ価格は常識」という状況を作ることで、値上げまでに一定期間を設定した企業に対しても、将来の値上げは行いやすくなります。

 ここまでして、顧客が値上げを拒否するようなことを言ってきた場合は、彼らを捨て、値上げ価格開始までのタイムラグに作った新規顧客との取引に思い切って舵を切る時かもしれません。

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